第5話
「探偵社アネモネ」に一番長くいるのは、今いる三人の中では理人であるが、さほどの事情通ではない。
理人は、先のように倒れてしまって、数日休みを取ることが偶にある。その間、陽希が代わりに仕事をしているが、ある時、そのうちの一回の時に、当時の所長から水樹の昔の話を聞いた。
曰く、水樹は、探偵小説を書くために、「探偵社アネモネ」にアルバイトに来ていた。当時、水樹は十七歳。実際には理人よりも「探偵社アネモネ」に長くいるのだ。爆弾にとても詳しく、優秀だったが、バイト中の事故で、足に大怪我を負って不自由になったのだという。
更に水樹は、その事故で記憶を失っており、先々代の所長は亡くなっている。
水樹が友香理に出会ったのは、アルバイトの最中だったという。友香理が、ストーカー集団に狙われていたため、その正体を調べ、撒くことが依頼だった。
さて、この事故に、様々な「曰く」がある。
水樹には、当時、金が必要であった。恋人であるピアニスト志望の、友香理という女性の留学のために。また、自分が小説家になるために。十七歳では到底、手に入らないような金が。
そのため、裏で金策のために、依頼人の素性の分からない依頼を、請けてしまった。十七歳の、本当に向こう見ずな行動だった。
まさか、自分の知識が凶行に使われるなんて、考えもしなかったのだろう。爆弾に強い水樹が書いた爆弾の図面を欲しがる者が現れたので、本当に作るとは考えもせず、売った。或いは、そう言った利用をされる可能性の高い事実から、目を背けていたのか。
その図面を基に作成された爆弾が仕掛けられた先は、先々代が乗り込んだ車だった。その日はたまたま、水樹も乗り込んでいた。爆弾の図面を購入したのは、友香理のストーカー集団の一味だったのだ。
結局、その集団に追われ、友香理を逃がし、先々代と水樹は車で逃げようとしたが、其処で、集団の仕掛けた爆弾が爆発し、車は吹っ飛んで――先述の事故である。
水樹は一度仕事も長く休み、その頃、理人が「探偵社アネモネ」に就職した。水樹は、爆弾の知識も含めた記憶を失っているから、先代の所長は、精いっぱいに口裏を合わせたのだ。要は水樹を新人であるかのように扱った。
これが、理人が「現状、『探偵社アネモネ』に一番長く勤めている」とされる所以。
そして、この命がけの調査の結果、友香理にストーカーを差し向けていたのは、友香理のかなり身近なピアニストであり、その名前は分からなかったが、友香理の才能に嫉妬していたこと、水樹のことを愛していて、関係性を邪魔しようとしていたらしいというのまでは分かった。水樹が記憶喪失になってからというもの、友香理がストーキングはされなくなったそうだ。
ここからは、陽希の推理であるが、その「友香理にストーカーを差し向けていた」のがナディアだったのではないだろうか。
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