第百七十二話 僕は普通の魔法使いだよね?

 勲章の授与式の翌朝、師団長さんの言った通りに軍の魔法使いのお姉さんが僕達の泊まっている宿に三人やってきました。

 全員が軍服を着て、魔法使いらしくマントを羽織っています。

 服装がとってもカッコいいですね。


「レオ君、おはようございます。今日は宜しくお願いしますね」


 僕は、軍の魔法使いのリーダーっぽい緑色の短髪のお姉さんと握手します。

 さてさて、早速いつもの魔法訓練を始めます。

 僕はナナさんの手とシロちゃんの触手を握り、ナナさんも僕の手とシロちゃんの手を繋ぎました。


「最初は、お互いに魔力を流し合います。初めの頃は僕とナナさんで魔力を流し合っていましたが、今はナナさん達も忙しいので時間短縮の為に三人で魔力を流し合っています」

「おお、こうかな。確かに他人に魔力を流し合うのは、中々難しいな」

「それに、他人の魔力って微妙に違うんだね」

「これは良い訓練になるね」


 流石は軍の魔法使いだけあって、直ぐに他人の魔力が違う事にも気が付きました。

 出来る人は、やっぱり違うね。


「一分くらい魔力を流したら、今度は魔力が流れる感覚を忘れないうちに魔力循環と魔力制御を始めます」

「これは効率が良いですね」

「魔力循環の訓練で上手く魔力が循環出来ているか分からないという人もいるが、この方法だととても分かりやすいです」

「魔力制御も同様ですね。先に魔力が流れる感覚があるからこそ、魔力を制御する感覚を掴みやすいです」


 魔力制御をしながら感想を言い合うなんて、やっぱり凄いね。

 それに、直ぐに僕の訓練の目的に気がついてくれたので、説明が省けて助かります。

 今度は、実際に魔法を放つ訓練です。

 昨日と同じく、壊れている盾を木に立てかけて準備完了です。


「魔法はイメージが大切なので、先に僕がお手本を見せます。今日はバインドです。盾を魔力の紐で縛るイメージで放ちます」


 ヒュン。


 上手く出来たので、今度はナナさんの番です。


「いきます。えい!」


 ヒュン。


「ナナさん凄いです! 一回で出来ました!」

「先生の教えが良いですからね」


 やっぱりナナさんは凄いです!

 いきなりバインドが成功しました。

 ナナさんもとってもいい笑顔で、シロちゃんも触手を叩いて拍手をしています。


「レオ君は褒めるのも上手だね」

「軍だと、出来て当たり前ですから」

「上手くできなくて、落ち込んで萎縮しちゃう人もいるからね」


 軍って、とっても大変なんだね。

 僕だったら怒られちゃったら、絶対に萎縮しちゃいそうだよ。


「次は壊れかけの盾を壊さない様に、弱いダークバレットを放ちます。魔力を強くするのって簡単なんですけど、弱くするのってとても難しいんです」

「この訓練は、直ぐに取り入れましょう」

「そうですね、とても理にかなっています」

「微細な魔力制御の訓練にうってつけですね」


 これで一連の訓練は終了だけど、どうだったかな?

 沢山時間があるわけじゃないから、効率重視で考えた訓練なんだよね。


「僕に魔法を教えてくれた人の訓練を、僕なりにアレンジしたんです」

「本当によく考えられています。そして、ナナさんの事を本当に気遣った訓練だと実感しました。何よりも、レオ君は褒めるのが上手です。レオ君が褒めるのが上手だからこそ、ナナさんも頑張ろうとやる気になります」


 軍の魔法使いの人は、とても感心した様子で僕に話しかけていました。

 もう二人は、ナナさんに僕の訓練の感想を聞いていました。

 上手くいって良かったなと思っていたら、ナナさんが僕に話しかけてきました。


「レオ君、いつもの形を見せてあげたらどうかしら? きっともっと驚きますよ」


 ナナさんがちょっといたずらっぽく笑ってきたけど、魔法剣ってとても難しいんだよね。

 という事で僕はダガーを、シロちゃんはナイフを構えます。

 実は最近、シロちゃんも魔法剣が使える様になったんだよね。


「せい、やあ、とー」

「「「……」」」


 僕とシロちゃんは、魔法剣を発動させてゆっくりと剣の形を行います。

 まだ魔法剣を発動した状態で素早く動けないから、ゆっくりと確実に行います。

 軍の魔法使いの人が僕の形を見てびっくりしちゃったけど、今は自分の訓練に集中します。


「ふう、こんな感じで形をやっています。どうでしたか?」

「いや、うん。レオ君が黒髪の魔術師と言われている意味がわかりました……」

「魔法剣を発動させる事自体凄いのに、更に剣の形までやるなんて……」

「しかも、スライムまで魔法剣を発動させています。とんでもないものを見てしまいました……」


 あれ?

 軍の魔法使いの人が、ずーんと落ち込んじゃったよ。

 僕、何かやっちゃったのかな?

 すると、ナナさんが僕に話しかけてきました。


「レオ君、何気なく魔法剣を発動させてるけど、それってとんでもなく難しい事なんですわ。私も魔法を使える様になって、レオ君が如何に凄いか改めて実感しました」


 えー!

 ナナさんまで苦笑しながら、僕の事を見ています。

 ユリアさんもイリアさんも、ユマさんもハナさんもナナさんの意見にウンウンと激しく同意しています。

 うーん、僕は普通の魔法使い……

 だよね?

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