第1章~チュートリアル~
第3話 位階――って言葉は中二病色強くて私は正直大好き
リンネの説明によると、結局のところ最初のマナ取得まではあまり永い時間を必要としないようであった。
永久とも言える星々の寿命は、あくまで何事もなく存在し続けられた場合であって、この厳しい自然界において、無事寿命を迎えて死ねること事態非常に珍しいことで、多くの場合何らかの要因によって死を迎えてしまう。つまり
レイの眼前に「ピコン」という通知音と共に管理者ウィンドウが現れる。
レイが管理者ウィンドウに目をやると管理者ウィンドウ上に『規定の条件を満たしたため位階上昇しました』との情報が表示されていた。
レイは管理者ウィンドウに表示された規定の条件という文字を注視する。規定の条件というのはおそらく魂の輪廻転生によって得られたマナの量が関係するのだろうと、それはつまり規定の条件を満たす程の星の死があったということだ……
レイは管理者部屋の窓から見える美しく光輝く星々を眺める。
「無理な話かもしれないが、あまり感情を入れ込まない方がいい」
リンネが優しく語りかける。
「レイ君、今はまだ命とはいえ意思の薄い生命しかいない世界だがこれからはそうはいかない。どれ程の時間がかかるかはわからないが、確実に今より明確な意思を持ち君ともコミュニケーションを取れる生命が生まれてくる。それに君の位階の上昇にともなって管理できる魂の数も増えてくる。その時になって今のように一つ一つの命に思いを向けているよう――」
言いかけてリンネは口をつぐむ。気付いたからだ。レイが自身のことを見ていることに、真っ直ぐと、わずかな悲しみをおびた瞳で。
「わかっています。こんなんじゃ駄目なんだろうなって、でも今は……死を悼む余裕がある内はそうさせてもらえませんか」
その言葉にもどこか悲しみが感じてとれた。
リンネは自身を見つめる管理者に、自然と微笑みを返していた。
「流石レイ君、やはり君こそが管理者に一番ふさわしい人間だ。」
「管理者失格、ではなく……ですか」
「レイ君、私はね、管理者に一番必要な資質は優しさにあると思うんだ」
「厳しさではなくてですか」
「厳しさも勿論必要さ。だけどね、その厳しさの前には必ず優しさがなくちゃいけない。優しさが前にない厳しさの前にあるのは、怒りとか、支配欲とか、ろくなもんがありゃしない。だから優しさを持つレイ君は管理者の資質をバッチリ持ってるってことさ」
言ってリンネの微笑みが笑みに変わる。それはレイが今まで見てきたどこか含みのある笑いにはない、レイに対する素直で純粋な好意が感じられ、レイは思わず赤面し、反射的にリンネから顔を背けた。
「そ、それで位階が上昇したということは、何かしらの権能を得たかもしれません。一度確認して見ましょう」
誤魔化すように早口で捲し立てるレイ。リンネはそんな可愛い管理者様を見てコホンと咳払いし、
「それもそうだね。レイ君、管理者ウィンドウから権能を確認してみよう」
赤面のことには触れず、いつもの口調でレイに権能を確認するよう促した。
言われたレイは早速、管理者ウィンドウを開き自身のステータスを確認する。
――――――
真名 レイ アカシャ
位階 2
権能 不朽不滅 空間作成 魂管理level2
千里眼
スキル マナコントロールlevel1
――――――
位階1の時にあった宇宙創世の権能が消され、新たに千里眼の権能が追加されている。
「お、千里眼の権能が追加されてるね~」
レイの顔の直ぐ隣から管理者ウィンドウを覗き込むリンネ。
――顔が近い。
レイの頬がわずかに朱に染まる。レイはチラリと横目でリンネの方に視線を移す。バッチリリンネと目が合った。リンネはいつものいやらしい笑みを浮かべている。
――やられた。
気付いたものの後の祭りだ。レイは頬の朱色を落とすために長く息を吐く(吐く息もないが)そして努めて冷静にほんのわずかな朱色を残し発言した。
「千里眼の権能は、僕の知識にある千里眼とほぼ同じものと考えていいのでしょうか?」
「そうだね、見通すことのできる範囲と写し出せる対象が君の目と管理者部屋の窓という点以外はレイ君の想像通りだよ」
「わかりました。使い方はどうすればよいですか」
「宇宙創世や管理者ウィンドウの時と同じだよ。千里眼の権能を使うと念じた後に、どこを見たいのか更に念じればいい。自分自身の目を使うのか、管理者部屋の窓を使うのか、はたまたその両方か、それについてもその時に念じればいいよ。試しにやってごらん」
「わかりました」
レイはフゥと深呼吸をして心を落ち着け、頭の中をクリーンにすると意を決して千里眼の権能を使用した。
すると管理者部屋の窓が反応した。一瞬の暗転後、管理者部屋の窓に写し出されたのは漆黒と純白で二分割された映像であった。
「あれ?てっきり自分の目を使うと思ったのに、この部屋の窓を使ったんだね」
リンネは管理者部屋の窓に写し出された映像を見ながら以外そうに言った。
「それじゃあリンネが見えないでしょう」
さも当たり前のように言うレイ。言われたリンネは呆けた顔をした後にクックッと笑い
「レイくんは本当に優しいなあ」
心底楽しそうにそう言った。
「?」
しかしながらリンネの言葉の意味が上手く伝わらなかったのか、レイは「ありがとう」と呆けた顔で返すのみであった。
リンネはひとしきり笑うと、再び視線を管理者部屋の窓に移し。
「それでレイ君はいったいどこを見ようとしたんだい」
写し出された漆黒と純白の画面について質問する。
「一応、宇宙果てが見たいと念じたのですが……これって誤作動か何かですか?」
「いや、正常に作動しているよ」
「そうなのですか?」
「ああ、今窓に表示されているのは間違いなくこの宇宙の果てだよ。黒色と白色の境目がちょうどこの宇宙とその外の境界線になっているんだ。――分かりにくいと思うけど、よく見ると白色が黒色をゆっくりと侵蝕しているだろう。」
言われてレイは境界線の部分を注視する。確かにゆっくりとではあるが白色が黒色を侵蝕しているように見える。
「本当ですね。」
「ああやって白色――マナが宇宙の外にある黒色――拒絶物質を侵蝕してこの宇宙を広げているのさ」
「宇宙を広げるのにもマナが必要なのですね」
「拒絶物質に穴を空けられるのがマナしかなかったからね。まあその辺は気にしなくていいよ、こちらの話だ」
その様な言い方をされれば余計に気になるものであるが、レイはなぜかそれ以上聞く気になれなかった。こちらの話と言われては、追求する気にならなかったのかもしれない。
「そうですか、それでは質問なのですが画面の端にあるチェックマークというのは?」
「それは今表示されている場所をマーキングしておけるというものだよ。ほら、後から同じ場所を見たくなった時にマーキングされていた方が見やすくて便利だろう」
「それはそうですね。では、念のためこの場所もマーキングしておきましょう」
そう言ってレイが管理者部屋の窓に向かって念じると、窓上に『マーキングされました』と文字が表示される。
「さて、千里眼についての説明はこんなところでいいかな?」
レイは管理者部屋の窓をすみずみまで見直し、見落としがないことを確認すると、短く「はい」と返事をしたのだった。
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