第二百八十五話 窃盗団に完全勝利です

 ボリボリ。


「何だ何だ? 朝っぱらから変な事をしているのは」


 村のとある家から、不機嫌そうにこちらを見る大男が現れました。

 髪はもしゃもしゃのロングヘアなんだけど、二メートル近い身長に右頬にある大きな傷を指でかいています。

 間違いなく、この男が例の指名手配犯のゴルビだね。

 僕もシロちゃんも、勿論フレアさんとミシャさんも最大級の警戒をします。


 ジリッ、ジリッ。


 ゴルビが、不機嫌そうな表情で一歩ずつこちらに近づいてきています。

 僕達も周りの守備隊の人も、ゴルビを警戒します。

 ここで、こっそりとあの魔法を使ってみましょう。


 もわーん。


「ぐっ、何だこれは!」


 僕はアジトに使ったスリープを、無防備で歩いてくるコルビに放ちました。

 練習中の魔法だから完全には効かなかったけど、コルビは一瞬意識を失いかけて首を振っていました。


 ダッ。


「せい!」

「ぐっ。貴様、フレアだな!」


 その瞬間を逃さずに、フレアさんが強烈なボディーブローをコルビの腹に突き刺しました。

 しかも、火魔法を拳に纏った強烈な一撃です。

 でも、ゴルビもダメージを受けながら直ぐに体勢を立て直して、フレアさんに襲いかかりました。


 ブオン、ブオン。


「おらっ、おら!」

「ふっ、せい」


 ゴルビは身体能力強化を使った大振りのパンチを繰り出しますが、フレアさんは余裕で見切っています。

 でも、フレアさんは剣を抜いていないし、ミシャさんもフレアさんを助けに行きません。


「ミシャさん、フレアさんは何で剣を使わないんですか? あと、何でミシャさんもフレアさんを助けに行かないんですか?」

「まあ、あの二人は因縁の仲なのよ。ゴルビが一方的にフレアに惚れていて、フレアはそれを断っているの。フレアも、昔の冒険者時代のゴルビを知っているから、剣で切りにくいのかもね」


 でも、コルビはもう犯罪者だし、フレアさんも剣を抜かない理由はないはずだよ。

 現にミシャさんは双剣を抜いていて、いつでも突っ込める様にしてあります。


 ドカ、バキッ!


「ぐっ、何でフレアがこんなにも強くなっているんだよ! 昔の弱いフレアじゃなかったのか?」

「私は自己研鑽を怠っていない。コルビは、強くなっていく自分に溺れているだけだ」


 段々とゴルビが押され始めていき、かなり焦ってきた。

 フレアさんは毎日の訓練を頑張っているし、魔法の使い方も上達しているんだよ。

 欲に溺れたゴルビとは、違うんだよ。


 ダッ、シャキーン。


「くそ。フレア、殺してやる!」

「あっ!」


 不利を悟ったゴルビが、バックステップでフレアさんから距離をとった。

 そして、胸元から短剣を抜いていた。

 それでもフレアさんは、剣を抜いてなかった。


 ダダッ!


「フレアー! ぶっ殺す!」


 ゴルビは、身体能力強化を最大にして一気にフレアさんに襲いかかった。

 僕とシロちゃんはフレアさんが危ないと思ったけど、僕の隣にいるミシャさんは双剣を構えたまま余裕の表情だった。


 シュッ、ザクッ!


「ぎゃあああ! 腕がー!」


 フレアさんとゴルビが相対する瞬間、フレアさんは物凄い速さで剣を抜いて、短剣を持っていたゴルビの右手首を跳ね飛ばしていた。

 コルビは出血が止まらない右腕を抑えながら、苦痛に顔を歪めながらしゃがみこんでいた。

 そしてフレアさんは、何事もなかったかの様に剣を納めて僕達の所に戻ってきた。


「フレア、お疲れ様」

「最初から、剣を抜くタイミングをはかっていたわ。戦って改めて感じたけど、コルビは完全に獣になっていたわ」

「そうね。冒険者をやり始めた頃は、夢を追いかける若者だったのにね。どこで道を間違えたのかしら」


 フレアさんは、最初からコルビを切るつもりだったんだ。

 敢えて格闘戦で、ゴルビがどうなっているかを確認していたんだ。

 僕も一安心した所で、ゴルビに変化がありました。


 ユラッ。


「殺す、殺してやる……」


 どうも、ゴルビは残った左腕で僕達を攻撃するつもりです。

 右腕の止血を止めて、鬼の形相で立ち上がりました。

 でも、僕達もただ立っている訳じゃないよ。


 シュイン、ボン。


 バリバリバリ!


「ウギャー!」


 どしーん。


 僕は溜めていた魔力で、サンダーバレットをゴルビめがけて放ちました。

 ゴルビはモロにサンダーバレットを食らったので、意識を失ってうつ伏せに倒れました。


 ぴょーん、ぴょんぴょん。


 ぴかー。


 そして僕の頭の頭の上に乗っていたシロちゃんが飛び降りて、ゴルビの右腕に出血が止まる程度の回復魔法をかけました。


「直ぐに拘束しろ。ゴルビは重要人物だ」


 そして、守備隊の人によってゴルビはあっという間に拘束されました。

 勿論、魔法使い用の拘束魔導具も使っています。

 ゴルビはとっても体が大きいので、護送用の馬車に乗せるのも一苦労ですね。


「レオ君、後始末を任せちゃってごめんね」

「いえいえ。ミシャさんも、ゴルビの左腕を切り落とすつもりでしたもんね」

「あら、分かっちゃったのね。重要参考人だから殺すつもりはなかったけど、完全に戦闘不能にするつもりだったわ」


 ミシャさんは僕にそう言うと、ニコリとしながら剣を鞘に納めていました。

 ミシャさんの魔力が、一気に増大した感覚があるんだよね。


「さて、これで窃盗団の件は終わりね」

「そうね。あっという間に片付いちゃったわね」


 フレアさんとミシャさんは、清々しい表情をしながら話をしていました。

 守備隊の人も怪我をしていないし、僕達の完全勝利ですね。

 僕もシロちゃんも、思わずホッとしちゃいました。

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