可愛くなった妹に追いつくための、お兄ちゃんのイケメン化計画

フーラー

美容院での散髪とヘアワックスはイケメン化への第一歩

「おはよう、ミツキ。朝ご飯出来てるぞ」

スバルは妹のミツキに笑いかけながら、暖かいオムレツを皿に盛りつけた。

隣には熱々のトーストと無塩バター、そしてスバルお手製のブルーベリージャムが置かれている。

「ん、いただきます」


そう言ってミツキは不愛想にオムレツをほおばりながらも、スマホを見ていた。恐らく誰かとメッセージ交換をしているのだろう。


「なあ、ミツキ? 誰と連絡してるんだ?」

「……別にお兄ちゃんには関係ないでしょ」


そう冷たく言いながら、ミツキはオムレツを食べ終えると食器を流しに置いた。

ミツキの家は両親が数年前にこの世を去ったということもあり、兄であるスバルがミツキの面倒を見ている。

幼少期は自分に懐いていたミツキだが、最近は少しそっけなくなっているのを気にしていた。


「ご馳走様。行ってきます」

「ああ、行ってらっしゃい」


そして間を置かずに、ミツキはカバンを持って高校に向かった。


(よし、じゃあそろそろ俺も職場に行かないとな……)


幸いなことに両親は兄妹が住む住居とミツキの高校の学費だけは残してくれていた。

だが、日々の生活費までは両親の遺産が足りなかったこともあり、スバルは高校を中退し、近くの建築会社で働いている。

今日もいつものように職場に向かおうと思ったが、


(……ん、これは……)


ミツキの私物である、あるものを見てスバルは驚きの表情を浮かべた。





「ははは、お前の妹も、もうそんな年ごろなんだな?」

「ああ……ちょっと前までは子どもだったのにな」


その日の仕事上がりに、スバルは先輩社員であるマヒロに相談を持ち掛けた。

マヒロと知り合ったのは最近のことだが、スバルにとってはなんでも相談できる親友のように思えていた。


「で、その『口紅』がミツキのものだとして、それがどうしたんだよ?」

「そりゃさ、ミツキだってもう16だろ? だからやっぱりオシャレとかも気にするってのは分かるけどさ……」


もごもごと恥ずかしそうにつぶやくスバルを見て、マヒロは少し呆れたような表情を見せた。


「ああ、そういうことか。彼氏が出来たんじゃないかって不安なんだな?」


だが、スバルは首を振った。


「……いや、それはまあ、しょうがないじゃんか。俺が気にしてんのは別のことだよ」

「別のこと?」

「ああ、正直こういうとシスコンって思うかもしれないけどさ……」


そう言うと、スバルは少し呼吸を置いてつぶやく。


「ミツキの奴、最近すっげー可愛くなってきたんだよ。やっぱり化粧とかいろいろ覚えてきたからなのかなって思ってさ」


因みにミツキの学校は基本的に極端に華美でない限り化粧は許されている。

これは就職活動を見据えた学校の方針とのことである。


「逆に俺はさ。見た目とか全然こだわんないだろ? だから最近妹が冷たいのは……」

「お前が全然身なりに気を遣わなくて、ダサいから幻滅したってことか。……ハハハ、まあそうかもしれないな。実際お前ってダサいし」

「うっせーよ、バカ」

「本当のことだろ、バーカ」


スバルは軽口をたたく親友に、お返しとばかりに軽口を返す。


「それじゃあ、お前がしたい相談ってのは……」

「ああ、ミツキに馬鹿にされないように、俺もイケメンになりたいなって思ったんだよ。マヒロってそう言うの詳しそうだろ?」

「え? ……ああ、まあお前よりはましだとは思うけどな」

「じゃあ、教えてくれよ? まず、俺はどうすればいいと思う?」


そう言うと、マヒロはまじまじとスバルの顔を見て、ひとことつぶやいた。


「とりあえずさ、お前はまず髪型から整えてみたらどうだ?」

「髪型、か……」

「お前その髪、自分で切ってるだろ?」

「え? まあな。ミツキの髪も昔は切ってたし、そう言うのは割と得意だからな」

「けどさ、イケメンになりたいならやっぱプロに頼んでやってもらえよ。こないだ正社員になれたんだし、余裕も少しはあるんだろ?」


数年の努力が実り、スバルは先日正社員として採用してもらうことが出来た。

その為、多少ではあるが自身の身の回りに金銭を使う余裕が出来ていることもあり、スバルは頷いた。


「うーん……。まあ確かにな」

「知り合いに安くやってくれる人が居るからさ、そこでやってもらえよ。それと、ヘアワックスも売ってくれると思うから、一緒に買っておきなよ」

「ヘアワックス、か……そういや、俺はそう言うの付けたことないな」

「じゃあ予約するから、ちょっと待ってろよ」


マヒロはスマホを取り出し、美容院に電話をかけた。


「……うん、そう。でさ、あんたんとこ、男性向けのイメチェンが得意な美容師がいたろ? だからそいつに、今度頼みたいんだよ」


砕けた口調で美容師(おそらくは店長であろう)と会話していることを考えると、おそらくは個人的な付き合いがあることがスバルには想像できた。

そしてマヒロは電話から顔を離し、スバルに笑いかけた。


「来週の金曜の夜ならやってるし、安くやってくれるってさ」

「え、マジかよ? ありがとな、マヒロ!」

「気にすんなよ、こっちも紹介すれば安くなんだから、お互い様だよ。……じゃあ予約しとくな」


そう言うとマヒロは電話を切り、にっこりと笑ってスバルの肩をバンバンと叩いた。

そしてマヒロは思い出したように手を叩き、スバルに尋ねた。


「そうだ、万一お前が美容院に行かなかったりすると困るし、連絡先交換しかねえか?」

「え? ……すっぽかす訳ねえだろ? けど、まあいいか。交換しとこうか」


スバルはボロボロのスマホを取り出し、連絡先を交換した。

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