第19話 暗殺者――なんか『混沌』の方がキャラ濃くない?
「キターーーーー」
ペインからの作戦決行の合図に、心臓を跳ねさせるマキリ。
マキリはケイオスの眷属の中でも隠密行動に秀でているのだが、その性格と存在感のなさも相まって、自身の存在を忘れ去られることも多く、今回の作戦を愛しのペインから直接言い渡された際、
「あんた陰キャだから敵にも見つかりにくいっしょ(笑)だから隠れて敵の頭殺してきてよ。いちおー合図もするから、それが作戦決行の合図ってことで。じゃ、ヨロ」
と言われただけ、作戦決行の合図がどんなものであるのかもわからない。正直忘れ去られているものだと思ってた。なんなら暗き星が投擲されるのも知らなかった……
だが、合図らしきものはあった。愛しのペインタソからのラブコール(死語)マキリは決して忘れ去られてはいなかったことに歓喜、ヤル気全開テンアゲマックスである!!
「セ、セ、拙者一世一代の大勝負。必ずや管理者レイ·アカシャを亡き者にし、愛しのペインタソに勝利を捧げるでゴザル」
言ってマキリは自信を構成するマナに働きかけ、自身の存在感を極限まで薄くする。ちなみにではあるがマキリの姿は全身黒タイツの顔に仮面を被った成人男性を思い浮かべて頂きたい……そのまんまである。
しかし、この闇の多い宇宙空間において、マキリの全身黒タイツ姿は隠密行動に優れ、本人の「あんまり目立ちたくないでゴザル」という陰キャ然とした嗜好にもかなった完璧な姿なのである。
マキリはゆっくりと着実に歩を進める。途中何度か『秩序』の兵士の目の前を通り過ぎが、兵士に見つかった様子はない。臭っ腐ってもケイオスの眷属。その実力は確かなものである。
――見つけたでゴザル
マキリは標的を見つけたことで動揺、自身を構成するマナに揺らぎが生じる。
――まずいでゴザ
マナの揺らぎは波となり他の者に伝わり、敵に見つかる原因となる。
――無心にゴザル
マキリは必死に自身のマナの揺らぎを抑え込む。
マナの揺らぎを抑え込むことに成功したマキリは、標的とその周囲を確認。幸い誰にも気付かれなかったようだ。
――よし、でゴザル
マキリは心の中でガッツポーズ、レイの元へ歩を進める。そして自身の右手を巨大で鋭利な爪へと変形させる。
――遠い、まだまだでござる
レイまでの距離約10メートル。マキリは獰猛な四足獣のように身体を丸める。
――まだ、まだでゴザル
レイまでの距離約7メートル。そのままジリジリと這うように距離を詰める。
――まだでゴザル
レイまでの距離約5メートル。身を低くして予備動作を無くし、自身の足にマナを集中させ抑え込む。
――今、でゴザ!!
マキリは抑え込んだマナを一気に解放。肉食獣のようにレイの後方から襲いかかった。タイミングは完璧、攻撃の威力も十分、作戦は成功、マキリは勝利を確信した。
しかし、マキリは見誤っていた、レイ・アカシャという管理者の実力を。
「ミルストリス」
レイは自身の護衛の名を呼ぶ。すると、レイの持つ杖から「は~い」と気の抜けた返事が聞こえ、レイの持つ杖がミルストリスに変形した。
「あるじ、かた」
「どうぞ」
一瞬のやり取りの後、ミルストリスはレイの肩に飛び乗り深くその膝と体を曲げ力を溜める。次の瞬間、ミルストリスはレイの肩を発射台として、後方から襲いかかるマキリを狙って自身を発射させた。
「ずつきみさいる」
そう名付けられたミルストリスの全身を使った頭突きは、見事マキリにカウンターパンチならぬカウンターヘッドバットとして命中した。
実のところマキリが潜んでいたことはレイには筒抜けであった。いくらマキリが隠密行動に秀でた獣といっても、相手はマナコントロールレベル上限突破の猛者レイ・アカシャである。レイのマナによる索敵はその範囲は星一つを包み込み、チリ一つの動きを感知する。その上感知対象も自由自在。戦の状況を確認しながらの片手間索敵ですらマキリの動きをしっかりと捉えていた。
ミルストリスの頭突きミサイルはマキリの腹部をガッチリ捉え、その進行は止まることなく両軍からどんどん遠ざかっていく。
「ちょっと、キミ!!いつまで飛ぶつもりでゴザルか!?」
両軍からどんどん離れていくことに不安を覚えたマキリは言う
「……なので」
ミルストリスがマキリの質問に答えるが、上手く伝わらずマキリは「は?」と訊き返した。
「みさいるなので」
マキリはみさいると言うものの知識など持ち合わせていない。しかし、ミルストリスの平坦な物言いはマキリに悪予感を想起させた。
「ばくはつする」
次の瞬間、ミルストリスが自身のマナを操り大規模な爆発を起こした。その衝撃は凄まじく、丁度反対側に位置する
「ミルス屋~」
なぜかレイは急にそう言わずにはいられなかった。ミルストリスの後、宇宙にはミルストリスとマキリの顔が花火のように見事に咲いていた。
「マキリーーー!!」
ペインが見事に花と散ったマキリの名を叫ぶ。その叫びがマキリに届いていたのか、花火となって咲いたマキリの顔は、どこか満足した様子の穏やかな笑顔であった。
ガクリと肩を落とすペイン。適当な思いつきの作戦であったとはいえ、それなりに自信は持っていた。それが失敗したのだ。ペインはそれなりにショックを受けていた。なのに、
「んだよペイン。手前ぇだって失敗してんじゃねぇかよ」
ケイオスのデリカシーのない発言に、ペインの中の何かが切れた。
「あたしの崇高な作戦とボッスーのてきとーな作戦を一緒にすんな!!ボケ!アホ!カス!この甲斐性なし!!」
ペインは駄々っ子のようにケイオスに詰め寄り、ポカポカとケイオスの叩く。叩かれているケイオスはペインの普段見せない姿に、
「わりぃ、悪かったって!ほら、謝ってんだろうが」
と困り果てていた。やがてペインは落ち着いたのかケイオスを叩くのを止め、
「それで――」
と言うがケイオスに上手く伝わず「ん?」と返される。
「それで次!!」
涙目になりながらケイオスのことを睨むペイン。自分が先に失敗したのだから次の手はお前が考えろ、と言外に言っている。その言外の言葉がケイオスに伝わったのか、伝わらなかったのか、ケイオスは「あ~」と言いながら頭を掻いて、
「やっぱらしくねぇな」
とひとりごつ、
「突撃、だな」
と邪悪に笑った。ペインは自身の耳を疑った。それを察したのかケイオスは説明する。
「やっぱよー俺たちって混沌じゃねえか、それなのに作戦って……バカじゃねぇか!?混沌が何真面目に作戦なんか立ててんだって!そりゃ失敗するわ!!」
これまでの自分を嗤うように言うケイオス。そして、
「『混沌』なら戦い方も混沌にってな!!伝えろペインこれが最後の命令だ」
そう高らかに宣言し、
「
ペインは喜ぶ、これこそがケイオスだと、これこそが混沌だと。
「あいさボッスー!!」
ペインはすぐさま伝令役の獣に伝達、ケイオスの命令が全獣に伝えられると群れの各所で雄叫びがあがる。
当然、その雄叫びは
そして
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