第7話 恥ずかしくて最低
八百津くんは、いつでも私の話を聞いてくれると思っていた。
八百津くんは私より二歳若かった。若いのに落ち着いていて知識も豊富だった。あんまり恋愛に興味がないのか、彼女がいるといった話は聞いたことがなかった。
私もなんとなく、八百津くんと恋愛することはないだろうと思っていた。きっとみんなそんな感じで、八百津くんとは気軽に交流していたのではないかと思う。
けれどももう、そうじゃない。八百津くんに気軽に連絡なんてできない。
あれ? 何でそう思うのだろう。友達だと思っていたのに。そう、思っていた。私が私だけが、一方的に。
八百津くんからしたら、私は友達じゃなかったのかもしれない。そういえばいつでも私から、メールを送信していた。
同性の友達と、なにが違ったのだろう。これが同性の結婚報告ならば、私は喜び溢れるお祝いメールを送信しただろう。男と女の友情は、ありえないのだろうか。
私は八百津くんのことを、本当はどう思っていたんだろう。八百津くんが結婚するということは、今までみたいに「あそこの〇〇っておいしいの?」などといったメールは送信できない。奥さんからしたら、他の女からそういったメールがしょっちゅう送られてくるのは嫌だと思うから。じゃあどういったメールなら送信できるのか?
複数人で集まるけど来る? とか、そういった連絡だろうか。複数人が絡むなら、私が連絡しなくてもよいじゃないか。重い、いちいち重い。
もう八百津くんのことは考えないようにしよう。しかし披露宴の出欠返事はどうしよう。正直行きたくないと思ったけれども、新婦の顔が見たいのも本音だった。今日明日に出す必要はない。もう少し考えてみよう。
そうだ、宮川さんに集中しよう。なんせ、宮川さんは毎日会社で会う人だ。ロマンスが起こるとしたら宮川さんのほうが現実的ではないか。今日はいつもより念入りにシャンプーをしよう。
念入りにシャンプーをして、シャンプーとお湯が顔にだらだらと垂れてくる場面が浮かび上がる。なぜだろう。
気持ちを入れ替えて、出社をする。自分でもつかみどころのない感情でもやもやするのはよくない。目の前の宮川さんを見つめよう。今朝はいつもより丁寧に髪の毛をブローしてきたし、爪にオイルを塗って保湿もしてきた。
今日も強引に部品室に用事を作った。なんでもない風を装い、部品室に向かう。
途中の廊下で宮川さんを見かけた。可愛い女子と話をしていた。見たことがある顔だ。毎朝トイレですれ違う女子だった。髪の毛がツヤツヤしていてはかなげな印象の、守ってあげたくなるような女子だった。いつも向こうからあいさつをしてくる。
けれども羨ましいとは思わない。そう、彼女の体型は少しいびつなのだ。はかなげな印象なので細身かと思うのだが、バランスがよくない。たぶん足が短いのだ。そして身長は小柄だった。
私は百六十三センチある。標準よりは少し高く、比較的細身なのでスラッとして見える、よくそう言われる。
顔は確実にあの子のほうが可愛い、けれどもスタイルは私のほうがよいだろう。
宮川さんとその女子をチラッとだけ見て、無関心を装い通りすぎる。
なにを話しているのだろう。宮川さんも女子も笑っている。宮川さんは私と話すとき、あんなに笑っていただろうか。
ああ、宮川さんと私は、目線があまり変わらない。宮川さんの身長は百七十センチを少し超えたくらいだと思う。あまり身長が高くない男性は、小柄な女子を好むと聞いたことがある。そんなことを思って納得している自分がいる。
なにを張り合おうとしているのだろう。急に恥ずかしくなってきた。自分の欲望で宮川さんと接触を試み、それが叶わなかったからといって宮川さんの身長に関する心の内を勝手に想像して納得している。なんて傲慢で自分勝手。こんな醜い心を持った私が、美しいわけがない。
私はいつだってそうだ。自信がない。自信がないから他を低く見ることによって安心している。最低なやりかたではないか。どうしてそんな人間になってしまったのだろう。
私は自分の人生を振り返ってみる。
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