第5話 我が儘――いくつになってもヤるときゃヤッちゃうよね。

 管理者ウィンドウから位階上昇を知らせる通知音が鳴る。


「おや?レイ君、位階上昇したようだよ」


 リンネが何気無い様子で何もない空間に向かって語りかける。次の瞬間そこにはレイが立っており、慌てた様子で、


「本当ですか!」


とリンネに詰め寄る。


「ああ、さっき管理者ウィンドウから位階上昇を知らせる通知音が鳴ったからね。確認してみるといい」


 レイは「そうですね」と言い、自身より離れた場所に出現させていた管理者ウィンドウを手元まで呼び寄せ、その画面を確認する。そこには確かに位階上昇の文字が表示されていた。


「やっと……やっと、達成できた……」


 感慨深く管理者部屋の天井を仰ぎ見るレイ。その目には涙が溜まっている。

 思えばこれまでの道のりは永かった。千年かけてスキルレベルを99にしても位階上昇せず、そのことをリンネに抗議したら「スキルレベルはあてにならないよ。何せ技術に上限なんて無いからね」なんて涼しい顔で言われた時は流石に殺意を覚えた。

 しかもその思い出すら序盤も序盤だ。その証拠に管理者部屋の窓に表示されたこれ迄の経過時間がとんでもないことになっている。(100億をゆうに越えている)

 しかし、レイはリンネから課せられた試練を達成したのだ。(ちなみにスキルレベルはーと表示されている)


「そ、それでは位階3の権能を確認しますね」


 言ってレイは管理者ウィンドウを操作する。万感の思いが思い起こされ、レイのウィンドウを操作する指は震えていた。


―――――

真名 レイ アカシャ

位階 4

権能 不朽不滅 空間作成 魂管理level4 検索 

   顕現

スキル マナコントロールlevelー

―――――


「あれ、位階が2つも上がっていますよ」

「レイ君が位階3の条件達成に苦戦している間に、位階4の条件を達成したんだよ」


 何でもない風に答えるリンネ。


「そんなことがあるのですか!?」


 レイは驚く。そんなレイの表情を愉しそうに見ながらリンネはいつもの怪しい笑みを浮かべる。


「あのねレイ君、君は実存する宇宙の管理を行なっているわけだよ。ゲームの様に何事も決められた順番どおり、というわけにはいかないさ」

「位階上昇のシステムはゲームの様ですけどね」

「うっ!!」


 すかさずレイにツッコまれ、痛いところを突かれたと、リンネは自身の胸のあたりを押さえて大袈裟に苦しむ。しかし、その様子を見るレイは冷ややかな視線を向けている。


「そういうわざとらしいところにも慣れました」


 リンネはそんなレイの冷たい対応にショックを受け、管理者部屋の床に崩れ伏せて嘆き始めるが、そんな様子もどこか芝居がかっていて胡散臭い。


「ここ一億年のレイ君の態度が冷たいよ~。最初の頃ははあんなに初々しくて可愛かったのに~。あ、今のクールなレイ君も可愛いからね」


 心配しないでね。と付け加えるリンネ。しかし、レイは、


「はいはい」


とリンネことをてきとうにあしらいつつ、再び管理者ウィンドウを確認する。


「権能に検索と顕現の2つが増えている……リンネ、説明してください」


 管理者ウィンドウを見ながら、レイは淡々とリンネに説明を求める。が、リンネはそんなレイの態度に不満を覚えたのか子供のように頬を大きく膨らませ、


「やだ」


と、これまた子供のように拒否する。

 レイは「はあ」と短いため息をつくと今度はしっかりリンネの方に向き直った。


「リンネ、僕は真面目にお願いしてるのですが」

「そんなこと知ってるさ、でも、やだ」

「なぜですか」

「そんなに冷たい態度ばかりとられたら誰だって不満に思うよ」


 誰のせいだ。とレイは思ったが、これでは話が進まないとここはリンネに譲ることにする。


「では、冷たい態度をとったことについては謝ります。」


 レイはそう言って、努めて優しい声で


「権能の説明をお願いできますか」


再度リンネにお願いした。が、


「もっと可愛く!!」


 レイは自身の耳を疑った。


「は?」


 リンネは


「もっと可愛く言ってくれなきゃ……」


と溜めて


「やだーーーーー!!」


 リンネの中にあるなにかが爆発したのか、リンネは床に寝転びジタバタと暴れだす。見た目成人女性のそれを間近で見たレイは、最初は唖然としていたものの、やがて「はぁ~~~」とかつて無い程の長いため息をついた。


