第6話 味方
「――はあ? 羽衣装束を量産して欲しいですって?」
朱鷺の申し出に、思いっきりルーアンは眉を潜めた。
「左様。この絵巻にある天女と同じ装束を、
「バッカじゃないの! そんなの無理に決まっているでしょ! 私はメイドの仕事で忙しいの。アンタの道楽に付き合っていられる程ヒマじゃないんだから!」
ぷいっと顔を反らしたルーアンの言動に、水影がゾクゾクと背筋を震わせる。恍惚の表情を扇子の内に隠し、主と女中の会話に快楽を得る。
「何を申すか。そなたは俺の援者であり、
「別にアンタ達の世話をするようになんて命じられてないわよ! 誰も得体の知れない地球人の世話なんてしたくないから、こうして押し付けられているだけよ!」
元王女という地位にあっても、メイドに落ちた時から、人前で素顔を明かすことも許されない。そんなルーアンが自室以外で唯一素顔を明かし、気兼ねなく振る舞えるのは、朱鷺ら交換視察団の前だけだった。
「分かった。では天女中、そなたの望みは何ぞ?」
「は?」
「言うたであろう。我が悲願が達成された暁には、そなたの望みも叶える手助けをすると。まだ聞いておらんかったでな。ほれ、そなたの望みを申してみよ」
「わ、たしは、別に、望みなんて……」
俯いたルーアンに、「ふむ」と朱鷺が考察の構えを見せた。
「現王妃らによって追放された母御や姉御の無念は、
「それ、は……アンタじゃ、どうすることも出来ないでしょ?」
「俺は帝ぞ? 月が世に於いても敵などおらんわ」
「ここじゃ、ただの
「左様なこと、やってみねば分からぬではないか!」
「やらなくったって分かるわよ! ここに私の味方なんて誰一人としていないんだから……!」
声を荒げたルーアンが、目に涙を浮かべて朱鷺を見上げた。その姿に意表を突かれるも、朱鷺はそっと笑った。
「味方がおらぬのであらば、作れば良いだけであろう。俺も帝に即位した折は、誰一人味方などおらんかったでな」
「え……?」
ルーアンが朱鷺の後ろに控える
「
「
後ろで水影がチクリと胸を刺す。それに笑った朱鷺が、ルーアンを優しく見下ろした。
「そなたは我らに味方になって欲しいか? 他所から来た兎であろうとも、国を覆す知恵と勇猛さは、兼ね備えておるつもりぞ?」
うっとルーアンの喉が
「我ら交換視察団が国を動かしていく様を良う見ておるが良い。俺が信頼に値する男であると確信した折、再度そなたの望みを訊ねよう」
自身に満ち溢れた黒い瞳に、ルーアンは息を呑んだ。溢れ出しそうになる涙を拭い、目を背けるも、言った。
「……外の町に、知り合いの仕立て屋がいるわ。そこにいけば、たくさんの機械で作るから、すぐに用意出来ると思う」
「左様か! ならばすぐにでもその仕立て屋に参ろうぞ!」
「ちょっと待って! 行っても、こんな羽衣装束を作れる布なんてないわよ?」
「ふっ、俺を
「なら最初から、羽衣装束自体を持ってきた方が早かったんじゃない?」
「それでは夢がないではないか! 月が世の天女は、羽衣伝説の天女であると信じておったでなぁ! それがしるくどれすなどとは許せぬ! やはり天女には羽衣装束を着てもらわねば、その醍醐味に欠けるでなぁ!」
持ち前の下心で熱く弁を振るう朱鷺に、万が一にもこの男にだけは惚れはしないと、ルーアンは心に強く誓った。
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