第8話 喧嘩――しない方がいいんだけど、しない方がおかしいよね。
「つまり、あれらと接触するつもりだね」
――ああ、そうか。そこが気に障ったのか。
一度思考の整理を行ったことが功を奏したのか、レイは、自身の苛立ちの原因が何だったのかを理解した。
しかし今はそのことについてリンネを追求する時ではないと、苛立ちを心の奥に押し込め、それの代わりにリンネの瞳を真っ直ぐと見る。
「はい、彼らが顕現した僕にどういった反応を示すのかはわかりません。だけど、もし上手くことが運べばこの問題を解決に導くことが出来ると思います」
「あれらとレイ君が接触した時に、外敵と認識される可能性もあるよね」
リンネの瞳は相変わらず何も語らない。
「彼らは今のところ、同じマナ生命体に対して攻撃的な行動をとらずに仲良くしているように見えます。であれば、彼らと同じように存在がマナと魂で構成されている僕も仲間と認識してくれるかもしれません」
レイの語気が若干の強さをおびる。そこには微量の怒りと挑発の念が込められていた。それに気付いているのかいないのか、
「確かに!あれらとレイ君はマナに魂が宿った生命という点は同じだ。しかしね、君とあれらは明らかに違う生命だ」
リンネの語気もつられるように強くなる。もっとも、リンネの語気には不機嫌さがありありと表れており、それに伴って瞳も何かを物語る。
そんなリンネの態度にレイは苛立ちを隠すのを止めた。
「それは、僕が管理者という立場にあるからですか!!」
「違う!!全然、全く、絶対に違う!!そんな表面的なことじゃないんだ!もっと、根本的な違いだ!!」
リンネの絶叫に近い言葉。そこにはいつもの飄々とした雰囲気など微塵も感じられない。レイはリンネの初めて現した一面に驚き、たじろぐ。しかし、レイにも怒る理由がある。
「根本的な違い?それは一体何なんですか!教えてください!!」
リンネはレイの返す言葉にハッと我を取り戻す。そして瞳を読まれたくないのか、無意識なのか、レイから顔を背けた。
「それは!!……こちらの話しだ答えられない」
最後の方は消え入るような声だった。
二人の間に気まずい空気が流れる。レイは変わらず真っ直ぐとリンネを見つめ続けるが、最後まで二人の瞳が合うことはなく、レイは短いため息と共に自身の瞳を閉じる。
「すいません、熱くなりすぎたようです」
そう言ってレイは管理者ウィンドウを開く。
「彼らはの扱いについてですが、先程も言ったように『顕現』の権能を使って彼らと接触してみようと思います……貴女の言うように接触したとたん敵対行動をとられるかもしれません。だけど、それはやってみなければわからないことです。僕はこの宇宙の管理者として、最悪の選択をしなければならない状況に陥るまで座して待つような真似はしたくありません」
リンネは変わらず顔を伏せたまま、何も語らない。
「リンネ、貴女はなぜ僕が怒ったのか、解っていますね」
リンネはピクリと体を反応させるが口は閉ざされたままだ。それでもレイは続ける。
「僕と貴女は今までも、そしてこれからも宇宙を管理していかなければなりません。達成しなくてはならない目的もあります。今までの経験からの予想ですが、僕は目的の達成までに相当な苦難が待ち構えているのではと考えています。ならば僕と貴女は強い信頼関係を築き合い、その苦難に立ち向かわなくてはならない――だけどリンネ、僕は今の貴女と強い信頼関係なんて築き合えません」
言いたいことは全て言った。しかしリンネからの言葉はない。
レイはそこまで確認すると、管理者ウィンドウを操作して『顕現』の権能を使用する。初めての使用ではあったが今までの経験もあってか『顕現』の権能は問題なく発動、レイは管理者部屋から姿を消した。
レイのいなくなった管理者部屋にリンネが1人取り残される。
リンネはしばらくの間顔を下に向けていたが、突然「あ~~」とうめき声を上げながら頭を掻いて管理者部屋の天井を見上げた。
「やっぱ辛いよ~、何でこんなこと始めたのかな私~」
リンネは自分以外誰もいないためか思ったことをそのまま喋る。
「信頼関係か~。レイ君、そんな風に思ってくれてるんだ~正直嬉しくてたまんないよ~」
顔を両手で覆い、喜びに内震えるリンネ。
しかし「でも」と前置き、下を向く。目は笑っていない、むしろ
「私を信用しちゃ駄目だよ。私は咎人、咎を負うもの。そしていずれ……」
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