懐古録

四季式部

出会いと始まり編

未視感

いつもより虚しい町並みを見ながら帰っていた。左手には一切れのバースデーケーキ。リュックの中には使い古したパソコン。我ながら19年の大作だと思っていたのが馬鹿馬鹿しい。明日から何しようか。そう考えていた。「ゴン」鈍い衝撃が俺を襲った。「痛ったぁ」気づくと倒れていた。目を凝らす。壁? いや人だ。「大丈夫かぁ」そう言い男は手を出した。「あぁだいじょぶっすよ。ありがとうございます」と起き上がると「バキバキ」とリュックが音を上げた。急いで確認するとパソコンが曲がっていた。「あぁ」と苦笑いするしかなかった。ため息交じりについてないという俺に「あんちゃんついてる」と男は「うち来てよ。パソコン代払うし、ケーキも」そう指をさす。下を見るとだらけたビニール袋が風で揺れていた。俺はもうなんでもいいとついていくことにした。もしもこの男が凶悪犯で俺を殺しても、金をとられてもどうでもいいと思えた。全部ではないが、19年という俺の超大作に終止符を打つ理由になるからだ。

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