第五百四十七話 大幹部も子どものようなもの
翌朝、シロちゃんに負けじとピーちゃんも帝国側の陣地に行って様々な情報を集めて来ました。
一匹と一羽の集めた情報に、軍の幹部はかなり驚いていた。
特にナンシー侯爵とビクターさんにとっては、王都にいては絶対に得られない情報だった。
更に、シロちゃんはまたもや大量の武器を奪ってきたみたいだ。
食料や治療薬には一切手を付けないあたりが、シロちゃんの優しさなのかもしれない。
この後、関係者を集めて会議を行う予定です。
でも、その前に警戒に当たっているもの以外を食堂に集めて訓示を行います。
僕たち治療班も、一緒に並んで話を聞きます。
まず最初に、ナンシー侯爵が兵の前に立ちました。
「帝国と国境を接するこの大変な任務を日々こなす諸君に、我々も敬意を表する。帝国の奇襲攻撃から始まった一連の戦闘に耐えることが出来ているのも、勇猛果敢な諸君らのお陰である。治療部隊やレオ宮廷魔術師の活躍も聞こえているが、真に評価をされるべきは諸君らだ。これからも、国を守る諸君らの健闘を祈る」
短いけど、力強い言葉で最後を締めくくりました。
ナンシー侯爵は横暴だった先代と違って兵の面倒見がいいと言われていて、慕っている兵も多いそうです。
続いて、ビクターさんが訓示を行います。
「今回の戦闘には海軍からも兵が参加しているが、国の大事に陸軍海軍の垣根は関係ない。それ程、国を守るということは大切な任務である。諸君のお陰で、多くの国民が安全にそして平和に暮らしていけるのである。諸君らの任が完了するまで、粉骨砕身の気持ちでこの難題にとりかかって欲しい」
奇襲を受けて、急いでシークレア子爵領にある海軍基地から応援が駆けつけていたそうです。
今でも、連絡調整役など数多くの海軍兵がこの国境の基地を支えているそうです。
今後の戦況次第では更なる海軍の投入も検討されているらしいですが、今のところは大丈夫みたいです。
忙しいので訓示は手短に終わり、それぞれが部署に散らばっていきました。
無事に終わってホッとしていると、エラさんがニヤニヤしながら近づいてきました。
「うんうん、あんたたちもしっかり話せるようになったね。演説の練習をしてどもりまくっていた頃とは全然違うじゃんか」
「「あ、ありがとうございます……」」
エラさんはナンシー侯爵とビクターさんの背中を笑顔でバシバシと叩いていたけど、ずっと前から見ていた兵がこんなに立派になって嬉しいのかもしれないね。
当の大幹部二人は、エラさんに褒められて何だか微妙な表情になっていたけど。
そして、会議があると言って足早に食堂を後にしちゃいました。
実際に会議があるのは間違いないもんね。
「あーあー、恥ずかしくなったね。いつまでたっても、褒められて赤くなるのは変わらないねえ」
エラさんにとって、軍の幹部も自分の子どもみたいなもんなんだね。
そして、昼食の準備をすると言って食堂に入っていきました。
でも、エラさんもずっとニコニコしていたなあ。
さてさて、僕もレンガ作りを頑張ろうっと。
ちなみに、シロちゃんは筆談が出来るのでピーちゃんと一緒に会議に参加するそうです。
「うーん、このくらい作れば大丈夫かな?」
「おう、十分だな。じゃあ、昼食を食べてレンガが冷えるのを待つとするか」
いっぱいのレンガを作って、僕も一緒にいた兵もとっても満足です。
一旦レンガ作りもこれで終わりみたいで、明日からはまた別の作業が始まるそうです。
すると、僕たちに声をかける人たちが現れました。
「いやいや、相変わらず凄い魔法だね。流石は宮廷魔術師様だ」
「これだけの魔法を使って、まだ余裕ありそうだな」
ナンシー侯爵とビクターさんが、拍手を送りながら僕に近づいて来ました。
うーん、僕としてはいつも通りに作業しただけなんだよね。
でも、煙を立てずにレンガを焼くのは不可能なので、こうして秘密裏にレンガを作って基地の補修が出来るのは凄いことらしいです。
ちょうどお昼の時間なので、みんなで食堂に移動しました。
すると、笑顔で僕たちを出迎えてくれた人がいました。
「おっ、やっと来たね。今日は大幹部様に相応しい昼食を用意したよ」
「「あっ、ありがとうございます……」」
ニカっとしているエラさんの自信作を前にして、大幹部二人はまたもや複雑な表情をしていました。
どんなに偉くなっても、エラさんにはかなわないんですね。
王都に帰ったら、軍務大臣のブランドルさんやブラウニー伯爵にエラさんのことを聞いてみよう。
どんな話が出てくるのか、とっても楽しみです。
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