「わかりました!」


 ピタリとリンネの動きが止まり、頭がグリンとレイの方に向いた。


「本当に?」

「可愛いかどうかはわかりませんよ!」

「全然。全然いいよ!!」


 言ってリンネは勢いよく立ち上がり、レイの方に体を向け、正座した。その目はレイの一挙手一投足を見逃さないためにか満月を思わせる程丸く、正直怖かった。


 そんなリンネは置いておいて、レイは顎に手をやり考え込む。今の今まで可愛いお願いの仕方など考えたこともない。故に頭はフル回転。途中でバカらしくなり、止めようかなとも思ったが、フル回転は続行。結果、一つの答えが導きだされた。

 しかし、それはかなり恥ずかしさを伴う、がここが勝負どころと心を決める。

 レイはリンネヘと近づき、正座するリンネの目線よりも低い位置に頭が来るように四つん這いになると、頬を紅潮させ迷いのある仕草をリンネに見せ、更に意を決したかのような仕草をし、自身の目線のみをリンネに向けた。そう上目遣いである。


「リンネお姉ちゃん、お願いだから僕に権能について教えて」


 おまけに語尾にハートをプレゼント。

 刺さった。何がとは言わないが、それはリンネのとても深い部分に深く深く刺さった。それはリンネに呼吸を忘れさせ(元々してないが)、時間さえ(リンネ単体の)も止めるほどの威力だった。

 

「そ、それで教えてくれるのでしょう。リンネ、黙ってないでいい加減返事をしてください!!」


 時間を経るごとに増してゆく羞恥心に赤面するレイは、リンネの肩をつかみブンブンと揺するが、リンネは脳(魂)の処理が未だに追いつかずボーっとしている。


「リンネ!!」


 レイによる何度目かの呼び掛け、やっと脳(魂)の処理が完了したのかリンネはハッと我を取り戻した。


「悪い悪い、レイ君のお願いのあまりの威力に我を忘れていたよ。しかしレイ君、控えめ言って、最高、だったよ」


 レイのお願いに最高の賛辞を送るリンネ。レイの顔の赤色はますますその色を濃くした。


「そ、それで権能について説明してもらえるんですね!」


 恥ずかしさのあまり、なぜかツンデレみたいな言い方になってしまうレイ。

 リンネはいたずらっ子みたいな笑みにウィンクを加えて「もちろん」と言い


「それじゃあまずは『顕現』の権能から。これは文字通り宇宙内にレイ君が顕現することがと出来る、という権能さ」

「僕が宇宙に顕現することが出来るようになることに何か意味があるのですか?」

「それはレイ君次第だね。別に宇宙に顕現せずに永久に見守り続けることも出来るし、積極的に顕現して自由に宇宙に干渉することも出来る。選ぶのは君さ」


 自由に干渉、レイは顎に手をやり考え、ややあって口を開いた。


「でもリンネ、今の宇宙に干渉する必要って――」

「レイ君」


 リンネは真剣な目でレイを見つめて言外に言う。『言っただろう、決めるのは君だ』と。


「では、この権能はしばらく使用しないことにします」

「そのこころは?」

「相談はさせてくれないのに理由は聞くのですね」

「いいじゃないか減るものじゃないし」


 リンネはいつもの怪しい笑みを浮かべるながらそう言う。レイそんなリンネの態度に不満に持つが、これもリンネが自分を管理者として成長させるために言っているのだと解釈し、不満を飲み込んだ。


「現在の宇宙はマナの回収状況も含めてもとても良い意味で安定しています。ここで無理して宇宙に干渉することは下策であると判断しました」

「りょーかい。さて、レイ君が仕事をしたのだから今度は私の仕事に移ろうとしよう。レイ君、次の権能は『検索』だったかな?」

「……はい、その通りです」

「で、あれば解説しよう。『検索』の権能とは文字通りこの宇宙のことについて検索をする権能さ。検索ワードに制限はないし、『千里眼』のように視覚情報に限定したものでもない。『千里眼』と併用することで真価を発揮する権能だね」

「つまり『検索』で検索した情報をもとにして『千里眼』を使用する。ということですね」

「その通りだ。意図したものではあるが、位階も4に上がってるし実際に『検索』の権能を使ってみよう」


 意図したもの。レイはリンネのその発言に警戒の色を現す。


「別に警戒することでもないさ。ただ、このタイミングで『検索』と『千里眼』の権能がなければ見逃す可能性があった。というだけさ」


 レイは警戒の色をいっそう濃くして、


「何を、ですか」

「生命の誕生さ」


リンネはいつもの怪しい笑みをさらに深めた

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