第12話 写真
流石はユリウス殿下ね。
どこかの無能と違って王族なだけある。
こっそり様子を伺っていたけど、ゲームシナリオの通り写真の件で率先して動いてくれたわ。
勿論、能無し王子とジュリア伯爵令嬢はキスなんてしていない。
この写真は私が証拠をでっち上げる為に細工して作った合成写真なのだから。
写真撮影できる魔道具は登場してから日が浅く、ごく一部の貴族だけが手に入れられる高級品であり、写真を細工するという概念がまだ生まれてもいない。
ゲーム内であればこの写真はユリウス殿下とマリーベルと私にだけ送られた、という事になっているのだが、能無し王子の信用を失わせ権威を失墜させる為だけに他の婚約者候補にまで送ってやったのだ。
学園中にバラまけば良いと思うかもしれないが、あまりにもやり過ぎると私まで巻き添えをくらうかもしれないので今回はあくまで控えめにしておいた。
少しだけシナリオに手を加えてみたが、どこまで私がシナリオから外れた事をしても大丈夫なのか実験も兼ねている。
私が能無し王子と結婚しなくても良い未来を掴み取る為に。
「さて、ジュリア様はシュナイザー殿下とどのようなご関係なのでしょうか?」
写真を目の前に差し出しながらジュリア伯爵令嬢を問い詰める。
人目のつかない所へ移動した私達は周囲へ配慮する必要もないので、思い通りに話し合いが出来るのだ。
「あのっ! 本当に知らないんです! 私、全く身に覚えがなくて……。」
「先程から終始この調子で認めようとはしないんだ。」
でしょうね。この娘、実際やってないんだもの。
「困りましたわね。認めてもらわない事には話も進まないのですけど。」
「本当に! 本当に知りません! 神に誓って!」
「神に誓われても、こうして写真が出てきている以上は誤魔化せませんよ?」
「違うんです! 違うんです!」
「これはどうにもならんな。」
ユリウス殿下は呆れた顔でジュリア伯爵令嬢を見てため息をつく。
あーあ、第二王子が疲れた顔しちゃって。命の恩人でもあるし、ご褒美にお姉さんが頭なでなでしてあげようかしら?
不敬罪で捕まっちゃうか。
ユリウス殿下って、今回の件で私の事を好きになる設定なのよね。
ユリウスルートがあったら良かったのに、能無し王子ルートしか用意されていないだなんてクソゲーよ。
このゲームが売れないわけだわ。
「これが一時的な火遊びだとして、心を入れ替えるなら私の胸にとどめておく事も考えていましたが、こうまで嘘をつく方なのであれば弟との結婚はこのまま破談ですね。」
「待って! 本当に違います! 第一王子殿下にも確認してみて下さい!」
「既に確認致しました。第一王子の名に誓ってそんな事実はないと仰せよ?」
「なっ……だったら!」
「しかし! ……第一王子が否定した。でも証拠はある。この場合どうなるのか考えてみた方がよろしいと思います。」
「どういう……意味でしょうか?」
「国の第一王子が真向から否定し、でもこうしてジュリア様と逢瀬を重ねた証拠だけはある。ならば、ジュリア様が無理に迫って写真に収めたのではないか。そう勘繰る者が現れるでしょうね。」
彼女の実家は裕福で撮影用の魔道具も所持している。
だから、そう勘繰る者が居ても本当におかしくないのだ。
「そんなワケ……」
「あるのです。そのように考える人間は必ず出てきます。写真を受け取った方はジュリア様が写真を送ってきたのだと今頃考えているはずです。」
「送ってません! 絶対に送ってませんからっ!」
「もう貴女がやったかどうかの問題は置いておきなさい。第一王子の婚約者候補はマリーベル様や私以外にも、レイチェル=ヴァンテンブルク様、ローズマリー=ペトレネート様、テレーゼ=ハワード様、いずれも実家が侯爵以上の家格を持っている方々です。そんな方々にこの写真が渡ってしまった事実を認識して下さいませ。」
