第27話 邂逅と約束
【クライトside】
ユーリアと会った後、僕がみんなの所に戻るとスタグリアンとマリスタンがまた夫婦漫才をしていた。もうそろそろ認めても良いじゃないかと思うんだけど………なんかどっちも頑なに認めようとしないんだよなぁ。認めたら楽になるのに。
「ほら、キュール。今言っちゃいなよ」
「言ったら楽になるよ~?」
「ま、まだ心の準備できてないですよぅ………」
「ん?どうしたの。というか言ったら楽になるのはスタグリアンとマリスタンじゃなくて?」
「「違うわ」」
「多分今の二人が付き合っても誰も違和感覚えないと思うよ。逆に付き合ってない今が違和感」
「「そんなわけあるか」」
「だめだこりゃ」
どんだけ認めたくないんだこの2人………いや、実は付き合ってて付き合っているのをひた隠しにしてるとかなのかな?………うーん、まあその可能性も踏まえてこれ以上踏み込むのはやめとこうかな。
「あ、ユーリア勝った」
「やっぱりそうですよねぇ………あの技で私達のチームも2人倒されましたもんね、スタグリアンとマリスタン………あれ?」
「「キュール、あのこと言うよ」」
「わぁああ!!!ごめんなさいぃいい!!!」
仲良さそうだなぁ。チームの仲が良いのは嬉しい事だ。
それにユーリアも試合勝てたみたいだし。ユーリアにもたまにスタグリアンと一緒に教えることあるけど、武術全般のセンスが皆無の代わりに魔法のセンスがずば抜けてるんだよなぁ。一度教えたら結構すぐにできてしまう。
スタグリアンはバランス型というか、僕みたいに魔法も剣術もどっちも取るタイプで、教えたことはなんでも挑戦している。そして最終的には努力量で出来ない技もできるようにしている。流石、余程お兄さん達に勝ちたいんだなという事がひしひしと伝わってくる。さて、もうそろそろ僕の試合があるはず。
「あ、ちょっと俺別決闘場で試合あるから。みんな待っといて」
「私も別決闘場でスタグリアンの後に試合があるな」
「僕はそろそろここの決闘場で試合あるはずだよ」
「私は………無いです」
悲しいな………仕方ない。僕は今日のお昼に息抜きとして食べようかなと思っていたドーナツっぽいお菓子をキュールにあげる。
「これでも食べて待ってて」
「ぇ、い、いいんですか?」
「「ふふふ」」
キュールさんが申し訳なさそうに問いかけて来る。良いか悪いかで聞かれたらいいに決まってるでしょ。だって、あげたの僕だしね。それと、スタグリアンとマリスタンがニヤニヤしてるけど………欲しいのかな?
「はい、これ二人の分」
「「え、いいの?」」
「もちろん、ほらそれ食べて試合勝ってきてね!!!」
「う、うん。なんか、ありがとう」
「ちょっと予想外だったな。本当に良いのか?」
「良いって、ほら。行ってらっしゃい!!!」
そう言って二人を別決闘場に送り出す。美味しく食べてくれると良いけど。
「あ、そうだ。これもし要らなくないなら、もう一個どうぞ」
「えっ、そ、そんな!で、でもクライトの分は………」
「安心して、僕の分はまだ残ってるから!それで、要らないかな?」
「い、いえ!ほ、欲しいです………」
「ふふ、はいどうぞ。それじゃ僕は行ってくるよ!」
キュールさんにもう一つあげて僕は試合に向かう。
「ちょっと良い事しちゃった~」
クライトは気が付いていなかった。本当は自分の分まであげてしまっていたという事を………そしてキュールが更にクライトに惚れて、顔が驚くほど赤くなっていることを………
☆★☆★☆
えー、緊急事態です。えっと、僕の対戦相手の人がどんどん棄権していってトーナメントの割と上の方まで来ちゃいました。それで、次戦う相手が………まさかのクレジアント、おぉぉぉい!!!!!何をしてんのう?とでも言いたい所だ。
「やっ。クライト君」
「ヒュッ」
「ん?驚かせちゃったかな、ごめんごめん」
「あ、いやぁ。クレジアント君………大丈夫だよ」
「ん、名前覚えてくれてたんだね」
「クレジアント君こそ………」
もちろんとも、覚えているというかDNAレベルで刻みついてますよ。いやちょっと盛ったかも。というか、僕からしたら逆にクレジアントが僕の名前を憶えている方が驚きだ。だって、原作では取るに足らない噛ませ犬って扱いだったし名前なんて覚えている訳が無かったから。
「そ、それで。どうしたの?」
「いや。特に用は無い」
「えぇ………」
それなら何で僕に声かけてきたのか………僕達って別に深く交流無いし、昨日の試合でクレジアントに僕にとっては事実上の殺害予告されただけだし………
