第56話 文化祭の終わり
◇優視点◇
(ピーンポーンパーンポーン♪)
『ただいまの時刻を持ちまして、○○高等学校の文化祭を終了します――』
鳴り響いたチャイムの後に流れた校内放送で、文化祭終了が宣言された。
「終わったー!!」
「お疲れー!」
「マジでもうクタクタだ……」
「うちら頑張ったっしょ!」
「……もう、動けん」
クラスメイト達は疲れが見えつつ、それぞれが満足気に今日のことを語り合っていたり、死体のように床に沈んでいるやつもいたりと様々な反応を見せている。
でも、全員共通して今日の文化祭を終えられた達成感を感じているだろう。
表情は疲れが見えるものの、みんな明るく華やかなもので、忙しかったし大変でもあったけど、文化祭をみんなも楽しめたようで本当に良かった。
「お疲れ様、優」
「……お疲れ、二菜」
そんなクラスメイト達の輪から少しだけ離れたところで余韻に浸っている俺のところに二菜がやって来た。
「いやぁ~大変だったわ……まさかあそこまでお客さんが来るなんて思わなかったわ」
「ほんとにな。クラスメイトたちの家族や友達だけでも相当な数が来たけど、客寄せ組が気合入れて呼び込んだらしいからな」
「それだけじゃないでしょ……他のクラスから来た人たちが白瀬さんに接客してもらえる~!って広めて、それ目当てに来る連中が多くなったのよ」
「……そういうことかよ」
客寄せ組が頑張ったにしてはお客さん……とくに他のクラスの人たちが立て続けに来るものだから不思議に思っていたが、そういうことだったらしい。
さすがはこのクラスのマドンナ、他のクラスにまでその名は知れ渡っているらしい。
「全く、接客やらをやるこっちの身にもなってほしいものだわ」
「それには同意だな」
「まあでも、無事に文化祭も終わったことだし……しばらくはのんびりできそうね」
「でも文化祭が終わったってことはテストが……」
「あー!聞こえなーい!」
「お前な……」
文化祭の次はそこまで間を置かずに学力テストが控えているのだが、二菜は現実から逃げるように耳を塞いた。
これはまた勉強で泣きついてくる予感がするが、今回こそは心を鬼にして一人でやらせよう。
いつまでも甘やかしてばかりでは、二菜の為にもならないのだ。
「そんなことよりも優!フィリアとはどうだったの?」
二菜がテストから話を逸らす為か、突然アルフィリアの話を切り出した。
聞きたいのは文化祭でのことだろうか。
「……どうって?」
「だから、フィリアとなにか進展あったかって聞いてんの」
「んー……あったような、なかったような……」
二人の関係性において進展があったかと言われれば、否だ。
でも心の内の話せていなかったことを話し合えたことで、お互いの事をもっと知ることができたという意味では進展があったといえる。
「なにそれ。まだ告白もしてないの?ヘタレね」
「う、うるさいな。色々話しはしたんだぞ……一花さんのこととか」
「……姉さんの話、やっとしたんだ」
「……まあ、一応な。俺が気持ちを伝えるにも、自分はこういう奴だって伝えた上で告白したかったから」
「そこまで話して告白してないんじゃ、ヘタレって言われもしょうがないわ」
「あ、あれは!二菜が急に連絡してくるからタイミングを逃したというか……!」
「はいはい、言い訳はいいわよ~」
「こんの……」
こちらの弁明を聞く耳持たないと言った感じで、二菜がヘタレだの臆病者だと煽ってくる。
こいつ、自分が振られた腹いせに俺を弄っているんじゃないだろうか。
そんな気がしてきた。
こんなやり取りを二菜としていると、クラスメイトたちが数名こちらに歩いてきた。
「なんの話してるのー?」
「白瀬……それに桐山達も」
「早乙女と柚原もお疲れ」
「ああ、桐山もお疲れ」
「みんなどうしたの?」
「俺たちで明日か明後日に文化祭お疲れ様会でもやらないかって話してたんだ」
「へぇ、いいじゃん」
「うん。それで二人もどうかなって聞きに来たんだけど……二人で何を話してたの?さっきチラっと告白って言葉が聞こえたりしたけど」
「……っ!?」
どうやら白瀬には俺と二菜の会話が少し聞こえてしまっていたらしい。
同じ教室にいる以上聞こえる可能性は確かにあるが、よりによって聞こえたのが告白というワードらしく、心臓が口から飛び出そうになった。
「えっ!?もしかして早乙女、柚原についに告白したのか!?」
「ち、ちがっ……!」
「違うわよ。私はもう優に振られているし、告白の相手は別よ」
「お、おい!二菜!お前、何暴露して……!!」
「……………………」
「……ほほう?」
二菜のカミングアウトにより、先ほどまで盛り上がっていた白瀬以外のクラスメイト達は凍ってしまったかのように固まってしまった。
しばらく静寂が流れ…………。
「「「「「「ええっーーーーーーーーーーーーーー!?!?!?!?!!?」」」」」」
クラスメイト達の驚きから発せられた声が教室中に鳴り響いた。
「どういうことだ!?柚原が早乙女に振られた?いつ!?」
