第百六十三話 チャーリーさんから僕への話
コンコン。
「失礼します。商会の者が参りました」
「おお、そうか。入ってくれ」
執事さんがチャーリーさんに話しかけて、さっき聞いた仕立ての専門家が入ってきました。
あれ?
あの人ってもしかして……
「あっ、昨日商会で会ったお姉さんです」
「あら、レオ君が今日のお客様なんですね」
やっぱり、昨日商会で話をしたお姉さんでした。
今日はきっちりとした服を着ているけど、あのお姉さんなら良い服を作ってくれそうですね。
「おお、レオ君の知り合いだったか。それなら丁度良い。今日は、レオ君にそれなりの場でも使用できる服を作って欲しいのだ」
「畏まりました。では、直ぐに採寸いたします」
チャーリーさんは、深く頷きながら話をしていました。
そして、僕の採寸をするお姉さんを、クリスちゃんがシロちゃんを抱きながら眺めていました。
商会のお姉さんは、素早く僕の体のサイズを測っていきます。
真剣な顔は、まさに職人さんって感じですね。
「では、早速とりかからせて頂きます」
「うむ、宜しく頼むぞ」
そして、あっという間に僕の体の採寸を測り終えたお姉さんは、チャーリーさんに一礼して帰って行きました。
やっぱり、職人さんってどんな分野でも凄いんだね。
僕、どんな職種でも凄い職人さんを尊敬しちゃうな。
「さて、今日はレオ君にちょっと話を聞きたいのだ。クリス、済まんがそのスライムと一緒にいてくれないか?」
「ええー!」
おや?
チャーリーさんが僕に聞きたい事って何だろう?
話は応接室ではなく執務室でする事になったので、僕とチャーリーさんは物凄く不満なクリスちゃんと触手をふりふりして見送ってくるシロちゃんを応接室に残して歩き始めました。
そして執務室に入ると、一緒についてきた執事さんも席を外して僕とチャーリーさんの二人きりになりました。
「楽にしてくれ。他の者がいると、レオ君が緊張すると思ってな」
チャーリーさんが執事さんが席を外した理由を話してくれたけど、それでも僕は緊張しちゃいます。
「簡単な話だ。レオ君は、今後どうするのかなと思ってな」
チャーリーさんは穏やかな表情だけど、質問の内容は直球です。
とはいっても、僕の答えは決まっています。
「僕はこの先も旅を続けます。色々な経験が足りないので、勉強していきたいです。将来的には定住もあるかと思いますが、暫くは勉強を続けたいです」
「そうか、やはりその回答だったか」
僕の回答に、チャーリーさんは深く頷いていました。
どうも、僕の回答を予想していたみたいです。
「レオ君がとても頭が良くて好奇心旺盛なのは、私も知っているし今までレオ君が出会った人なら直ぐに分かるだろう。以前コバルトブルーレイクの街も秋になったら移動すると言っていたし、これからも旅を続けると言うのは容易に想像できる」
ここまで話したところで、チャーリーさんの表情が少し真剣なものに変わりました。
「でも、レオ君は幼いながらも大きな魔法の力を持っている。その力を狙う者が必ず現れるだろう。例えばレオ君を囲って、我がものにしようと考えている貴族も実際にいるのだ。また、レオ君が素直に従わない場合は力で押さえつけるか、あるいはいっその事レオ君を殺してしまおうという者も出てくるだろう。そういう貴族も、残念ながら存在するのだよ」
僕もゴルゴン男爵やバーサス子爵の様に私利私欲を求める貴族を知っているし、セルカーク直轄領では誘拐されて危うく殺されるところだった。
元々は両親にお酒のために売られた訳だし、僕も人の汚いところは知っているつもりだよ。
「全てを自分で抱え込む必要はない。今までレオ君と出会った人は、必ずレオ君の事を助けるだろう。勿論、私もそうだし、軍もそうだ。つまりは、何かあった際は周りに頼りなさいという事だ」
「はい、ありがとうございます」
「ふふ、年長者のお節介だと聞いてくれれば良い。レオ君と縁を繋いだ者は、皆そう思っているさ」
チャーリーさんが温和な表情に戻って話してくれたけど、色々な人が僕の事を気にしてくれているのを知っているよ。
こうして改めて言ってくれるって、チャーリーさんはとても良い人だね。
「さあ、応接室に戻ろう。クリスが拗ねているだろうな」
チャーリーさんが苦笑しながら立ち上がったので、僕も一緒に立ち上がりました。
確かにクリスちゃんは、いまか今かと待っているだろうね。
そう思いながら、僕とチャーリーさんは応接室に戻りました。
「むー、おそーい」
「はは、すまんな」
「むー」
やっぱりというか、クリスちゃんはほっぺたをぷっくりとしながら僕達の事をシロちゃんと一緒に待っていました。
クリスちゃんの機嫌を直す為に、僕は昼食まで一緒に遊んであげたりポーション作りを見せたりしていました。
因みに、チャーリーさんはまたお仕事があるとの事で執務室に戻っちゃいました。
チャーリーさんって、本当に忙しいね。
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