ぺらぺら
事の経緯を顧みて、彼に起きている変化を推察するならば、担任教師との再会をきっかけに変化は始まったと考えるのが妥当だろうか。昔に立ち返る郷愁は、馬齢を重ねて薄れた感覚の若返りが図られ、一寸先の未来に対して無性に不安を覚える青少年の憂いが彼を襲っている。まともに付き合おうと思うと、そぞろに嘆息してしまいそうな事柄だ。
俺は自身の老生を語りたい訳ではない。国が定める成人の額面を貰っているものの、大人らしい振る舞いや立場に着座している自覚はなく、未だに高校生の頃の感覚を引き摺っていると言っても過言ではない。ならば何故、彼の悩みを忌み嫌ってしまうのか。それはひとえに、“親しさ”という皮層なるものに包まれ、上部だけの付き合いに終始した結果に違いない。
もし仮に清濁併せ呑む間柄にあって、苦楽を共に過ごすような阿吽の呼吸にあったなら、彼の悩みにも親身に応えていたかもしれない。だが、人間関係を踏み均すことすら放棄してきた俺達にとって、「悩み」は黙殺して当然の事柄なのだ。
「変わらないさ。いつも通り、イカサマを見抜いてカジノの経営者に報告。それで報酬をもらう」
不安を口にする彼の背中を撫でるようにそう言うと、
「……そうだね」
含みのある同意は、のちに悔恨となって襲い掛かってきそうな恐れがあった。しかし、俺は言葉巧みに彼から新たな不安材料を引き出すつもりはなかった。今はそのままにしておき、いずれくる問題はその時の俺に任せよう。行きずりの事なかれ主義者に徹し、あくまでもこの場をやり過ごすつもりだ。
「相変わらず、心配性だな」
深刻な彼との案配を意識して、俺は幾ばくかの軽薄さを纏う。よしんば、薄暗い語気と言葉をあやなした際に、今まで築いてきた俺達の関係は引っ掻いただけで剥がれるメッキのように、チグハグさを露呈する恐れがあった。
「実際、綱渡りでしょう」
その思慮深さを前に、俺の軽薄さは楽天的な側面が強くなり、彼を先導するだけの含蓄は消え去った。
「どうしたいんだよ」
意見を述べないまま、不安ばかり口にする彼の態度は、国会に於ける野党のような役割を持ち、俺は嘆息するしかなかった。
「高橋はさ、分け合ってるお金をどうしてる?」
彼は金銭に関する話題を避ける傾向があり、いつだって「そうなんだ」と済ませて終わらせてきた。文明社会に属していながら、「金」の二文字を毛嫌いする。それは、目先のご褒美に振り回されたくないという、謂わば資本主義とは一線を引く立場にあろうと心掛ける彼なりの抵抗なのだろう。千差万別の価値観をいちいち秤にかけ、偏りを指摘していたらいくら時間があっても足らない。個人の思想に対しては、相槌を打つぐらいが丁度いい。そう過去に咀嚼したつもりだった。だがしかし、今彼は「金」について自ら率先して切り出している。
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