英雄の孫、麿(まろ)につき

川野遥

第一章・帝国の皇子、潜入する

第1話 大将軍ラドラ・ハイレディン

 その男の掲げる剣は、太陽の光を受け燦燦と輝いていた。

 まるでこの街……王都キャピタル中を照らしているようにすら見える。


 キングダム王国の英雄ルドル・ハイレディンの銅像。

 

 それを見上げて、エルミード・タトルは小さく舌打ちを鳴らす。


 ルドル・ハイレディン。

 50年前、エンパイア帝国とゴッド教国に侵攻を受けたキングダム王国を救った英雄。

 その剣技は人界・魔界・冥界・天界に敵う者がおらず、その魔術は数千の部隊を打ち破ったという。

 キングダム王国の誰もが誇る存在である。


 しかし、エンパイア帝国の第7皇子たるエルミードにとっては、災厄でしかない。

 ルドルさえいなければ、キングダム王国は今、帝国のものとなっていたはずである。

 ルドルのせいで帝国軍は7割を失い、かえって領土を失う羽目になった。

 どれだけ憎んでも、何余りある存在。

 唯一の救いは、ルドルが15年前に病死したという事実だけだ。

 世界を変える英雄も病には勝てなかったらしい。


 しかし、その孫ラドラはルドルに劣らない才能をもつと評判だ。

 彼が乗り出して解決しなかった事件はない、とすら言われている。


 それが本当ならば由々しき事態である。

 ラドラが本当にルドルの再来であれば、帝国の国防にも影響が及ぶ。

 ラドラの危険性を調査しなければならない。


 帝国の第7皇子でまだ若いエルミードの存在は周辺国に知られていない。

 だから自ら潜入調査を申し出た。

 一般の冒険者として王都キャピタルに入り、ラドラの率いる王都第一騎士団に入団しようとしたのである。


 剣技、魔法とも優秀なエルミードは一般試験を易々と通過し、今は明日行われる最後の試験……面接試験を待つ身であった。

 面接に当たるのは国王のキング8世か、あるいは大将軍のラドラである。

 できれば、ラドラの面接を受けたいが、こればかりは運である。

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