33 侵入者




 どこからか悲鳴が上がり、獰猛な唸り声が響く。異変に気づいたシンは真っ先にアストライアのもとに駆けつけた。


「アストライア様、これは……」

「魔獣。それも、上位の」


 魔獣は以上に魔力を帯びた獣のことだ。魔界には多く存在しているが、警備の硬い魔王城に現れることはありえない。

 となるとーー


「裏で糸を引いている者がいます」

「みたいね。けれど、今するべきことではないわ。優先すべきなのはーー」


 アストライアに向かって魔獣が走る。

 だがアストライアに届く前に、魔獣の動きが止まった。


魔獣このこたちの対処ね」


 そして、魔獣の四肢がバラバラに斬られ、鮮血が飛んだ。シンが高速で斬ったのだ。

 シンは剣をしまい、アストライアに跪いて許可を申請する。


「どうか、御身を守るために剣を振るうことをお許しください」

「絶対に、死なないと約束して」

「お約束いたします」


 そう言うと、シンは立ち上がり剣を取り出す。魔獣討伐の戦闘態勢に入った次の瞬間だった。


「【止まれ】」

「「!?」」


 この場の全員の動きが止まった。強制的にだ。魔法によるもの。だが広範囲、大人数相手に簡単に行使できるはずがない。少なくとも長い詠唱をする必要がある。だが短縮詠唱でやってのける者など、いるのだろうか。


ーーいるとしたら、一人しかいない。


「(ヒューリおじさま!)」

「(ヒューリ様!)」


 筆頭魔術師、ヒューリ・エイベルだけだ。


「一斉に魔法を放たれたら地獄絵図を作ることになっちゃうからね。先に封じさせてもらったよ。……【転移】」

「っ!」


 九割ほどの魔族が【転移】によって飛ばされる。避難のためだ。さすがのヒューリでも全員を避難させるのは無理なことらしい。


「あとはできるね? シン。アストライア」

「っ、当然」

「期待に応えて見せます」


 シンは剣を、アストライアは体に魔力を巡らせる。魔獣との戦闘が始まる。



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