第32話 勘違い発動

 あらら、これは難しいかな。


 見たところ、年齢は二十代中盤。


 これから鍛えるとなると、中々に難しい。


 今鍛錬を受けてる人達は元々経験があったり、十代が多いからなぁ。


「ゴホッゴホッ……!」


「終わりですかね?」


「そ、そんな……」


「悔しいでしょうが、気持ちだけではどうにもなりません。戦いに行くということは、相手に背中を預けることになるのですから」


 その言葉に、オルガさんが下を向いて蹲ってしまう。

 その姿を見ると、前世の自分の記憶を思い出した。

 何をやっても上手くいかず、どうして人は出来るのに自分は出来ないんだという経験を。

 それはとても辛く、胸が痛いことを。


「シオン、どうにもならない?」


「主君……物にはなるかもしれませんが、いかんせん我々には時間も余裕もありません」


「それはそうだけど……」


 でも、こういった人を見捨てるのは嫌だなぁ。

 できない辛さは知ってるし。

 すると、オルガさんが立ち上がる。


「いえ、良いんです……どうせ、オイラなんて」


「ですが、門番としてなら良いかと。もしくは一兵卒として鍛錬をするか」


「……いえ、オイラは領主様を守れるような男になりたかったです。それこそ、騎士のような」


「そうですか……それなら仕方ありませんね」


 そうして、オルガさんが背中を向けて去っていく。

 騎士になりたいか……その時、俺の頭に電撃が走る。

 もしや、彼は重要キャラなのでは? 実は裏設定とかあったり。

 だとしたら、逃すわけにはいかない。


「ちょっと待って!」


「へっ? な、何ですか?」


「そんなに泥だらけの傷だらけで帰せないよ。ほら、こっち来て」


「主君? ……まあ、仕方ありませんね。では、参りましょう」


 戸惑うオルガさんを連れて、銭湯にやってくる。

 まずはヒールをかけ、風呂場に行って湯船に浸からせた。


「ヒ、ヒールをかけてもらった上にお風呂まで……すみません」


「いやいや、そこはありがとうでしょ」


「あっ、いえ、それは感謝していますが……せっかく時間を取ってもらったのに」


「あぁー、そういうことね。大丈夫、気にしない気にしない」


 そのまま、二人きりの中沈黙が続く。

 相手からは話さないので、俺から切り出すことにした。


「あのさ、言っちゃなんだけど、どうしてここに? 都会に行くとか、他国に行くとか考えなかったの?」


「考えなかったといえば嘘になりますが……小さい頃に、爺さんが言った言葉が忘れられなくて。わしが若い頃は、どの種族も仲が良くて平和だったって。なので、それを目指して頑張っていたんですけど……特に何もできずに腐ってました。オイラは鈍臭いし、あんまり役に立てなくて」


「でも、今は違うんでしょ?」


「は、はい! エルク殿下がきて、もう一度やる気を取り戻しました! だから、オイラも手伝いたいって思って……」


「そっか」


 ふむふむ……きちんとしたバックボーンもあると。

 しかも何だか、大器晩成型のキャラみたいだ。

 こう、いざという時に頼りになる的な。

 大魔導士ポッ◯みたいな。


「あの? 何かまずい事言いましたか?」


「いや、気にしないで」


 まてよ? 彼が重要キャラだとして、エルクの元を訪ねるのがストーリーだとしたら?

 当然、以前のエルクであればめんどくさいので門前払いだろう……その後、主人公に出会うパターンか!?

 よくあるやつ! 役立たずだと言われてた青年が、仲間と出会って覚醒するやつ!

 これは逃しちゃダメだ! 俺の破滅回避のために!


「別にいいんです、もう田舎に帰りますから」


「ダメだ!」


「へっ?」


「それでいいのかい!? 君の想いはそんなものか!?」


「そ、そりゃ、出来たら祖父の夢を叶えて……」


「なら俺に頼むといい! どうかチャンスをくださいと!」


「……お、お願いします! もう一度だけチャンスを!」


「よく言ったね。よし、後は俺に任せて」


 主人公の仲間を増やさせるわけにはいかない。


 そして彼が重要キャラなら、何か特別な力があるかもしれない。


 どちらにしろ、破滅回避のために役立ってもらわないとね。

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