お任せ世代
宇野田莉子
前編
世の中にはいろんな世代がいたらしい。
就職氷河期世代、ゆとり世代、Z世代 。
未婚者が増え、出生率が1を切ってからというもの、そういったなになに世代という言葉は減っていった。
しかし新たな政策が生まれ、お母さんの代から出生率は増えた。そんな私の世代はお任せ世代と呼ばれてるらしい。
「お任せって、なんだか機械みたいだよな」
サッカーが上手で女の子からの人気が高い隣の席の福田くんはそう言って、ため息をつきながら席についた。
中学3年になったら義務として受けなければならない国の運営するAI診断。研究を重ねたAI技術は発展し、いまや進路や恋人づくり、なにもかもをAIへ任せる時代になった。AIの名前はサインポスト。愛称はシグナ。
お母さんの世代から試験運用されたらしく、両親はこの診断で高校生のときにマッチングし、そこからお付き合いを重ね、お父さんの就職が決まったと同時に結婚した。
もちろん両親の進路や就職先も子供の数も、全てこのシグナを基準に決めている。
その子供世代が私たちお任せ世代。いまやなにを決めるにもシグナは欠かせない。
「進路決まったの? やっぱり、サッカーの強豪校に行くの?」
「いや、サッカーは芽が出ないから辞めろだって。確かに俺じゃプロにはなれないだろうし、候補にあった高校のどこか選ぶ」
「そっか」
舞い上がった心を悟られないよう、心の中でガッツポーズをする。
福田くんがサッカーの強豪校に進んでしまったら、同じ高校に進む確率はゼロになる。でも一般校ならまだ希望がある。
「桜井はどうだった?」
「私は学業優先で結構候補があった。でもお勧めされたのはあんまり行きたいところじゃなかった」
福田くんの進路と同じところに行けるよう、私は取り柄の勉学だけは怠らなかった。だからシグナからは県内トップの高校、そして国立の理系大学へ進学。医薬品メーカーの研究所がマッチ度93%だった。
恋愛面では大学での論文が落ち着いた頃にマッチング相手の候補を絞り、26歳の頃に結婚。子供は3人という結果になった。
「小学校の頃から頭良かったもんな。このお任せ制度、倫理的にはどうなんだろうな」
「そこは触れちゃダメでしょ。別に従わなくたっていいんだから」
シグナの予想する未来を選ばなくたっていい。ただそうなると、生まれたときから自分で考えず、シグナが提案する選択肢の中で人生を歩んできた私たちは、いまよりもっと頭を使って生きなければいけない。
マッチングを選ばなかった人たちは考える時間が増えすぎて、婚期や出産時期を逃すことも多い。男女ともにモテるような人はマッチング内から最善を選ぶので、そういう人と結婚したい場合はなおのこと。
「これからのこと、特に結婚相手は自分で選びたい。でも俺の親父みてると、マッチング外での結婚はやっぱ無理かなって」
福田くんのお父さんはマッチングなんてくだらないと、シグナに任せず人生を歩んできた人だ。進路も恋人も。でも福田くんが生まれてから、お母さんはだんだんと昔マッチングした男性に惹かれていき離婚。福田くんが3歳のころからシングルファザーをしている。
マッチングの離婚率の統計は出ていて、マッチング内の離婚率は10%未満。マッチング外の離婚率は80%以上とかなり差が開いている。
私たちはその結果を見てきたから、よりシグナを頼る人生になった。
「私も結婚は好きな人としたいかな」
「えっ? もし、マッチングの候補にいなかったとしても?」
「だって、好きな人と結婚したいもん」
もしかしたら福田くんに気持ちが伝わってしまうかも。少しドキドキして制服のスカートをぎゅっと握る。
「俺も、もしマッチング候補に好きな人がいなかったら、独身貫こうかな」
「福田くんなら、絶対いい人とマッチングするよ。お互い好きな人と結婚できるといいね」
福田くんはあのときどんな顔をしてたっけ。
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