ショートコメディ福袋
夏目 漱一郎
第1話地球最後の日
You tubeでは、【2024年7月 南海トラフ巨大地震で日本滅亡!】なんて根拠も何もないタグを付け終末を予言する動画が数多くUPしたが、ついに予言では無い。しかも日本のみならず地球規模の危機をもたらす大問題が起きようとしていた。
巨大な隕石が地球に向かって近付いて来ている。アメリカ、NASAチームからの報告では、もはや隕石の衝突は免れない。それを回避するには、隕石の軌道を変えるか、あるいは隕石を破壊以外に方法は無いとの事だった。
その報告を受け、アメリカ政府は中国と合同作戦を実行。あの大ヒットハリウッド映画『ア◯◯ゲドン』を真似て有人のロケットを打ち上げるが隕石の破壊には至らず、あえなく失敗………そして、人類存亡の最後の砦は日本のとある研究所が偶然発明した『レーザーを照射して物質を内側から破壊する』装置に委ねられる事となった。
隕石衝突から人類を救う最後の砦となった日本。その作戦の完遂を見届ける為に日本政府から岸辺総理、金原防衛大臣、そして、衆議院議員 真実一路(まなみ かずみち)の3人が、現場である【沢田研究所】へと駆け付けた。
2024年1月5日 午後2時…………
「いやぁ〜しかし、新年早々大変な事になりましたなあ〜」
「まったく……私、昨日初詣に行ってね…その時におみくじ引いたんですよ!『大吉』だったんでこりゃ新年から縁起がいいって思ってたんですがねぇ〜」
「大臣、そりゃお気の毒。しかしこれは考えようによってはチャンスですよ!今回の作戦が成功したら、我々民民党は人類を危機から救ったヒーローですからなっ♪支持率50%に返り咲くのもやぶさかではありませんぞ♪」
「ええっ!50%なんて夢みたいな話じゃないですかっ!」
「そうですよ、なにしろ銀座へ飲みに行ってもホステスの態度が全然違いますからね」
「そうなんですか?やっぱり『腐っても与党』ですな〜」
失敗すれば人類滅亡という緊張感などまるで感じられない総理と防衛大臣 金原の二人は、約束の時刻よりおよそ三十分遅れで例の装置を所有する『沢田研究所』へと到着する。研究所では、本作戦の主役となる沢田博士とこの研究所におよそ一時間前に入り、装置のセッティングを手伝っていた衆議院議員 『真実 一路』が二人の到着を今か、今かと待っていた。
「沢田博士〜♪新年明けましておめでとうございま〜〜す♪」
「おめでとうございますじゃないっ!アンタ達、こんな大事な日になんで遅刻して来るんですかっ!」
「あ、マナミちゃん明けましておめでとう〜〜♪」
「ちっともめでたくないっ!今の状況分かってるのかっ!」
この作戦は、レーザーの照射可能距離、隕石のスピード、破壊された時の破片の軌道等………様々な観点から開始時刻を決定しており、総理達の三十分の遅刻はこの作戦に致命的な影響を与えていた。
「沢田博士、予定より時間が大分押しています。そろそろ発射の方を………」
「へぇ〜これがレーザー発射装置ですか、思っていたより随分コンパクトですな〜♪まさか家庭用コンセントで動くとは思わなかった」
「いやぁ〜時代はエコですからな♪そこのところはこだわりましたよ」
「いいなぁ〜これ、北朝鮮のミサイルとかも撃ち落とせるんじゃないですか?」
「そうですなぁ〜♪防衛省で買ってくれませんかね、これ」
「うわ〜それじゃ博士、一躍大金持ちじやないですか♪僕、いいキャバクラ知ってるんで今度一緒に飲みに行きましょうよ♪」
「お〜それはいいですな〜♪是非今度………」
「いつまでくだらない話をしてるんだお前らはああああっ!もう時間が無いんだよおおっ!」
本当に、この場に真実が居て良かった。もし真実が居なかったら世間話に花を咲かせているうちに地球が滅んでしまうところだった。
「博士、これが失敗に終わったら人類は滅んでしまうんですからね!よろしくお願いしますよ!」
「大丈夫ですよ、既に照準は合わせてあるしあとはこのボタンを押すだけです」
沢田博士は真実の忠告に対し自信たっぷりにそう答え、運命のボタンを力強く押した!
