第百七十五話 頑張って皆に魔法を教えます
ここで事の成り行きを見守っていたチャーリーさんが、師団長さんの所に歩み寄りました。
「ナンシー侯爵家か、それは面倒くさい貴族の子弟がおったのだな」
「マリアージュ侯爵様、部下のコントロールが出来ず申し訳ありません」
「いやいや、あの貴族家の選民意識は私も良く理解している。しかし、今回の件はナンシー侯爵家に一言言わないとならないな」
二人の話を聞く限り、とっても面倒くさい貴族の出身なんだね。
僕も面倒くさい貴族と関係した事があるから、二人の何となく気持ちは分かるなあ。
「レオ君、本当に申し訳無い。あいつは大した能力も実力も無いのに、侯爵家の威光を頼りに大威張りしていてな、私も対処に苦慮していたんだ」
「僕もゴルゴン男爵やバーサス子爵を知っていますから、何となく気持ちは分かります」
「そういえばそうだったね。あいつは、懲罰委員会の結果が出るまでは拘束される。他にも問題をおこしていたから、帝国との国境境にある最前線に送られるだろう」
まあ、あれだけ苛烈な性格だし、どう考えても普通じゃないよね。
どこにいってもどんな職業に就いても、あの性格だと大失敗をしそうな気がするよ。
「じゃあ、魔法の訓練を始めましょうか。時間も経っちゃいましたからね」
「済まんな、じゃあ頼むぞ」
僕は師団長さんに話しかけてから、朝も来た魔法使いの人の所に向かいました。
「レオ君、本当に凄かったわ。あいつ、実力ないくせに威張っていて、本当に迷惑だったのよ」
「セクハラ行為もしてくるし、本当に嫌になっちゃうわ」
「レオ君にぶっ飛ばされた所を見て、清々したわ」
うわあ、話しかけた途端に愚痴が止まらないよ。
それだけ、あの大柄な男性から嫌な目にあっていたんだね。
嫌な事を忘れる為に、早速訓練を始めます。
「実は、朝もレオ君から教えて貰った訓練を皆に伝えたのよ。とても好評だったし、早速訓練に取り入れたわ」
「皆さんに気に入って貰って、とても良かったです」
「レオ君がどうやったら上手に魔法を使えるか、良く考えているからね。だから、これからも自信を持ってナナさんに教えてあげてね」
軍の魔法使いの人にも太鼓判を押されたから、僕もちょっと自信がついちゃったよ。
そして軍の人とお話していたら、ちょっと戸惑いながら訓練をしていたお姉さんがいたよ。
何かあったのかな?
「お姉さん、どうかしましたか?」
「レオ君の活躍を見たら、少し自信無くしちゃいまして……」
えー!
お姉さんの調子が良くないのは、僕のせいなの?
ど、どうしよう……
そう思ったら、宿に来たお姉さんが僕に話しかけてきました。
「レオ君、実はこの子ね回復魔法専門なんだけど、あのバカに回復魔法しか使えないクズだって言われていたのよ」
「えー、それは酷いです。回復魔法も凄いのに」
まさかの根本原因が、あの大柄な男性だったとは。
このままだと良くないし、ここは僕が回復魔法も凄いって教えてあげないとね。
俄然やる気が出てきたよ。
「今日は、お姉さんに回復魔法は凄いって教えます! 宜しくお願いします」
「よ、宜しくお願いします……」
お姉さんは僕のやる気にびっくりしちゃったけど、お姉さんには元気になって貰わないとね。
早速僕はお姉さんと手を繋いで、お姉さんに魔力を流し始めました。
「わあ、お姉さん魔力がいっぱいありますね! 凄いです!」
「そ、そうでしょうか?」
お姉さんはキョトンとした表情になったけど、ナナさん程じゃないけどいっぱい魔力を持っているよ。
あの大柄な男性の比じゃないよ。
続いて、魔力循環と魔力制御もやって貰ったけど、お姉さんはとっても上手に出来ています。
「お姉さん、凄いですよ! 魔力制御も完璧です!」
「そ、そうですか? ずっと訓練してましたから……」
お姉さんは顔をちょっと赤らめながらも、良い笑顔でした。
ここまで完璧だと、もしかしたら治療のやり方が悪いのかもしれないね。
「お姉さん、回復魔法っていつもどうやっていますか?」
「えーっと、痛いと言われた所に魔法をかけます」
あっ、やっぱりだ。
相手に軽く魔力を流して、どこが悪いかを確認していなかったんだ。
そうすれば、直ぐに治療が上手くなるよ。
「すみません、どなたか健康な人をお願いできますか? お姉さんに、治療のやり方を教えてあげたいのですが」
「よし、俺がやろう」
「モーリス……」
僕が周りにいる人に声をかけたら、スキンヘッドの大きな男性が真っ先に手を上げたよ。
お姉さんが何か呟いたけど、もしかしてお姉さんの知り合いかな?
周りの人もチャーリーさんもターニャさんもシロちゃんを抱いたクリスちゃんも、皆んなで興味深そうに僕達の周りに集まってきたよ。
「回復魔法をやる前に相手に軽く魔力を流すと、相手の体の悪い所が淀みのイメージで返ってきます。お兄さんは健康体だというので、何も無ければ綺麗なイメージが帰ってきます」
「よし、スカラやってくれ」
「はい」
お姉さんは目を閉じて、お兄さんに魔力を流し始めました。
すると、お姉さんがびっくりした表情に変わりました。
「あの、モーリスの足先から淀みが返ってきました……」
「えっ、僕も確認します。あっ、本当だ。シロちゃんも確認して」
お姉さんの一言に加えて僕もおかしいと言ったので、周りがざわざわし始めました。
そして、クリスちゃんの腕の中から飛び出して確認をしていたシロちゃんも同じ結果でした。
でも、この感覚ってどこかで感じた気がするよ。
「あの、お兄さんの指先が全て悪いみたいです。でも、骨折とかじゃなくて爪とかですね」
「水虫だな」
「水虫だろう」
「水虫で間違いないな」
「水虫ね」
「水虫だわ」
「お前ら、揃いも揃って水虫水虫言うな!」
良かった、もっと重病だったらどうしようかと思ったよ。
でも、ここまでいけばもう大丈夫ですね。
「じゃあお姉さん、今度は淀みが良くなるように頭の中で思い描きながら魔法を流して下さい」
「頑張ります」
おお、お姉さんはとても良い顔になったよ。
そして、真剣な表情でお兄さんに回復魔法をかけました。
きっと上手くいくと思ったら、お姉さんの顔が曇っちゃったよ。
「すみません、私の力では治せません……」
「えー! そんなはずはないよ。シロちゃん、お願いね」
ちょっと項垂れているお姉さんに代わって、今度はシロちゃんがお兄さんに聖魔法をかけます。
でも、上手くいかなかったみたいで、シロちゃんもしょんぼりしちゃいました。
「シロちゃんの聖魔法でも駄目だったなんて。よーし、じゃあ回復魔法と聖魔法の合体魔法を使います!」
「「「おおー!」」」
きっとこれなら大丈夫!
だと思ったんですけど……
「すみません、合体魔法でもお兄さんの水虫を治せませんでした。他に悪い所はありません……」
「そ、そうか……」
僕も水虫を治せなくて、お兄さんは微妙な表情をしていました。
うう、やっぱり僕はまだ水虫を治せないんだ……
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