今名前が挙がった中でテレーゼ以外は皆それなりの意地悪令嬢だ。
そしてマリーベルは超ド級の意地悪令嬢。
貴族としての振る舞いを無理なく身につけた私も前世に比べて遥かに意地悪な自覚はあるけれど、そんなの目じゃないくらいにマリーベルは意地が悪い。
もはや性根が腐っていると言っても過言ではない程に。
「……。」
「可及的速やかに謝罪に行かなければ、貴女は下手をすれば消されますよ? たとえ弟の婚約者ではなくなったとしても、こんな形で貴女が消されてしまえば心が痛みますのでご忠告差し上げたのです。」
「え……あ、あぁ……。あぁぁぁぁぁぁっ!!」
「よしよし。怖いと思うけど、日程を組んで一緒に謝りに行きましょう。皆さん悪い方々ではありませんから、お許しいただく事も出来ると思いますわ。」
これに関しては嘘ではない。マリーベル以外、ゲーム内では敵対ヒロインではないので案外許してくれそうな気もする。
私は赤子のように泣くジュリア伯爵令嬢を抱き寄せて、背中を優しく撫でてあげた。
すると優しくされたのが効いたのか、彼女は更に強く泣いて私に縋りついてくる。
「全く、泣くくらいなら最初からこんな事をしなければ良いでしょう?」
「だっで、だっでぇ……。」
死ぬかもしれない恐怖に晒され混乱してしまっているらしく、彼女は実際にやってもいない事を否定せずに泣いていた。
計画通りね。シナリオ通りならマリーベルが……でも、この場合は誰が犯人になるのかしら?
ジュリア伯爵令嬢と一緒に元婚約者候補達に謝罪する日程を立て、その日は解散した。
「姉さん……。」
「あら、どうしましたか?」
「ジュリアが……。」
「ジュリア様? もしかして今日は家にいらっしゃらないとか?」
ハイデルト。ごめんね?
お姉ちゃん、貴女の婚約者がどうなったか大体予想はついているの。
「昨日から行方が分からなくなったって……。」
「嘘でしょ!?」
「本当だ。どこへ行ったのか我が家でも捜索に協力したいんだ。姉さんも一緒に……」
「当たり前でしょ! 私も殿下にお願いしてみるわ! きっと見つかるから気を落とさないで!」
「姉さん。言葉遣いが乱れてるよ……でも、ありがとう。」
「こ、これは……今はそんな事言っている場合じゃありません! あなたも早く行動なさい!」
「勿論! 行って来るよ!」
ハイデルトは少しだけ元気が出たようね。それにしても、誰がやったのかしら?
マリーベル? レイチェル? ローズマリー? それとも大穴でテレーゼとか?
順当にいけばマリーベルよね。レイチェルとローズマリーは少しだけ可能性があるってところかな?
テレーゼは……有り得ないか。
え? 何? 酷いって?
全っ然、これっぽっちも酷くない。
ジュリア伯爵令嬢があの場で泣いていたのは本心からだろうけど、あのまま私が許して助けてしまうと、彼女はあの写真を見た事のある私を邪魔者としてなんとか蹴落とそうとしてくるのだ。
喉元過ぎれば熱さを忘れるとは良く言ったもの。
私は捏造写真を送った他は何もしてないし、正直悪いとも思っていない。
「一応、犯人だけは目星を付けておかないと。」
行方不明になった日がシナリオ通りなので、十中八九犯人はマリーベルの手の者でしょうけどね。
だとしたら、悲惨だわ。
確かジュリアは明日、左腕だけが林の中で見つかるのよね。
身につけていたお気に入りのブレスレットが決め手となり、そこで捜索が打ち切られるはず。
あーあ、変な事さえしなければ、その腕を我が弟と組んで笑い合う未来だってあったかもしれないのに……。
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