「うーん、まぁ強いていうとしたら戦う前にクライト君がどんな人なのか知って置きたくてね。昨日の時点で興味はあったんだけど」
「あ、あぁなるほど………」
まぁ、そんなに殺伐とした雰囲気では無さそうだ………ん?これ、もしかして
「ね、ねぇ」
「ん?どうしたの?」
「あのさ。友達に、なってくれないかな?」
「ん~?全然良いよ。じゃあコレ、友好の証」
そう言ってクレジアントが渡してきたのはさっき僕がチームメンバーの3人に渡したお菓子と同じものだった。
「それ食べて」
「え、あ。いいの?」
なんかさっき上げたやつを自分で食べるのも変な感じだな。
「じゃあ、いただきます」
「どうぞ」
「………んん、美味しい。ありがと………?」
何か、違和感。このドーナツ、こんな味だったっけ?一応、クレジアントにバレないように自分の体に解毒魔法をかける。魔法は………発動した。おい、このドーナツ毒入りなんだけど。
「お、すごい。それに入ってる毒に気が付いたんだ」
「っ………なにしてるの」
「ごめんごめん。クライト君の実力がどれくらいなのか試したくなって。一応気が付かなかったら俺が解毒魔法かけるつもりだったからそこは安心して。残りは俺が食べるよ、毒入ってるし。えっと………はいこれ。こっちは毒無し」
「あ、ちょっ」
クレジアントは僕が手に持っている毒入りドーナツと新品のドーナツを取り換えて、毒入りドーナツをパクパク食べ始める。全部食べたら自分自身で解毒魔法をかけて、『ほら、大丈夫』みたいな顔をしてきた。大丈夫じゃないよ。
「ん、それ食べない?毒は入ってないよ、大丈夫。俺、嘘ついたことないから」
「………ほんとね?信じるよ?」
「まぁ一口食べてみなよ」
恐る恐る一口食べる………ただの美味しいドーナツだ。体に解毒魔法をかけても………なにも起こらない。いや、そこは何かあれよ。普通に美味しいドーナツ貰ったら怒るに怒れなくなっちゃったじゃんか。
「じゃあ、そろそろ俺試合だから行くね。楽しみにしてる!」
「ちょ、ちょっと!」
「ん?」
これだけは聞いておきたい。
「試合で、僕を殺すことは無い?」
「うーん。多分?本気でやり過ぎたら体の制御効かなくなるかもしれないけど………でも普通にクライト君なら対処できると思うよ。あ、そうだ!じゃあさ、どっちもお互いを殺さないようにさ、ちょっとしたゲームしない?」
「え………まぁ、よっぽど変なものじゃなければ」
何を言い出すんだろうか………はぁ、原作だと心優しくて他人想いの勇者っていう設定だったはずなのになぁ。毒入れて殺そうとしてくるし、殺さない保証はないとか言ってくるし………なんだこの性悪男~。
「ん~じゃあさ、負けた方が一つだけ勝った方の命令に従う。でどう?あ、もちろんだけど絶対実行できないものとかは無しね。誤って相手の事殺したりしたら………自害するとか?」
「うぇえ、なんでそう極端なんだよ~!」
「えー、だってこのくらいしないとクライト安心しないかなって」
いやまあ絶対に殺しちゃいけないっていうルールで安心はしたけど!あとなんで今ナチュラルに僕の事呼び捨てしたの!?あんまり気が付かなかったし、別に嫌な気持ちも無かったけど………距離の詰め方凄いな。
「まぁお互いに殺さないから、全力で俺と戦ってね。まぁ手を抜いて勝てる程、俺は弱くないはずだけど」
「うぅ、分かったよ!………絶対勝つから!!!」
「残念、勝つのは俺で~す!あ、そうだ。はいこれ」
「ん?これ、お水?」
「そう!ドーナツで喉乾いてるかなって」
「………毒は?」
「もちろん未混入」
「………」
試しに少し飲んでみる。ただの美味しいお水だ。
「ほらね?それじゃ、行ってくる!」
「え、あぁうん。お水ありがとね」
「全然良いよ~!」
「………」
毒盛られたり、もしかしたら殺すかもって言われたり、最初はオワってる奴だなって思ったけど………普通に美味しいドーナツくれたり、喉乾いてるか気にかけてくれたりと、ちょっと優しい所は原作の設定と同じなんだなぁ。
なんかちょっとだけ安心出来た。お互いに殺さないっていう約束もしたし、全力でかつての相棒クレジアントに挑もうと思う。頑張るぞ………!!!!!
因みに物陰からコッソリ、クレジアントの試合を見物していたけれど相手の事を容赦なくボコボコにしてて見てて少し怖かった。でも多分、昨日の団体戦決勝の僕も
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