第12話 褒美
盗賊団を撃破し、王都キャピタルに戻ったエルミードを待っていたのは、『祝・盗賊団撃破!』という横断幕であった。
市内に入ると、民衆達が列をなしている。
「げげっ!?」
エルミードが思わず叫び声をあげたのも無理はない。
市民達がこぞって、仮面をつけて出向いているのである。
凱旋する近衛隊も仮面ばかり、市民達も仮面ばかり。
悪夢のような光景であるが、エルミードは悪だくみを一つ思いついた。
(待てよ、この仮面なら顔が見られることなく、接近できる。刺客を放つには絶好の隠れ蓑ではないか?)
そう思った途端、サラーヴィーの太い叫び声が聞こえる。
「おのれ! 不埒ものめが!」
「ひえっ! そ、そんなことを考えたわけでは……」
言い訳しようとするエルミードの首筋にビュッという風圧が伝わる。
ドガンという音とともに、サラーヴィーの巨大な戟が地面にめりこんでいた。
「おぉ、サラーヴィー。どうしたのでおじゃ?」
ちょうどそこに、牛車が近づいてきた。幌が開いて、ラドラが顔を覗かせる。
サラーヴィーがラドラにひれ伏した。
もしや自分のことか。いい加減「もう騙されないぞ」と思いたくなるが、どうしても緊張してしまう。
「ハハッ、うっとうしき蚊が飛び交っていたので、退治いたしました」
(蚊を戟で退治する奴がいるか!)
ツッコミが聞こえたのか、サラーヴィーは戟を持ち上げた。確かに刃の部分に潰された蚊がついている。
(リョフやチョウヒ達も強いが、このサラーヴィーの強さは断然上をいく。とぼけているのか、本気なのかは分からないが、こいつの相手をするとなれば、20倍は帝国軍が必要だろう)
「ホホホホホ、良き事、良き事。サラーヴィー及びタトル! そなた達の活躍は聞き及んでいるでおじゃるよ」
「ハハーッ!」
サラーヴィーが平伏するので、仕方なく付き合う。
「タトルは就任早々、見事でおじゃった。よって褒美を与えるでおじゃる」
「褒美、ですか?」
「左様。麿は『青光』と『偉天』という二つの蹴鞠を持っているでおじゃるが、そのうち『青光』を授けよう」
「は、はぁ……」
ラドラから蹴鞠を受け取り、エルミードは中身を確認する。
どうということはない。普通の蹴鞠のようだ。
「それは精工に作られた蹴鞠で、無回転の軌道を描きやすいのでおじゃる」
(……蹴鞠ってそもそも回転するのか?)
と、ツッコミが頭に浮かぶが、褒美としてもらったものを邪険にすると周囲から疑われるかもしれない。
「ははっ、有難き幸せ。家宝にさせていただきます」
と、答えると、ラドラの目が輝いた。
「やはり麿の目に疑いはないでおじゃ! タトル、そなたこそ『青光』をもつにふさわしい! 今後、蹴鞠の達人となれるよう、教師をつけるでおじゃ」
(えぇぇぇ……)
「いずれは麿の代わりとなり、他国の使節と蹴鞠ができるよう精進するでおじゃるよ」
「ははーっ(冗談じゃないよ)」
それから五日間、エルミードはラドラの派遣した蹴鞠の達人とともに過ごすことになった。
やる気は全くなかったが、ある程度体が動くので、それなりにうまくなった。
エルミードが(その意に沿うことなく)、ラドラの要職を務める日は、近い。
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