裏切られた令嬢のセカンドライフ
西條 ヰ乙
第1話
「お姉ちゃん、死んじゃうの?」
それは雲ひとつない、よく晴れた日のことだった。
天高く登った太陽は木々の隙間から森の中へと日差しを落とし、つい先程近くの小屋から拝借してきた縄を枝に結びつけていたリュカ・ホワイトの顔を照らし出していた。
縄を結ぶために脚立にかけた足を動かさずに、リュカは声のした方へ振り返った。
雑草の伸びた森の中、緑豊かな自然の中にはぽつんと幼い子供が立っていて、自身より背の高いリュカの顔をまじまじと見上げていた。
どうしてこんな森の中に子供が一人でいるのだろう。
そう思い、縄を結びつける手を止めたリュカは脚立から降りると目の前に立つ少年にどこから来たのかと問いかけた。
少年は火に焚べるための薪を作るためにこの森の入り口にある祖父の所有する小屋へやって来て、そこで脚立と縄が無くなっていることに気がついて小屋から続く足跡を追ってここまで来たのだと答えた。
リュカが適当に拝借した脚立と縄はどうやら彼らの物だったようだ。なんの罪もない少年に迷惑をかけるわけにはいかない。そう思いリュカは縄を解くと少年に手渡した。
ここは森の中でも奥の方。入り口まではいささか遠い。リュカは子供が運ぶにはこの脚立は重すぎると判断して、脚立を担ぐと小屋の前まで運ぶことにした。
木々の隙間を縫いながら歩くリュカのあとを少年は黙ってついてきた。
リュカも少年も言葉を発さないまま、目的地である小屋につくと、リュカは脚立を元の位置に戻し、少年に別れを告げてその場を離れようとした。
「待って!」
しかしその場を離れようとしたリュカの泥で汚れたワンピースの袖を、少年は握りしめてリュカの進行を止めた。
少年の小さくきゅっと結ばれた唇がゆっくり動く。しかしいくら待てども少年は音を発さない。眉を下げ、困ったような表情で口をぱくぱくとさせているだけだった。
リュカは手が汚れるから、とワンピースから手を離させようとするが少年は握る力を緩めない。それどころかぎゅうっと生地に皺ができるほど力強く袖を握り込んだ。
リュカは困ったと、しかたがなく少年と目線を合わせるようにしゃがみ込み、名前を尋ねた。
「僕? 僕はサイ! お姉ちゃんは?」
リュカに名前を聞かれ、少年は嬉しそうに自身をサイと名乗った。リュカの袖を掴む手はいまだに緩められていない。
少年に聞き返され、リュカはどうしたものかと悩んだ末に口を開いた。
「私はリュカ。リュカ・ホワイト。見ての通り、ただの死に損ないよ」
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