「早乙女君って柚原さんとしか喋らなかったからてっきり気があるんだと……」
「いやアタシらも話しかけなかったし、そこはしょうがないでしょ。でもたしかに意外かも」
「もしかして薫ちゃんに取ってた態度って、他に好きな人がいたから冷たく当たってたとか?」
「早乙女ぇ!まさか告白の相手は白瀬さんじゃないよな!?違うよな!?」
「柚原フリーか……ワンチャン……」
いろんな憶測をする女子、自分の意中の相手じゃないかという心配をする男子……反応は様々だが、教室中が軽い騒ぎになっている。
どうすればいいんだ、この状況。
「はいはーい!みんなそこまでだよー。早乙女君が困ってるでしょー」
手を叩きながらみんなを止めたのは白瀬だ。
クラスメイトが騒いでいる中で一人だけ異様に落ち着いているが……。
ともかく白瀬の声でクラスメイト達は落ち着きを取り戻し、ひとまずは話ができる状態にまで戻った。
だがクラスメイト達の疑問は解消されていないので、当然解答求むといった感じでみんなの視線がこちらに向いてくる。
逃げ出してしまいたい……。
「……えーっと、二菜からは夏休みのときに告白されてて……それでそのときには別の好きな人がいたからそれを嬉しかったけど断って……今度その好きな人に想いを伝えようとしている……というか、その……そういう感じです、はい」
消え入りそうな声で、なんとか説明しようとしたが……恥ずかしさのあまり自分でも何を言っているのかよく分からない。
というかそもそもなぜ俺はクラスメイト達に自分の告白の予定を話しているのだろうか。
ダメだ、頭が回らない。
「しどろもどろになっている優の説明を私が代わりに要約すると、私から優に告白して撃沈。優には他の好きな子がいるからその子に今度告白するってことよ」
「…………」
「……なるほど?よくわからんけどわかった」
桐山は納得がいっていない部分があるからなのか、なんとも言えない表情でひとまずは状況を飲み込んでくれた。
こいつ、いい奴だ。
「んー、そしたらお疲れ様会どうしよっか」
「あ、私は参加するわよ。そういうイベント好きだし、何気にこのクラスでそういうことするの初めてでしょ」
「柚原は参加っと」
白瀬と桐山のおかげで話が元のお疲れ様会の話に路線が変更されたおかげで、先ほどまでの視線の嵐から多少なりとも解放された。
「早乙女君はどうする?」
「……俺が参加してもいいのか?」
「えっ?なんで?」
「いや、ほら……やっぱりみんな慣れてきてくれたとはいえ、俺がいると空気重くしちゃわないか心配だし、俺がいない方がみんな気も楽じゃないかと……」
「まーだそんなこと言ってんのか?むしろウチのクラスの立役者が参加しないでどうするよ?俺たちが誘ってるんだから、そんなこと気にしなくていいって。参加するかしないか、どうする?」
「……じゃあ、参加で。……あ、でもできれば明後日だとありがたい」
「ん、わかった」
という具合に先ほどまでの騒ぎは何だったのかと思わせるくらいにとんとん拍子に話が進んでいき、明後日にクラスメイト達と文化祭お疲れ様会をすることになった。
その際にメッセージアプリのクラスのグループに招待され、詳しい日時や集合場所などをそこで知らせることにして、今日は解散となった。
帰り際にクラスメイト達からなぜか「頑張れ」「当たって砕けろだよ」「振られてもめげるなよ」などなど、ありがたい応援の言葉をたくさんもらって、恥ずかしさがぶり返したのは言うまでもない――。
さて、俺も腹を括らないとな。
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ここまで読んでくださりありがとうございます。
小笠木詞喪です。
まずは……申し訳ございませんでした!(土下座)
週一投稿破りました。
弁明はとくにありません。
強いて言えば体調不良と時間が取れなかったことですが言い訳なので、はい。
仏の顔は三度までということでお許しいただければと……。
はい、というわけで今回で文化祭パートは終わり、次回はいよいよなお話が書けそうで一安心です。
前にもお話したように、このお話は元々の予定ではあと4話ほどで終わらせる予定でしたが、その先の話も書くことにしたのでまだまだ続きます。
最後までお付き合いいただければと思います。
さて、来週からの投稿ですが変更点があります。
来週から投稿の時間帯をまた朝に戻します。
もともと20時に投稿するのは試験的なものだったので、それが元に戻るだけです。
やっぱり朝投稿が一番いいとやってみて思いました。
それ以外に特に変更はないですが、また試験的にいろいろ更新時間などを変更したりするかもしれませんが、こちらも手探りなところが多いのでご協力いただければと思います。
よろしくお願い致します。
長くなりましたがこの辺で。
引き続きこの作品をお楽しみください。
それではまた。
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