水
昔々、水というものは奪い合うものでした。
水は高い所から低い所に流れます。山の上で降った雨が、山に沁み込み、濾過され、清水となって湧き出し、それが集まって川になります。
その川の水を上流の村と、下流の村で融通し合って利用していたわけです。
こういった特性上、この水を我が物にしようと考える上流の村というのが昔からありました。
急に井戸が枯れる。急に田に水が来なくなる。急に川幅が狭くなった。暫く雨が降っていないというわけじゃないのに変だと下流の村ではなります。若い奴に、ちょっとお前上流の様子を見て来いという事になるわけです。
若い衆が見に行くと、勝手に堤を作って堰き止めている事が発覚。
上流の村の者たちはその若い衆を口封じしようとする。
下流の村の男衆は武器になりそうな物を手に上流の村に攻め入る。
そんな事態になるわけです。
これ、かつては日本全国で頻繁に起きていた事なんですよ。
「昔々」なんて言ってますけど、戦国時代でもそういう訴訟が非常に多いんです。江戸時代になっても、まだそういう事はありました。
でも、今はそういう事聞かなくなりましたよね。何ででしょうね?
実はある時を境に、川の所有者が地元の村々では無く、国や県に変わったんです。
そのせいで、川の水は強制的に上流の村のものになってしまったんですよ。
川に無数のダムが作られ、各所で堰き止められ、そこに貯め込まれる事になりました。そして、それを下流の村にも分けてあげるという形になったんです。
でもね、水って溜めておくと腐るんです。
家で淡水魚を飼った事のある人なら経験があると思いますが、エアレーションをしないとすぐに死んでしまいますよね。
川というのは天然のエアレーションです。流れている間は腐りません。でも一度貯めると腐るんです。
ダム湖を見た事がある人ならわかると思いますけど、ダム湖の水って緑色してますよね。
「山のミネラル」という言葉を聞いた事ってありませんか?
山の栄養というものが、川の水には含まれています。これがそのまま海に流れ込むと、植物性プランクトンが栄養を摂取して増え、それを動物性プランクトンが食べ、それを小さな魚が食べ、それをより大きな魚が食べという食物連鎖に繋がります。
ダムというのは、その川と海の生物の食物連鎖の源である「山のミネラル」を堰き止めてしまっているんです。
そして本来海に注ぎ込まれて餌になるはずのプランクトンをダム湖で発生させてしまっているんです。それで川の水に栄養が無くなってしまうんですよ。
川からの栄養が不足すると河口近くの海藻たちが簡単に枯れます。アマモのような海藻は魚が卵を産み付けたり、小さな魚たちが身を隠す場所です。
それが無くなるとどうなるか。魚たちはそこでは産卵しなくなったり産卵してもウニのような海藻を食べる生き物に海藻ごと食べられてしまいます。
結果的に「磯焼け(浜焼け、海焼け)」という海藻が全く無くなってウニだけが残るという状況になります。
しかもダムは水を温めてから海に流すものだから、生温い水が海に流れてしまう。
そうなると本来河口の冷たい水を好む魚は寄り付かなくなってしまうんですよ。貝類なんかだと胞子から稚貝になる前に大量死する事にもなる。最近、産地偽装していない国産のアサリが市場に出回らなくなった原因は恐らくこれですよ。
数年前、伊勢神宮の禊川として有名な五十鈴川にダムが作られました。その用途は砂防だとか。五十鈴川の水害なんて話聞いた事ありませんけど、砂防が必要だったんだそうです。
昨年末、伊勢神宮に行きましたが、五十鈴川の水量はかなり少なくなってましたね。しかも黄色く汚れていました。
ダムができたと聞いた時、伊勢湾の漁師さんはこれから大変になるなってすぐに思いました。案の定というか、今年記録的な不漁だと言ってましたね。でもそれ、今年だけの話じゃないですよ。来年から水揚げ量は右肩下がりになっていくと思います。
海に流れる水量が減ると徐々に徐々に漁獲高が落ちていくんですよ。静岡県がリニアの工事で揉めていたのは、そういう事を過去の大井川のダム建設の際の経験で身に染みているからなんです。
政府と御用学者は、漁獲高が落ちている原因は地球温暖化のせいなんて言ってるんです。もしくは漁師の獲り過ぎだって。
でも彼らだって知ってるんです。原因がダムにあるって事くらい。
だから、五十鈴川のようなダムの無い川を残すわけにいかないんです。比較できちゃいますから。
そもそもダム推進の人たちが金科玉条のように持ち出してくる上水用のダムなんて、国内に無数にあるダムのうちのごく一部なんです。農業用水用のダムですらごく一部、発電用のダムなんて数えるくらいしかありません。その他多くは水害対策という名の無駄な公共投資です。
まず発電用のダムですが、綺麗な水でやる必要なんて1ミリも無いわけですから、川を堰き止めて発電所に流す必要なんてありません。やりたいなら取水して溜池に溜めてから送れば良いんです。
しかも、発電後は農業用水に転用すれば良い。
そもそも農業用水は飲み水では無いのですから、溜池を掘って取水するというのが極々当たり前なんです。わざわざコンクリートで川を封鎖する必要なんて無いんです。
はっきり言いますけどダムで水害対策なんてほとんどできないと思いますよ。
だって普段は水を溜めこんでおいて、大雨が降ってきたら放水するんですもん。それじゃあ逆に災害を引き起こしているだけですよ。
何年か前の岡山の大水害の時、住民の人たち言ってましたよね。途中で不自然に水嵩が増したって。ダム側も大災害覚悟で大量放水したって言っちゃってましたよね。その後新聞は報道しない自由を行使しやがりましたけど。
さらに、本来であれば、その水流の勢いで川底が削れるはずなのに、わざわざ勢いを削いじゃってるから川底が砂で埋まっていく。そこに大雨が降ったらどうなるか?
想定より水位が高くなってしまうんですよ。
元財務官僚の方の話だと、ダムを作ると地価が上がるという事になっているんだそうです。しかも土建屋は、最初はそんな金額では絶対に作れないという金額で入札し、おかわり、おかわりで、最終的に完成する時には当初の予算の何百倍という税金が投入されるんです。
ようは土建屋に政治家がパーティー券を買ってもらって税金をキックバックしてもらうためにダムを作らせてるって事です。官僚の方々も次回もお仕事くださいねって土建屋の接待を受けられますしね。
そんな事するくらいなら、そのお金、育児や教育に回しましょうよ。というか、その分減税してください。
「最後の清流」四万十川、あそこがなぜ最後の清流と言われるか。それはダムが無いからです。
今、その四万十川が目を付けられてしまっているそうです。もしあの川にダムが作られたら、日本の漁業はもう終わりだと思います。
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