第7話 社畜、集落に案内される

 俺は引っ張られるまま森の奥に入っていくと、どこか集落のような簡易的な建物が目に入った。


 木の枝をツルで結び、大きな木と木の間にそれを吊るして壁のような役割になっている。


 きっとあれで住居スペースを分けているのだろう。


 雨は降らないため、屋根はないのだろうか。


「ここにゴボタはいるのか?」


「ゴブ?」


 少女は俺の顔を見て首を傾げていた。


 単に俺をここに連れてきたかったのだろうか。


 それに俺達の声を聞いて、ゾロゾロと似たような人達が出てきた。


 誰もが似たような見た目をしているが、どことなく髪型や肌の色が違う。


 俺は警戒を強めたが、少女は俺を離そうとしなかった。


「ゴブゥ! ゴブゴブ!」


「ゴンブ? ゴンブンブン!」


「ゴーブゴブ!」


 何を言っているのかはわからないが、チラチラと他の人達が俺を見ている。


 きっと俺の説明をしているのだろう。


 とりあえず俺は腕を広げて、危なくないことを示した。


「ゴビョー!」


 だが、腕を広げたタイミングでゴボタに似た大きさの子達が腕に捕まりにきた。


 急な衝撃に体がぐらつくが必死に耐える。


 なぜかここは耐えないといけない気がした。


「ゴゴゴ!」


「ゴーン!」


 すると同じような大きさの子達が次々と目を輝かせながら飛びついてきた。


 気づいた時には身体中にたくさんくっついている。


 大きさ的には俺をここに連れて来た人が大人で、俺を掴んでいるのが子ども達なんだろう。


「ゴブブ」


 そんな俺を見て少女は笑っていた。


「君達はゴボタを知っているか?」


 同じような子どもならゴボタを知っていると思った。


「ゴビョー?」


「ゴゴゴ?」


「ゴーン?」


 だが、子ども達はお互いの顔を見合わせるが、全員首を横に振っていた。


 やはりここにはゴボタはいないようだ。


「ゴブブ!」


「ゴンブ!」


 再び少女は俺の腕を引っ張っていく。


 とりあえず家の中に入って休めと言っているのだろうか。


 もう一人の男の人も俺を一緒に引っ張ってくるし、子ども達も押してきた。


 そんなに俺を招待したいのだろうか。


 知らない人物に対しても、優しい人達なんだろう。


「でも流石に俺には狭いぞ?」


 身長が180cm近くある俺にはゴブリンの家は狭かった。


 流石に入らなくてもすぐにそれはわかる。


 幅は特に問題ない。


 ただ、問題なのは身長の方だ。


 ちゃんとプライバシーを守るように、木で壁を作っている。


 それなのに俺は簡単に超えてしまう。


 まるで自分が巨人になったような気分だ。


 俺がいたらプライバシーの欠片もないだろう。


 そんな俺を見て子ども達は目を輝かしていた。


 身長が高いだけで俺はヒーローのような扱いだ。


「ゴブブ!」


 俺がそんなことを思っていると、少女は葉に何か乗せて持って来た。


「あっ、イチゴもどきだね」


 ゴボタと探している時にみつけたイチゴもどきだった。


 俺に食べるように勧めてきた。


 きっと喉が渇いていると思って、潰してあるのだろう。


 ただ、イチゴもどきって酸っぱいから一気に飲めない気がする。


「いただきます」


 若干衛生面も気になるが、せっかく出してもらったから遠慮するわけにはいかない。


 勇気を振り絞って俺は口をつける。


 うん?


 俺が食べたイチゴもどきよりも甘いぞ。


 体は甘いものを欲していたのだろう。


 すぐにイチゴもどきのジュースを飲んでしまった。


「ぷはぁ! 甘いと美味しいね」


 俺が葉を置くと、再び少女はイチゴもどきを置いて枝みたいなもので潰し出した。


「何か白いものが出ているんだな」


 その枝からは白い液体のようなものが溢れ出ていた。


「サトウキビとかに似ているのか」


 サトウキビは押し潰してジュースを作ったものを、煮詰めて砂糖の結晶を作っていたはず。


 少女は俺がジーッと見ていたからか、枝を渡してきた。


 俺は枝の先に触れて舐めてみると、やはり甘さを感じた。


「ありがとう」


 礼を伝えるとどこか嬉しそうに顔を赤く染めている。


 まだ見つけていないだけで、様々な植物がありそうな気がした。


 俺はその後も休みながら、子ども達と遊ぶことにした。


 みんな巨人の俺に興味津々なんだろう。


 ただ、肩車をした時には大人達も気になって集まってきた。


 少女も乗せて欲しそうにしていたが、流石に女性はやめておいた。


 むしろ男性も嫌だったが、頼まれたら仕方ない。


 少女以外は服を着ていないため、男性を肩車した時には露骨に股間の温かみを後頭部で感じた。


 体が小さいと大きく見えるのを、俺はここの集落に来て実感した。


「やっぱりゴボタは外に出たのかな?」


 しばらく遊んでいたが、ゴボタがあまりにも現れないため、俺は再び探しに行くことにした。


「ゴビョビョン!」


「ゴゴゴ!」


「ゴーン、ゴゴーン!」


 子ども達は俺の肩車が恋しいのか必死に止めに来ていた。


 ゴボタと同様に少し力が強い。


 ただ、子ども達と触れ合うと、さらにゴボタのことが心配になってきてしまう。


「ごめんな。俺はゴボタを探しに行かないといけないからな」


 子ども達を説得しながら、肩に乗っている子ども達を下ろしていく。


「とーたん?」


「へっ!?」


 聞き慣れた声に俺は振り向くと、そこには俺の知っているゴボタがいた。


 腕にはたくさんの草を抱えていた。


 ひょっとしたら俺と仲直りするために、草を取りに行ってたのかもしれない。


「ゴボタ、探したんだぞ!」


「とーたん! ゴボボボボ!」


 だが、どこかゴボタは怒っているような気がした。


 目尻も普段よりつり上がっている。


 持っていた草を投げ捨てると、俺の顔を指さしていた。


 いや、これは顔のもう少し上をさしている気がする。


「子ども達が気になるのか?」


「ゴボッ!」


 どうやら他の子を肩車していたのを怒っているようだ。


 その姿を見てどこか心がほっこりする。


 当の本人は激しく怒っているけどな。


 俺は子どもを下ろすと、すぐにゴボタを持って肩に乗せる。


「にひひ!」


 肩車してもらって嬉しいのだろう。


 さっきまで怒っていたのを忘れているようだ。


「とーたん!」


「どうした?」


「ごめんしゃい」


 何か髪の毛に冷たい感触がすると思ったら、ゴボタは俺の頭の上で泣いていた。


 子育てもしたことないし、子どもとの接し方はあまりわからない。


 ただ、正直言って今回は俺の方が悪かった気がする。


 俺は優しくゴボタの頭を撫でる。


「俺の方こそいじわるしてごめんね」


「ゴボッ!」


 顔は見えないがゴボタは許してくれたような気がした。


 その証拠に髪の毛を掴んでクルクルと回している。


「ドゥンドゥン!」


 俺はいつものようにエンジン音のマネをする。


「にひひ!」


「出発進行!」


 俺が集落の周りをくるくる走るとゴボタは嬉しそうに笑っていた。


 どうやら俺達は仲直りをすることができたようだ。

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