第18話 テレーゼ=ハワード
「貴女達ね? 最近学園を騒がせているというご令嬢方は?」
「はい? 騒がせてはいないと思いますけど。」
出た。敵対ヒロインのマルグリット=グランヴィル侯爵令嬢。
この人は生徒会長。
後ろには副会長のジャン=ハイド伯爵令息と書記のデッサン=レッグ子爵令息が控えており、私達の進路を遮る。
いずれも三年生で他の生徒会メンバーも全員が敵対する予定で、私が何人ものヒロインを潰すことを条件として出てくる。
勢力的には一番大きく面倒な敵対ヒロインだ。
「マルグリット生徒会長様は私達が騒いでいるとお思いなのでしょうか?」
「えぇ。間違いなくそうだと思っております。規律を乱し、著しく学園の治安を低下させていると報告があがっています。」
今日はテレーゼと行動している。
私が行動を共にする三人の中で、一番与しやすそうなテレーゼと一緒だからと思って舐めているようね。
「そうでしたか。申し訳ありませんでした。」
成る程、上手いわね。私も合わせよう。
「申し訳ありません。」
「え? あ、はい。」
「では御機嫌よう。行きましょうかメルトリア様。」
テレーゼは穏やかに笑いながら私を連れてこの場を去ろうとする。
「お、お待ちなさい!」
「あの、まだ何か?」
「何かとはなんですか。問題は解決しておりません!」
そりゃそうよね。
謝った。じゃ!
とは済ませたくないのでしょうから。
「マルグリット生徒会長様は私共が騒いでいるとおっしゃいました。」
「その通りです。」
「私共は謝罪致しました。」
「えぇ。」
「これ以上何か?」
「……。」
「では御機嫌よう。」
「まだです! だから問題は解決していませんと……」
「いえ、謝罪し解決いたしました。」
「騒いだ原因をですね……」
「騒いだ原因は言い掛かりをつけてきた方々ですが、その方々とは丁寧にお話して解決しておりますの。」
「脅したのではという話を聞いております。」
「脅してはいないと思いますけど……あぁ、マルグリット生徒会長様が言いたい事が理解出来ました。私共が罰を受ける事をお望みなのですね? ではこちらを差し上げます。申し訳ございませんでした。」
テレーゼは中指に填めた大きなダイヤの指輪をマルグリットに差し出す。
周囲の人間がざわざわと騒ぎ出し、指輪を差し出されたマルグリットは狼狽え始めた。
「な、こんな物でっ!」
「まぁ、マルグリット生徒会長様はこの金貨三千枚の指輪でも満足なさらない、と?」
「金貨が三千……。」
マルグリットはその金額に腰が引けている。
これは無理もない。金貨三千枚をポンと寄越すなど正気の沙汰ではないものね。
「あまり欲を張るのは貴族としてどうかと思いますわ。謝罪に金品を要求するなど侯爵令嬢がしてはいけないと思いますが……生徒会長となればまかり通るのでしょうか。」
困ったように頬に手を当てスラスラと話すテレーゼは、ローズマリーとは別方向で相手を責め立てていく。
金品など要求していないマルグリットを、さも要求したかのように話をすり替え周囲に喧伝しているところなんて最悪だ。
ざわめきが大きくなり、形勢が悪いと察したマルグリットは周囲を見てから差し出された指輪をテレーゼに返す。
「そのような事は致しません! 侮辱しているのですか!?」
「侮辱だなんてそんな……。謝罪もして金品も差し出し、それでも気に入らないとおっしゃるのなら、他には何をお求めなのでしょう。」
「そ、それが侮辱だと言っているのです!」
「では私はどうすれば。」
「自分で考えなければ意味がありません!」
「そうですか。考えてはみましたけど、何を言いたいのか良く理解出来ませんでした。メルトリア様はお分かりになりますでしょうか?」
「いえ。これ以上となりますと、わかりかねます。」
「ではドントレス大公に相談してみますわ。考えるきっかけを下さってありがとうございます。それでは御機嫌よう。」
うわぁ……。
ローズマリーに突っかかるよりも悲惨だわ。
「あっ。まっ待って下さい! どうか、どうかそれだけはご勘弁下さい!」
「はい? ご勘弁? あの、こちらが貴女にご勘弁していただく為に解決策を相談しようと思っているのですが。」
「いえいえ! それには及びませんから!」
「ですが、私はマルグリット生徒会長様に失礼をしてしまったのでしょう? ドントレス大公なら物知りな方でいらっしゃいますので、こういう場合の解決策も提示して下さる気が致します。」
提示どころか強引に解決してくれるでしょうね。
ドントレス大公は孫のテレーゼを可愛がっているし、言い掛かりや卑怯な事が大嫌いな人だもの。
烈火のごとく怒ったドントレス大公が生徒会メンバー全員の実家を潰してしまう未来が見えるようだわ。
潰したから解決したぞ、と言いそうで凄く怖い。
「「「申し訳ございませんでした!」」」
「どうしてお三方が謝罪を? まぁ良くわかりませんが、謝罪は受け取ります。ではドントレス大公に何故こうなったのかだけお伺いいたしますね。では御機嫌よう。」
ちょっ!
流石にそれは鬼畜すぎる。
しかも御機嫌ようを連発するので、テレーゼがすぐに帰りたい人のようになってしまっている。
良く見てテレーゼ。
生徒会メンバーが顔面蒼白になっているわよ?
こいつらの実家が潰れようが私には関係ないけど、今後の事を考えるならスケープゴートのお友達や使い捨てのお友達として取り込んでしまいたい。
「テレーゼ様。こちらの方々はドントレス大公に言って欲しくないのではないでしょうか?」
物凄い勢いで首を縦に振る三人。
「何故でしょうか。悪い事をしていらっしゃらないのでしたら、何も問題はないかと思うのですけど。」
「申し訳ございませんでした! 言い掛かりでした!」
「わ、私も、生意気だと思って言い掛かりをつけました!」
「同じく言い掛かりです! どうかご容赦を!」
「まぁ、お三方はご自身が悪いと思っていらしたのね。だというのに謝罪要求……なんという悪い人達なのでしょうか。」
テレーゼも本当は分かっていながら、こんな事を言っているあたりたちが悪い。
相手に自身の罪を自覚させる為にこのような迂遠なやり取りをしているのは流石と言いたいわ。
「テレーゼ様、この辺で手打ちにしては如何かと思います。こちらの方々も悪意は……あるのでしょうけど、謝罪も頂きましたしお友達になる事を提案致します。」
「は、はい。お友達にして下さい!」
「僕も、お友達になりたいです!」
「是非俺もお願いします!」
「え? お友達になって下さるの? なら、問題は解決という事なのでしょうか。」
「はい。これで解決だと思いますわ。」
ローズマリーにしろテレーゼにしろ、敵をはね除ける手腕は見事よね。
私も出来なくはないのだけど、敵対ヒロインは私の影響力を発揮できない人間がなる傾向にある為、正論だけで言い負かすしかない。
しかも正論だけで言い負かしても敵が追い込まれる訳じゃないから、どんどん突っかかってきては足を引っ張ってくるので、貴族裁判にかけたり暗殺したりと殺してしまう以外の方法が取れなかったのだ。
能無し王子が少しでも動いてくれれば、ローズマリーやテレーゼのように穏便に話し合いで済ます事も可能なのだけどね。
ホント役に立たない婚約者だこと。
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