今日にさよなら 2024/02/18

 20XX年、人類はタイムマシンを発明し、ついに時間すら支配下に置いた。

 だがタイムマシンが一般人にも使われるようになると、それを使って過去を改変する犯罪――時間犯罪が起きるようになった。

 当初は世界警察が対応していたものの、やがて警察では手に負えなくるほどに急増した。

 そのはびこる犯罪を解決するため、タイムパトロールが設立された。


 そしてこれは世界各所にある支部の一つ、日本支部での一幕である。


      🕙


「はあ、やっと終わったよ」

「おつかれー。コーヒー飲む?」

「飲む」


 俺の名前は健司、タイムパトロール隊員である。

 俺にコーヒーを渡してくるのは同僚の沙耶。

 優秀な隊員であり仲間からの信頼も厚い。

 だが、少々お喋りなのが玉に瑕。


「仕事終わりのコーヒーは特にうまいんだよな」

「私が淹れたからかな?」

「飲みなれた奴が一番って意味だ」

「お世辞でも『そうだよ』って言えよ」

「やだ」

 会話もそこそこにコーヒーを飲む。

 やはりいつものコーヒーはウマい。

 のどが渇いていたのか、すぐに飲み干しまう。


「お代わり」

「自分で入れな」

「へーい」

 立ち上がり、コーヒーメーカーを起動させる。

 沙耶は興味深々の顔でこっちを見ていた。

 仕事の内容を聞きたいのだろう。

 俺がコーヒーを淹れ終わると、沙耶が話しかけてきた。


「今回はどこいてったの?」

「あー戦国時代。織田信長倒して日本の頂点に立つとかなんとか。

 俺が到着したときにはボコボコにされてたけど」

「ああ、未来の人間だからって変な自信があるんだよね」

「一度も、時間犯罪は完遂されたことないのにな。

 何が楽しいのやら……」

「なんか、自分にとっての理想と少しでも違うと不満らしいよ。

 私の時なんて、読んでた漫画の展開が気に入らないからって、時間犯罪起こした奴捕まえたことがある」

「それ、俺が知っている中で一番くだらないわ」

「君のやつも結構くだらないけどね。

 でも、もっとひどいのもあるよ」

「まじ?どんなの?」

「それはね――」


『ビービー、時間犯罪発生、時間犯罪発生。

 待機している隊員は、速やかに対処せよ』


 警報がけたたましく鳴る。

 その大音量に俺は、思わずため息を漏らす。

「はあ、またかよ。オレ帰って来たばかりだぜ」

「文句言わないの。

 健司の相棒、もう帰っちゃったから私がついて行ってあげる。

 喜びなさい」

「へーい」


 俺たちはタイムマシンに乗り込む。

 沙耶は率先して運転席に乗り込み、慣れた手つきで機器を操作する。

 帰って来たばかりの俺を休ませてくれるつもりらしい。

 そう言った気遣いができるから、俺もコイツのことを信頼している。


「よし、準備出来たよ」

「こっちも準備OKだ」

「了解!タイムマシン起動!」

 沙耶は掛け声と同時に起動ボタンを押す。

 タイムマシンが起動しすると、体に浮遊感を感じる。

 これ何回やっても慣れないんだよな。


「『今日』とは、しばしのお別れね」

「もう少し一緒にいたかったんだけどな」

「じゃあ、ちゃちゃっと終わらせて帰りましょう

 タイムマシン、発進!」


 そうしてまだ見ぬ『過去』に飛ぶ。

 『今日』よ、さよなら。

 だけどすぐ戻ってくる。


 『今日』のコーヒーを飲むために

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