Regainーともに歩き出すー

@maki33

プロローグ

いなくなれ、犯罪者、死んでしまえ。


 その言葉に目が覚める。薄ら笑いでおれを見つめる顔が見える。頭を振り、少し汗ばんだ額を触った。

「また、夢かよ…」

 誰もいない部屋で呟く。その言葉はどこに行くでもなく部屋の中をさまよっているように思えた。

 あの時からだ。あの時から、良い夢を見ていない。

―夢さえもおれから奪うんだな。

 立ち上がりキッチンへ行き、水を一杯飲んだ。そして、眠れそうもないので、部屋を明るくし、周りに置いてあった中から一冊の本を手に取った。

 分厚く重みがある本だ。ほとんどの人が敬遠するその重みに安心する。

 ページをめくり、読むことに集中しようとする。しかし、先ほどの夢が気になり、物語の中に入っていけない。

 そして、少し昔のことを思い出す。仲が良かった家族、たくさんいた友人、充実していた学校生活。少し昔のことが遠い昔のような感じがする。

 どうして、という思いが浮かぶ。

 どうして、こうなってしまったんだ。どうしておれだったんだ。

 時々、何もかも放り出して、ここから逃げたいとも思う。しかし、そこまで大胆なことはできない。そして、勇気もない。

 窓辺に行き、夜空に浮かぶ、月を見上げた。

 このまま夜でいいのに。

 そうすれば、自分だけの世界に引きこもっていられる。そんな絶対に叶わない願いが頭に浮かび、笑えてきた。

 明日は絶対に来るのだ。例え、何の希望がなかったとしても。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る