第58話 告白

◇優視点◇


 アルフィリアが用意してくれた夕飯を一緒に食卓で食べる。

 いつも通りの事のはずなのに、今はなんだか居心地が悪い。

 別に悪いことをしたわけでも、喧嘩しているわけでもない。

 ただ何を話せばいいのか分からず、お互いに会話がないまま食べ進めているせいだろう。


「「あ……」」

「…………」

「…………」


 お互いになにか話さなければと一瞬話しかけようとするも、目が合った途端に二人共黙ってしまうため、結局会話にならず沈黙が流れる。

 いつもは美味しいと感じるアルフィリアの夕飯も、今日は味を楽しむ心の余裕がない。

 

 本当に今日、告白なんてできるのだろうか。

 そんな不安が頭を過りつつ、なんとか夕飯を終えるのだった。





「…………」

「…………」


 夕飯を終えてリビングのソファーに二人で座った。

 相変わらず会話はないものの、少しだけ落ち着きを取り戻してきた。

 先ほどまでいろいろ考えていて考えがまとまらなかったが、落ち着いてがんが得てみればやることは至極単純だ。

 ただ「好きだ」という想いを伝えるだけ。

 うん、行ける気がしてきた。

 両親もいなくて、今他に優先してやるべきこともない。

 アルフィリアと二人きりで、お互いに話せる状況にある。

 絶好のタイミングだ。

 今しかない。


「……あの、さ」

「は、はい……!」


 ようやく口を開いて声を出す。

 アルフィリアも緊張していたのかビクっと肩を震わせて、背筋を伸ばしてこちらに身体を向ける。


「屋上での話、なんだけど」

「…………!」


 アルフィリアはほんの少し頬を赤らめながらも、俺の次の言葉を待つように無言でじっと見つめて来る。

 恥ずかしさで目を背けたくなるのを堪えて、次の言葉を発する。


「嬉しかったんだ」

「……えっ?」

「……好きな人だって、優しい人だって言ってくれたこと」

「~~~~~!!」


 改めて屋上で言われたことの素直な感想を口にすると、アルフィリアは頬だけでなく顔全体が赤くなった。

 それでもなんとかこちらの目を見て、聞く姿勢を崩さない出てくれているので、そのまま続ける。


「あんな話をして、俺が前までは間違いなく嫌な奴だったってことを知った上で、あんな風に思ってくれるなんて思ってなかったから……むしろ、幻滅されるんじゃないかって」

「……私は今の優さんのことしか見たことがありませんし、確かに私の知らない優さんのことも知りたいって思いますけど……それで、あなたのことを幻滅したり、嫌いになったりすることは絶対にありません。……信じていますから」


 まるで『決して貴方を否定しない』と言うかのように、真剣な表情でアルフィリアは言った。


「……ありがとう」

「私が自分の信じたいものを信じられるようになったのは、優さんたちのおかげですから。お礼を言いたいのは、私の方です」

「それは、アルフィリアも頑張っているからだよ。俺たちは少しお節介を焼いているだけだ」

「それでも、感謝していますから」

「……そうか」


 アルフィリアがあの話を聞いて、どう思ってくれているのか再確認できたところで、いよいよ本題だ。

 もうなるようにしかならない。

 もし悪い方向に転がってしまった場合は、未来の自分に託すとしよう。

 ……しばらくは立ち直れないだろうけど。


「その……伝えたいことがあるんだ」

「……?」

「すぅ~……はぁ~……」


 一度気持ちを落ち着かせるために、深く深呼吸をする。


「……俺、アルフィリアのことが好きだ」

「……!?」

「……まだ、誇れるようないい男じゃないし、周りからもよくひねくれているって言われるような俺だけど、これからは変われるように努力する。そんな俺を隣で見守っていてほしい。そしていつか自分がなりたい自分になれたって胸を張って言えるようになった時、隣には君が居てほしいんだ」


 そういって、俺は手を差し伸べる。


「俺と、付き合ってくれませんか」

「…………!」


 俺がそこまで口にしたところで、アルフィリアは目に涙を浮かべる。

 今にも泣き出しそうな顔をしていた。


「ど、どうして泣くんだ……!?も、もしかして嫌……」

「ち、違うんです……!これで、その……嬉しくて……こんな夢のような、幸せなことがあっていいのかって……」

「……それって」


 アルフィリアは目に溜まった涙を一度拭って、こちらに向き直る。

 そして今まで見たことのないほどの笑顔で、こう言った。


「こちらこそ、よろしくお願い致します」


 そう言いながら、俺の手を取って、力強く握り返してくれた。

 

「……しっかり、見守っています。そして支えていきます。だから……」

「……ああ。俺も、ちゃんと支えるから」

「はい……」


 俺は手を引き寄せて、アルフィリアを両腕で抱きしめる。

 そしてお互いに顔を見つめ合って、近くなった顔をさらに少しずつ近づけていき……お互いの唇を重ね合わせる。


 キスを終えて、改めてアルフィリアの瞳を見つめる。

 お互い顔は真っ赤で心臓の鼓動もいつもより早くなっている。

 それでも、幸福感に包まれていて……。

 

「……これからもよろしくな、

「……!はい!!」


 こうして、俺たちは恋人同士になったのだった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る