第3話 社畜、スキルの存在を知る

「とーたん……」


 ゴボタは残った包装紙と俺を交互に見ていた。


 よほどプロテインバーが美味しかったのだろう。


 ずっと明るいため、迷子になっても何時間経過しているのかわからない。


 スマホを見ても圏外のままだし、壊れているのか時間も止まっている。


――グゥー!


「お腹が減ったよな?」


「ゴボッ!」


 やはりお腹が空いているのだろう。


 ただ、建物もないし木もないため全く食べ物も存在しない。


 あるのは鞄の中に入っているお菓子だけだ。


 それに水分も500mlのペットボトル一本分の水しかない。


 このまま助けが来ないことを考えると、どうにか数日はこれで耐えないといけないだろう。


 さすがに飲み水がないのは命に関わってくるからな。


「とりあえずもう一本だけ食べて、飲み水を探そうか」


 俺はプロテインバーをゴボタに渡した。


「とーたん?」


 ゴボタはプロテインバーと俺を交互に見ていた。


「ああ、俺はお腹空いてないから別に良いぞ?」


 正直お腹は空いてきているが、今はそれどころではないだろう。


「はぁ!?」


 ゴボタは何かに気づいたのだろう。


 俺に包装紙を開けるように頼んできた。


「はい、開いたよ」


 そのままプロテインバーを渡すと、ゴボタは半分に折った。


 俺と半分こにしようと思ったのだろう。


 ただ、ゴボタが折ったところは三分の一程度のところだった。


 どっちを俺に渡そうか迷っていた。


「ゴボッ!」


 悩んだ挙句、ゴボタは大きい方を俺に渡してきた。


 ちゃんと人のことを考えられる子なんだろう。


 そんなゴボタの姿を見ると、少し心が暖かくなったような気がした。


 ずっと社畜生活をしていて、疲れ切っていたからな。


「俺は小さい方で良いよ」


 俺はゴボタから小さい方を受け取ると、プロテインバーを口に入れた。


 ん?


 どこかいつも食べているプロテインバーとは違う気がした。


 味はいつもと変わらない。


 ただ、何かが普段とは異なっていた。


 俺はゴボタから包装紙を見せてもらうが、それは変わらない。


 なんだろうこの感じ……。


 全身の疲労感が取れて元気になったような気がする。


 糖分も摂取できて、頭がスッキリしたからだろうか。


 もしくはこの変な場所に来てから色々と変わったのだろうか。


 俺のスクーターもおかしくなったからな。


 また鞄を収納したら、スクーターの中に鞄は入ってはいるが、まるで収納場所が大きくなったように感じた。


 本当に何が起こっているのかさっぱりわからない。


 ただ今わかっているのは、俺とゴボタは変なところに迷い込んで、帰ることができなくなったということだ。


 来た道も全てが草原だからな。


 どこを見渡しても木や山、川も見当たらない。


「とーたん!」


 ゴボタはプロテインバーを食べ終わったのだろう。


 手を広げて食べ終わったのを知らせてくれた。


 俺は再びゴボタにヘルメットを被せて、飲み水になるものがないか探した。


 さすがに今度は速度をゆっくりとスクーターを走らせた。


 ♢


「やっぱり何もないよな」


「とーたん! ゴボタ!」


「ああ、俺とゴボタはいるな」


 スクーターを走らせたが、やはり誰も出会わないし景色は変わらなかった。


 あまりにも変わらない景色に精神的にもおかしくなりそうだ。


 きっとゴボタがいなかったらおかしくなっただろう。


 草原に残されたスクーターと俺とゴボタ。


 本当にここが別の世界なんだと知らされる。


 それにあまりスクーターを走らせて、ガソリンが無くなれば移動手段もなくなってしまう。


 景色が変わらないため、クルクルと同じところを回っているのかと思った。


 だからその場にスクーターを置いて、目印にして歩いてみたが一向にスクーターは見えなかった。


 そうなると本当にただただ広い草原にいることになる。


「これからどうしようかな」


「いっちょ!」


 ゴボタは俺に抱きついてきた。


 きっと俺が落ち込まないようにしてくれているのだろう。


 俺がずっと話しかけていたら、ゴボタは言葉を覚えてきた。


 その結果、ちょっとだけ話せるようになってきた。


「本当に一人じゃなくてよかったよ」


 そんなゴボタを抱きしめていると、突然声が聞こえてきた。


【スキルポイントを振ってください】


「へっ……!?」


「とーたん?」


 そんな俺をゴボタは心配そうに見ていた。


「ゴボタは聞こえたか?」


「とーたん?」


「いや、俺じゃない声だが……」


 俺の言葉にゴボタは首を傾げていた。


 きっと俺にしか聞こえないのだろう。


 それはなんとなく気づいていた。


 だって、声が聞こえたタイミングで目の前に謎の半透明な板が現れたからだ。


 ゴボタにも見えているかと思ったが、全く気づいていなかった。


 ここから出るきっかけがこの板にあるのかもしれない。


 そう思った俺は半透明の板を覗いた。


【スキル】 ポイント1

 魔物召喚 1

 └ゴブリン 1

 地形変更

 トラップ設置

 環境設備

 資源召喚


 明らかに何かヒントになりそうなことが書かれていた。


 それにすでに魔物召喚にポイントが1振られていた。


 その下にはゴブリンという文字と数字の1が書かれている。


「ゴボタってゴブリンなのか?」


「んー、ゴボタ!」


「ああ、ゴボタだったな」


 ゴブリンが何かはわからないが、ゴブリンという何かが存在しているのだろう。


 他の項目を見ると、地形変更、トラップ設置、環境整備、資源召喚と書かれている。


 これは重要な順番で書かれているのだろうか。


 とりあえずトラップ設置は、他の生物がいないため必要ないだろう。


 地形変更は草原が違うところに変わるのだろうか。


 砂漠とかになったら死んでしまう。


 気になるのは環境設備と資源召喚だ。


「環境設備と資源召喚どっちが良いと思う?」


「かんちょ……しじゃい?」


 ゴボタには難しい話だったな。


 どうすれば良いのかわからない俺は、とりあえず環境設備に手を触れてみた。


【スキル】

 魔物召喚 1

 └ゴブリン 1

 地形変更

 トラップ設置

 環境設備 1

 └植樹系調整 1

 資源召喚


 どうやら環境設備に新しくポイントが振られたようだ。


 新しく出てきた項目は〝植樹系調整〟。


 ただ、ゲームみたいに変化が起こるわけではないようだ。


「ゴボッ!?」


「どうした?」


 ゴボタは何かを感じたのか俺に抱きついてきた。


 どこか体が震えている。


 俺がすぐに抱きかかえると、いつのまにか半透明な板は消えていた。


――ガタン!


 突然地面に押し付けるような感覚を感じたと思ったら、周囲が大きく揺れ出した。


「えっ……なんだこれ」


 遠くを見ると地面からはたくさんの木が生えていた。


 それも芽から生えるのではなく、木が生えてきたのだ。


 突然の光景に俺とゴボタは、ただ見ているだけしかできなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る