第34話 扇動
「ふわぁっ……。」
昨日はマリーベル達の脱出を手伝ったせいで眠いわね。
かなり遅くに帰ったせいで両親に激怒されてしまい、睡眠時間が減ったのも痛かった。
「ちょっと、大丈夫なのメルトリア?」
「そうですよ。今はメルトリア様が派閥のトップなのですから緊張感を持たないと。」
シュナイザーは明日、百叩きの刑に処され死亡する
それはつまり……私が王に憎まれるようになるまで僅か1日の猶予しかない事を意味する。
王に憎まれたからと言ってすぐに私が殺される事になるか何とも言えないけど、タイムリミットは近い。
「大丈夫よ。ありがとう二人とも。今日で大勢に決着をつけたいと思うわ。」
「簡単に決着をつけられるのでしょうか?」
「メルトリアは結構派手な手を使いたがるから心配だわ。この前の卒業パーティーなんて驚いたわよ。」
「元々私の策じゃないわ。」
ユリウスが勝手に暴走したせいで正直死ぬかと思った。
その後の裁判でもユリウスが訳の分からない暴走をしないかとヒヤヒヤしていたし。
「あれは完全に予想外だったわよね。」
「そうね。あれを予測しろという方が難しいわ。」
しかしながらユリウスの暴走は馬鹿だったけど、あれはあれで参考になる方法だった。
私は日本人としての知識を持っていると同時に、この世界の貴族の常識も持ち合わせている。
あの時の行動がいかに馬鹿だったのかをハッキリと理解出来てしまったのに加え、証拠不十分なままに壇上に上がって大暴走するユリウスが正気ではないように見えて仕方がなかった。
味方である私の助けになるどころか、逆に私を陥れようとしたんじゃないかと思われるレベルだ。
まぁ、常識では考えられないような手でも場を整えさえすれば有効であると分かったのは収穫でもあるのだけど。
私は今、サンライズ学園の大ホール壇上に上がり、生徒全員の前でスピーチをしている。
「先日、マルグリット様がお亡くなりになったのは皆様の耳にも入ってらっしゃるかと思います。私達はここ最近皆様にお声がけして回っておりました。王族が如何に理不尽な事をしているのか、その是非を問わねばならない。そう思っての行動です。皆様ご存知の通り、私はシュナイザー殿下に何度も虐げられ、挙句の果てには卒業パーティーで罪を擦り付けようとしてくる暴挙までもこの身に受けました。」
生徒達は神妙な面持ちで聞いてくれている。
私はユリウスを馬鹿だと言った。しかし、この手は流れを掴めるタイミングであるなら最高の一手でもある。
「かつての貴族裁判の場において、ドントレス大公はこうおっしゃいました。」
一度言葉を区切り、あの時の言葉を思い出して口に乗せる。
「貴族とは下の者の手本となるべき存在である。時に今の私のように強権を振るう事もあるが、それは道理を正す為に行うべきもの。決して身分を笠に着て下の者を虐げるべきではない……と。今の王族に道理があるのでしょうか? 私は道理など無いと思っております。マルグリット様が先頭に立ち、王族の道理を正そうと行動したお返しがこれでは……あまりにも酷いとは思いませんか!?」
涙を流し情に訴えかけるように、そして必要な事を述べていく。
「マルグリット様が生徒会長として学園に貢献してきたのはあまりにも有名です。私はマルグリット様を理不尽に殺してしまった王家を決して許せません。もし私達がここで折れてしまえば、今度はこの場にいる誰かが……王族にとっての邪魔者になった時、消される事でしょう。私はこの場にいる皆様にはそのような目に遭って欲しくはありません。皆様は家の当主という立場にこそありませんが、貴族子弟として貴族籍に身を置く方、そして優秀で将来宮仕えをされる平民の方々でございます。王家をこらしめる為に、皆さまのお力をどうか……どうかお貸し願えませんでしょうか? マルグリット様の無念を晴らす為にも、どうか……。」
侯爵令嬢が涙ながらに頭を下げる事で場は一気に盛り上がり、歓声と拍手の雨に包まれながら私は降壇した。
この場には貴族子弟もいるが、優秀な平民枠としてサンライズ学園に入学した者が半分を占めている。
高位貴族子弟である私が、平民や格下の貴族子弟にさえ頭を下げてでも無念を晴らしたいという思い、そして格上である王族を相手に挑むという気概を買ってもらえたのだと思う。
ついでにさらりと証拠も無いのに王家がマルグリットを殺したという話を混ぜておいたから、皆マルグリットが死んだのは王族のせいだと疑いすら持っていない。
実際王家がマルグリットを殺したんでしょうけど、本来であれば証拠も無しに王家を疑うなど不敬の極み。
それを証拠も無しに勢いと流れで扇動する事が出来たのは大きい。
全員が家に帰ったら親兄弟にこの事を言うでしょう。それを聞いた親兄弟は私に協力しないまでも、何かあっても静観を決め込んでくれるはず。
王族は今頃ケラトル家の人間によって殺されている公算が高い。
これで王族が死んだとしても、天罰だという事で私を深く追及しようという動きはグッと減らせるし、最悪追及されたとしても手を下したのは刑務所から脱走したケラトル家。
私に咎が来るはずもない。
「メルトリア、貴女あんな馬鹿な手を使うだなんて……。」
「えぇ。確かに馬鹿な手よ。でもね? この手はタイミングを間違えなければ最高の一手になり得るの。現に今、学園の生徒達が一致団結して王族に立ち向かおうとしているわ。」
人は何か大きな出来事が起こる時、しかも大義名分を与えられての行動を起こす時は熱狂する性質がある。
祭りで人が大騒ぎするのは楽しいからと言う理由だってあるけど、非日常の空気感に流され、祭りという大義名分を与えられているからこそ。
今、王族に立ち向かうという大きな祭りの空気感を私が作り出したのだ
「随分と危険な橋を渡りましたね。下手をすれば壇上から全員に引きずり降ろされる可能性だってありましたよ?」
「本当よね。メルトリアも案外馬鹿だったんじゃない?」
「このくらい出来なければ王族をどうにかするのは不可能よ。」
そもそも王に目を付けられる事が確定している時点で、反乱を起こす以外の選択肢などなかった。
シナリオから外れているというのに、相も変わらず理不尽な展開が待っているのは本当にクソゲー世界とでも言うべきね。
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