第三百九十話 新しいお友達

 お昼前になると、今度は冒険者風の人が多く並んできた。

 冒険者は朝早く依頼を受けにいっていたから、午前中は数が少なかったんですね。

 そして、僕の二つ名を知っている冒険者もいました。


「おっ、その姿は黒髪の魔術師か。無料治療を行うって聞いたけど、とんでもない治癒師が無料治療を行っているな」

「僕の事を知っているんですね」

「冒険者の中じゃ、黒髪の子どもはとても有名だからな」


 中年男性の冒険者が膝の治療を受けながら話してきたけど、やっぱり黒い髪の子どもって非常に珍しいんだって。

 僕も今まで他の髪が黒い人には会った事はないし、確かに珍しいんだね。

 他の人も僕の存在にビックリした人がいたけど、概ね治療は順調に進んでいきます。

 すると、僕もビックリする事が。


「あの、この子を治療できますか?」

「クゥーン……」


 女性の冒険者が連れてきたのは、中々の大きさの首にバンダナを巻いたオオカミでした。

 オオカミは前足を怪我していて、ひょこひょこと辛そうに歩いていました。

 僕は、直ぐにオオカミに魔法を流しました。


 シュン。


「あっ、骨にヒビが入っています。これは痛いですよね。直ぐに治療しますね」

「黒髪の魔術師様、お願いします」


 怪我をしていれば、人も動物も関係なく痛いよね。

 僕は、オオカミが元気になるように回復魔法をかけます。


 シュイーン、ぴかー!


「これで骨も大丈夫です。細かい傷もあったので、全部治しましたよ」

「ウォン、ウォン!」

「わあ、こんなに元気になって。本当にありがとうございます!」


 オオカミもとても元気になって、尻尾をブンブンと勢いよく振っています。

 お姉さん曰く、このオオカミは赤ちゃんの頃から育てていたパートナーらしく、もう家族同然らしいです。

 そのオオカミが怪我をしたら、お姉さんも心配するよね。

 お姉さんは、僕に何回も頭を下げていました。

 僕も、無事に回復してくれてとても嬉しいです。

 その後も、何人か従魔を連れてきた冒険者に出会いました。

 馬を連れてきた人にはビックリしたけど、僕とシロちゃんは治療ができればどんな人でも動物でも治療します。

 こうして、僕たちもお昼休憩の時間になりました。


「レオ君は、従魔にも親身になって治療していて、本当に優しいわね」

「本当にそうね。傷ついたものなら、関係なく治療しているわ」

「とても素晴らしい精神です。別け隔てなく隣人を愛せよという、まさに神の教えを体現しておりますな」


 イストワールさんとシャンティさん、それに司祭様から従魔や馬を治療したのをかなり褒められちゃった。

 僕としては、いつも通りに治療したと思っていたけどね。

 シロちゃんも僕の意見に同意したみたいで、うんうんと頷いていました。

 すると、ここでトラブル発生です。

 何かを抱えた守備隊員が僕達のところにやってきました。

 抱えているのは、ちょっと汚れているけど真っ白なコボルトでした。


「普段ならコボルトは討伐対象なのですが、敵意もなく門の所でふらふらと倒れたのでこちらに連れてきました」

「まあ、まだ子どものコボルトなのね。それにしても、珍しい毛色だわ」


 守備隊員に連れてこられたコボルトはとても小さくて、イストワールさんもビックリしていました。

 急いで治療をしないと。

 僕は小さなコボルトに魔法をかけました。


「わあ、痩せている上に全身に打撲の跡がありますよ」

「きっとお腹も空いているのね。炊き出しのを分けて貰ったわ」


 背中に特に打撲の跡があったので、直ぐに治療して生活魔法で毛並みも綺麗にします。

 そして、美味しそうな匂いでコボルトが目を覚ましました。


「クンクンクン。パクパクパク」

「わあ、一心不乱に食べているね。よっぽどお腹が空いていたんだ」

「何かしらの原因で、群れを追い出されたのね」


 うつわに盛られた野菜たっぷりの炊き出しのスープを、コボルトは一心不乱に食べていました。

 そんなコボルトの頭を、シャンティさんがやさしく撫でていました。

 コボルトが落ち着くまで、僕たちは様子を見守っていました。


「ふむふむ、毛色が違うからおかしいって言われてイジメられて群れを追い出されたんだね」

「アオン……」

「それで、お腹が空いて気絶しちゃったんだ」

「オン……」


 シロちゃん通訳を入れてもらいながら、コボルトから事情を聞きます。

 たまたま毛色が違うだけで、大変な目に合っちゃったんだ。

 だから、まだ小さいのに一人きりなんだね。


「もっと強くなりたいんだね。じゃあ、僕とシロちゃんと一緒にいる?」

「アン!」


 このコボルトは、イジメられていたから強くなりたいんだね。

 だったら、僕もシロちゃんも応援してあげるよ。

 じゃあ、名前をつけてあげないと。

 うーん、何が良いかな?


「とっても綺麗な白い毛並みだから、ユキちゃんって名前はどうかな?」

「アオン!」


 女の子だし名前も気に入ってくれたので、今日から僕たちの新しい友達です。

 えーっと、さっきオオカミを連れていた人のように、赤いバンダナを巻いてあげます。

 これでよしっと。

 更に、シロちゃんが凄いことを教えてくれました。


「あのね、シロちゃんがユキちゃんには水魔法と回復魔法の力があるんだって。だから、一緒に魔法の勉強をしようね」

「オン!」


 生まれつき魔力が強いから、もしかしたらユキちゃんの毛並みが他のコボルトと違うのかも。

 頑張れば、ユキちゃんはスーパーコボルトになれるかもね。


「レオ君は、やっぱり優しいね。一人ぼっちになったコボルトを助けてあげるなんて」

「僕も親に見捨てられたので、この子の気持ちが分かるんです。だから、今度は僕が助けて揚げなくちゃって思ったんです」

「辛い事があったのに、レオ君は真っ直ぐに育ったのね。だからこそ、ユキちゃんはレオ君に懐いたのかもね」


 シャンティさんが僕とユキちゃんの頭を撫でていたけど、誰だって一人ぼっちは淋しいよね。

 こうして、新たな友達と共に僕とシロちゃんは治療を再開しました。

 時折、シロちゃんがユキちゃんに魔法の使い方を教えてあげました。

 そして、僕が動物にも分け隔てなく治療するという新たな教会の逸話が誕生していました。

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