第四百六十七話 侍従の矜持と久々の手合わせ

 コレットさんとスカラさんたちと大食堂に着くと、ここでジェシカさんが立ち上がりました。


「レオ様、昼食をお持ちします。トマトパスタで宜しいですか?」

「えっ? いつも僕が取りに行っていたので、僕が取りに行きますよ」

「レオ様、私が取りに行きますので」


 うう、ジェシカさんに押し切られちゃいました。

 すると、ちょうど大食堂に入ってきたバッツさんが僕たちのやりとりを見て大爆笑していました。


「ははは、侍従に押し切られるとは。レオは、騎士爵になっても変わらないな」

「ちげーね。まさか、侍従に尻に敷かれているとは」

「笑っちゃ駄目よ。優しいレオ君らしいじゃない」


 何だか他の兵も僕たちのやりとりを見て色々と言っているけど、悪く言っている人はいません。

 そして、マイスター師団長さんも一言。


「レオ君、侍従の仕事は取っちゃ駄目だよ。ただでさえ黒髪の魔術師に仕える侍従なのだから、周りからの目もあるんだよ。まあ、私も自分でやって侍従に注意されたことがあるけどね」


 うう、僕も今まで一人でやっていたのもあるから全部自分でやっちゃうんだよね。

 ジェシカさんにお世話をしてもらうことに、早く慣れないといけないかもしれないね。

 そして、ジェシカさんが料理を運んできたタイミングで、昼食を食べ始めます。


「大食堂のトマトパスタは久々です。とっても美味しそうです!」

「レオのトマトパスタ好きは、相変わらずだな」

「そこが、レオ君の可愛らしいところよ」


 そして、僕が目の前のトマトパスタに夢中になっていると、再び周りの兵がニヤニヤし始めました。

 でも、僕は周りを気にせずにトマトパスタを食べ始めました。

 うーん、やっぱり大食堂のトマトパスタはとっても美味しいですね。

 シロちゃんとユキちゃんも、あっという間にトマトパスタを完食しました。

 僕たちが食べ終えて食器を片づけてから、ジェシカさんが昼食を食べ始めました。

 やっぱり、侍従は使える人と同じタイミングでは食事は食べないんですね。

 今まで色々な人とワイワイしながら昼食を食べていたから、ちょっと寂しい気持ちです。


「よし、じゃあレオ、帰る前に一本やるぞ」


 昼食後は、以前と同じバッツさんとの手合わせです。

 シロちゃんとユキちゃんも、木剣を取り出して意気揚々とグラウンドに出ていきました。

 そして、上品だけどあっという間にトマトパスタを食べ終えたジェシカさんも、僕と一緒にグラウンドに向かいます。


 ガキン、ガキン!


「えい、えい!」

「もっと強く打ち込んで良いぞ。そうだ、もっとだ」


 木剣がぶつかる音とは思えない、鈍くて強い音が響きます。

 僕とバッツさんの横では、シロちゃんとユキちゃんが同じく木剣で打ち合っています。

 身体能力強化を全開にしてもバッツさんを打ち崩せないので、結構悔しいです。


「はあはあはあ、やっぱりバッツさんは強いです」

「まだまだ若造には負けないよ。俺も、鍛え始めたからな」


 手合わせを終えてグラウンドに腰を下ろした僕に、ニヤリとしながらバッツさんが木剣を肩に担いでいました。

 うう、やっぱりバッツさんは反則的に強いよ。

 すると、バッツさんは僕にあることを質問してきました。


「レオ、何か剣の訓練を変えたか? 今までは力押しが多かったけど、少し柔軟な剣になっていたぞ」

「うーん、身体能力強化を使わないでフランソワーズ公爵家の人と訓練をしているからかもしれません」

「多分、それだろう。問題があるわけじゃないし、そのまま訓練を続けた方がいいな」


 毎朝、僕はウェンディさんとアレックスさんと木剣を使って訓練をしています。

 最近は、クリスちゃんも基礎訓練を始めたし、みんなで一緒にやっているんだよね。


「アン、アン、アン!」

「あの犬っころも、少しマシな剣を振うようになったな」

「この間、不良冒険者をユキちゃんが撃退したんですよ。その、股間を前脚で打ち抜いてですけど……」

「ははは、そんなことをしていたとは。まあ、相手が不良冒険者なら問題ないだろう」


 まあ、酔っ払い相手だし、ユキちゃんを馬鹿にしていたのもあるけどね。

 こうして軍の治療は終了し、僕たちは馬車に乗って再びバーボルド伯爵家に向かいました。

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