第23話 痛み――ペイン、私痛いの嫌いなんだよねぇ

 ペインの強襲によりレイとの距離を大きく空けられたヴァリス。


「クソ!主!!」


 と短く悪態をついて、自身の不甲斐なさに怒りながらレイの元に戻ろうとする。が、しかし、


「させないっての!!」


そうはさせまいとペインは得意の飛び蹴りを放ち、ヴァリスもこれまた得意の盾さばきでペインの飛び蹴りを完全に防御してみせる。 


「貴様!!何をする!!」


 ヴァリスは怒りながら訊く。


「何ってそんなん、あんたの邪魔に決まってんじゃん」


 何言ってんのコイツ、とペインは呆れ顔。しかし、生真面目メガネヴァリスは納得しない。


「何故、そのようなことをするのだ!!」


 ペインに剣を突きつけそう言うヴァリス。言われたペインはヴァリスの態度にイラッとしたようで、


「あんた、今までの何を見てたの?うちのボッスーがあたしにあんたの相手をしろって命令したから、あたしはあんたの邪魔をしてんの!!わ・か・り・ま・し・た・か!!」


 と丁寧に説明してあげる。すると生真面目ヴァリスはペインの説明に納得したようで、


「わ・か・り・ま・し・た!!」


これまた生真面目に返し、ペインはそんな生真面目メガネに怒りを通り越して呆れ顔。


「「……」」


 無言の時が訪れる。


「ハッ!!隙あり!!」

「あるかボケェ!!」


 ペインの見事なツッコミもとい、飛び蹴りを放ち、ヴァリスもこれまた得意――以下同文。


「貴様!!何をする!!」


 ヴァリスは怒りをあらわにする。


「それはもういいっつーの!!」


 ペインの見事な――以下同文


「あーもうなんなんあんたも!!その板みたいなのも!!」


 ペインは頭を抱えて宙を仰ぐ。ヴァリスの生真面目な性格と、そこから来る独特のリズムがペイン自身のリズムと合わず、どうにも自分の調子が出ない。対してヴァリスはある意味で絶好調。


「私はコイツやあんたなどと言った名前などではない、ヴァリスという主より賜った名前がある」


 と的外れなこと言い、更に左手に持った盾をズイとペインに向けて出す。


「それにこれは板などではないわ、これこそ主より賜りし叡知の結晶が一つ盾だ!!」


 と大真面目に返した。しかし、ペインの方もヴァリスの持つ武器に興味を抱いたらしく、


「へーそれって盾っていうんだ、そんじゃあその棒は?」


ヴァリスの持つ剣を指さした。


「ん?この剣に興味を抱くとは、貴様、中々に見所があるな。では聴くがいい」


 とヴァリスは言い。コホンと喉を整える。そして、


「これこそ主より賜りし叡知の結晶が内の一つ、そんじょそこらの爪や牙よりも鋭く、その上マナによる属性付与がされし宝剣、その名もレーヴァテイン!!」


と高らかに言い、それを聴いていたペインも「おおー」と拍手しながら宝剣を讃えた。


「「……」」


 再び沈黙の時が訪れる。


「ハッ!!――」

「ハッ!!じゃねぇよハッ!!じゃ。隙なんかねぇよ!!」


 ぺ――以下同文


「あーもーなんなんお前~」


 ペインの怒りがついに爆発、しかし、ヴァリスは、


「貴様は一体何に怒っているのだ」


と不思議なものを見るような目でペインを見る。ペインはそんなヴァリスのことをキッと睨み、


「その貴様ってのも!あたしにはペインっていう素敵で格好良い名前があんだよ!!」


何かよくわからんことに怒りを見せた。しかし、ヴァリスは、


「ペインとは痛みという意味の言葉だな」


と意外な反応を見せ、ペインはその反応を好ましく思ったのか「んふふ」と笑った。


「そだよ痛み、ペイン、それがあたしの名前カッコいいっしょ。この名前、自分でつけたんだよ」


 その言葉にヴァリスは更に反応を示す。


「貴様――ペインは自分で自身の名前をつけたのか?」

「そだよ。あんたんとこのボスは知らんけど、うちのボッスーは何て言うかあれだからさ、適当に変な名前つけられる前に自分でつけたんだ」

「しかし、それでペインとは――」


 理解が出来ない。いいかけてヴァリスは口をつぐむ。しかし、ペインは、


「理解出来なくて当然上等。それで良いんだよ。むしろそれが良いんだ。ペイン、痛み、マナ生命体私たちにない感覚。私はそれを持っている。どう?エモいっしょ」


そう言って無邪気に笑うペイン。


「エモいかどうかはわからんが……詩的だな、とは思う。」


 なぜか照れ臭そうに言うヴァリス。


「詩的ってあんた、オッサンじゃないんだから。だからあんたはメガネなんだよ、この生真面目メガネ!!」


 言いながら無邪気に笑うペイン。そんなペインにヴァリスは、


「メガネは関係無いだろうが。メガネは」


と言い合いが始まった。



なんなんこの空気、今戦争中だよ!?わかってる?舌戦てことにしても無理があるよ!だってボーイミーツガールみたいな空気出てんだもん。もう私知らんからね!!



「はー、もうなんか白けた」


それはわた――ペインは自身の気持ちをぶっちゃけた。


「ならば通――」

「さないって。それはそれ、これはこれ。大体さ、あんた自分とこのボス信じてないの?あたしはボッスーのこと信じてるよ。だからここで待って見てるんだ、ボッスーがあんたんとこのボスを殺してこの宇宙を混沌に染めるところを」


 夢見る少女のような目で物騒なことを言うペイン。しかし、ヴァリスも負けてない。


「当然のことを訊くな貴様!!私とて主の勝利を信じて疑ぬ。しかし、な」


 そこまで言ってヴァリスは言い淀む。中々次の言葉を出さないヴァリスにペインは痺れを切らせる。


「しかし、な――その次は何?もったいつけてるつもり?」

「そんなつもりなどない。ただ――」


 なんと言ったら良いやら。ヴァリスは言葉選びに迷っていた。ペインはそんなヴァリスの心情を見透かして言う。


「言葉選んでるから言えないんだよ!!いいよ、そのままの言葉で言えば良いじゃん!!」

「う――」

「早く!!」

「宇宙が壊れる」

「はぁ!?何それ」


 ヴァリスの突拍子もない言葉がよほど面白かったのか、愉しそうに笑うペイン


「言ったままの意味だ。主に本気を出されたらこの宇宙が壊れてしまう。比喩などではないぞ、そのままの意味で、だ」

「だから戦って欲しくないと」


 ヴァリスはコクリと首肯で返す。


「何それちょーうける」


 ペインは嗤う、嘲るように。そして指差す。その方向はレイとケイオスが対峙していた方向だ。


「だけどさ」


 ヴァリスはペインの指差す方向を見て驚愕する。


「あんたんとこのボス。もう虫の息じゃん」


 そこには首だけになったレイの姿があった。

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