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@otoriwo

第1話 草原の主

 ンメェーー!

 やる気に満ちた羊の声が青空のもと、のどかな草原に響き渡る。


 小さな少女と一匹。

 広々とした草原の真ん中にて、両者は向き合っていた。


 やる気を示すように地面をあしをかく羊の大きさは、小型犬にしては大きく、中型犬にしては小さい。子どものようだが、実はこれで大人だと言う不思議だ。黒い肌に白いふわふわ毛並みに真っ黒な地肌の頭が突き出している。


 その愛らしい顔つきは幼い子どもが抱き抱えているマスコット人形と言っても過言ではない愛嬌があるが、今はフンスフンスと息巻いて白いもこもこから突き出したコーギーのように短い足を闘争心のあふれんばかりにかわいく地面をかいている。


 向かい合うは、まだ幼い子供のような少女。黄金に染まった稲穂のようなボブカットの髪に、深緑の真珠のような瞳が特徴的で、傍目からでも整った顔立ちがわかる。


 西洋の牧歌的な、でもおしゃれな格好に身を包んだ少女は、見るからに手作りと思われる、ガラクタを継ぎはぎした盾のようなものを腰を落として身構える。


 子どもの身の丈を覆い隠すほどそれは大きく、みすぼらしく、何より心許ない。


 たが、少女の瞳には何か確信めいた輝きーー目の前の強敵を撃ち倒さんとばかりの強い意志が宿っていた。


 その様子はさながらーー小動物と小動物が天下の雌雄を決し合うように見えた。


 ーーいざ、尋常に


 ーー勝負!


 愛くるしくて悶えたくなるような雄叫びを上げながら、小柄な羊は猛然と少女へと突っ込んでいく。


 対し、少女は廃材を拾い集めて作った『対羊用盾くん3号』を構え、マスコットがしてはいけない形相をした宿敵を見据える。

 彼女はこれまで二敗してきた。

 かれこれ三度目の挑戦。今度こそは打ち勝ってみせるーーそう確固たる意志を備えて、迫り来る白い強敵に盾を構える。

 交錯は一瞬。


 持ち手を軸に裏返るような衝撃ーー気づけば砕け散った盾と共に身体が宙に舞っていた。

 

 自分の口から溢れる悲鳴。わずかな浮遊感の後、惑星の重力が少女の体を慈悲なくしっかり掴む。


 結果、訳のわからない強い衝撃。

 掠れゆく意識の中、 『ンンメェーーーー!』と天高く勝利の雄叫びがどこからともなく響き渡った。

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