「何も発射されない様だが?…………」
「あれ?おかしいな………そこ、コンセント抜けてないですか?」
「コンセントは刺さっている様だが………」
「う〜ん………じゃあ、停電とか?」
「それはありません、念のため私が前もって電力会社に問い合わせたところ、この地区で今日停電の予定は無いとの回答でした」
さすがは真実である。万が一の事も考え、そこまで抜け目無く下調べをしていた。しかし実際に電気はきていなかった………その事を総理が指摘する。
「でもマナミちゃん、さっきから暖房も切れてるみたいだしテレビもついてないよ」
「だとすると、もしかして街がパニックになり変電所か何かが破壊されたのかもしれない!ちょっと私、外の様子を見てきましょう」
このまま電気が来なければ大変な事になる………真実は、玄関のドアを開け外へと走った!
「しかしおかしいなあ、さっきまで確かに電気が来ていたのに………」
「まあ、とにかく真実君が戻るのを待つとしようじゃないか」
やがて、真実がドアを勢いよく開け戻って来た!息を切らせ、右手に何か紙のような物を持っている。
「おや、マナミちゃん早かったね。………何、その右手に持ってる物?………」
◇東京電力からの大切なお知らせ
毎度ご利用いただきありがとうございます。沢田研究所様の10月、11月、12月の電力使用料金が未だ未納です。つきましては2024年1月5日の午後2時までに入金の確認が出来ない場合、電力の供給を停止させてもらいますのでご了承してもらいますようお願い致します。
「………あ…………」
「あ、じゃないっ!よりによってこんな時にっ!なんで電気代払ってないんだっ!」
「だってお金が無かったんだからしょうがないだろ!もとはと言えば、アンタ達民民党が仕分けだの何だのってウチの補助金打ち切ったからいけないんだっ!」
「それは、お宅が結果を出さなかったからだよ。補助金が欲しかったら、一番にならないとね」
「一番じゃなきゃダメなのか!二番じゃダメですか?」
「なんか昔と立場が逆だな………」
「まずい!早くレーザーを発射しなければ!」
真実の言う通り、もう隕石を破壊できるタイムリミットは五分を切っていた……補助金云々で揉めている場合ではない。
「沢田博士、もう時間がありません!ここには補助電源とか発電機のようなものはないんですか!」
「うむ……発電機か…….そうだな、あれならある」
沢田博士は、何かを思い出したようにそう呟くと倉庫のある奥の方へと歩いて行った。おそらく、これが最後のチャレンジになるであろう。
やがて、沢田博士は両手に何かを抱えて三人の前に戻って来た。
「これが発電機だ!」
「自転車じゃね〜かっ!」
三人が同時に突っ込んだ!
「だって、これしか無い!誰か頑張って漕いでくれたまえ」
もう、タイムリミットまでは三分しかない!もはや選択肢はなかった!
年齢的にも、ここは真実が漕ぐしか無い。第一、この重大局面をあの総理らに任せるなんて恐ろしい事が出来る訳が無かった。
「私が自転車を漕ぎます!博士、電力がレベルまで達したら発射ボタンの方を押してもらえますか?」
「任せたまえ!真実君、一緒に人類を滅亡の危機から救おうじゃないかっ!」
「はいっ!頑張りましょう、博士!」
「いいぞ〜二人とも〜!」
「ブラボ〜〜ッ!」
緊張の面持ちで硬い握手を交わす真実と沢田博士、総理と金原はその二人を温かい拍手で送り出した。
そして、真実は上着を脱ぐとおもむろに自転車のサドルへ跨がり、全力でペダルを漕ぎ始めた!
ハア… ハア… ハア…
タイムリミットまではあと三分………
真実のそのひと漕ぎひと漕ぎに人類の未来が懸かっていた!
「いいぞ真実君!あと100ワットだ!」
「ハア……ハア……」
「よしあと50ワットだ!いけるぞ、真実君!」
「しかし金原大臣、この部屋は寒いね」
「暖房切れちゃいましたからね………じゃあ、電気ストーブでも点けますか………」
パチッ
「あと……1500ワット…………」
「お前らああああああ〜っ!」
今年も良い年でありますように………
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