㊴無人島生活8日目05▶ ねえ? 別に男女じゃなくったっていいわよねぇ!? ねえ!?


 私はハラハラして、ハーマンとミーシャの様子をソファから眺める。


 ハーマンは非常に厳しく真面目な表情で何かを語っている。

 ミーシャの顔が、どんどん青くなっていく……。


 「ェェ……」


 ハーマン! どういう教え方してんの!?



 しばらくすると、青い顔をして涙ぐんだミーシャがフラつきながら帰ってきて、ソファに座り、顔を覆った。



「アーシャにそんな酷いことできない……」



「ハーマン!! 何を教えた!?」

「――真実を。ただ、それだけです」



「プハッ……」

 横で吹き出すなドミニクス!! 何がおかしいんだよ!!


 世界の真実(?)を知ってしまったミーシャが再起不能になっている。

 ……ショックだったか。

 まあショックだよね!



「僕は……動物とか、単純にじゃれあって仲良しなんだなって……そっか……」


 うああああああ!!!



「ミーシャ殿下、大丈夫ですか」

「すこし……時間が欲しい、かも」


「兄上は衝撃を受けていらっしゃる。兄上の精神(こころ)をお守りするためだ。しかたないな、やはり、オレとするか、アナスタシア」

 ドミニクスが真顔でまたこちらを向いて言った。

 

「するわけないでしょ!? 殴るわよ!?」

「それは駄目だ!!」


 私とミーシャが同時に避難の声をあげる。


「もういや……」

 私は俯いて顔を両手で覆った。


「アーシャ、大丈夫?」

 ミーシャが背中を撫でてくれた。


「大丈夫だよ、ありがとう。ミーシャも今はショックだよね、無理しないで」

「あ、いや……僕はだ、大丈夫だよ……」

 珍しくどもった。大丈夫じゃなさそうだ。


 ああもう、なんて会話よ。

 なんでこんな会話してるの!?


 コニングはさっきから黙って色々思案しているようだ。

 真面目に考えてくれてるのコニングだけじゃん!!


 まったく、他の方法を考えようっていってるのにどうしてこんな流れに……ん? 他の方法……そうだ……。



「ねえ……」

 私は顔をあげて、薄笑みを浮かべた。


「どうしました? アナスタシア様」

「なんだ、その気持ち悪い笑みは」


「ねえ、別に同性同士でも……いいんじゃないの? ……ふ、ふふふ」


「あ、アーシャ!? ど、どうしたの? 顔がこわいよ!?」

 ミーシャが怯えた。


「アナスタシア様!? その発想は危険です!!」


「ハーマン……さっきからお前、真面目に考えてはいるんだろうけど、私とミーシャの気持ちを考えないことばっか言いやがって……あんた昨日私に酷いこと言い過ぎたとか反省してたんじゃないの? 大体、危険ってさぁ、お前が危険感じてるだけだよね? そういうの私とミーシャに強要しようとしてたよね? ……さいってー」


「う!?」

 ハーマンが固まった。震えているように見える。どうした。


「アナスタシア! 貴様、何を考えている……!?」

 ここにきてドミニクスが初めて怯えた表情を見せた。


「うるさい、もとはと言えば、お前が、押すなっていうスイッチを押そうとしたのが悪い。おまえが責任をとれ。……ハーマンとな」


「「まさか」」


「そのまさかだよ。ほら、お前ら頑張ってこいよ……まさか私達に強要しておいて、自分たちは嫌だとか言わないよね……」

 私はクイっと親指で、ヒロインベッドを指さした。 

 

「……い、いえ、もともとオレ達は恋仲というわけではありませんし」

「そうだぞ、アナスタシア。お前と兄上は将来を結婚するから別にいいだろって事で……!」


「言い訳はいい……ほら、じゃんけんでもなんでもいいから、どっちがどっちやるか決めなさいよ。ここであった事は口外しないから。出血大サービスで闇魔法で帳(とばり)も降ろしてやんよ……むしろ見たくないしなー。コニングに頼めば風魔法で音も消せるんじゃね? 完璧じゃん。抱きえあ。」


 最後別の言葉言おうとしたんだけど、舌がもつれたわ。



「どっちが」

「どっち……って」

「さあ……さあ! さあ!!」

 私は鬼のような顔で二人を追い詰める。


「あ、あーしゃあああああ。なんか変だよ! 瞳のハイライト消えてるよ!? もとのアーシャに戻って……っ」

 ミーシャが膝を折って私の腰のあたりに抱きついて泣いている。

 すまないな坊主、これは負けられない戦いなんだ。


「……っ」

「す」


「「すいませんでした!!! 許してください!!」」


 二人は土下座した。私は勝った。


「……ふん、わかったら、他の方法を真面目に考えてよね……」


 ……と、長い茶番が終わった所で、コニングが叫んだ。


「それですよ! アナスタシア様!」

「はい?」


「男女同士でなくても良い……つまり、もっと飛躍して考えれば、僕達じゃなくてもいいんじゃないですか?」

「……ほう?」

「僕達じゃなくてもいい?」

 ミーシャが涙を拭きながらコニングに問う。


 コニングが手をパン、として合わせ、爽やかな笑顔で言った。


「虫を探しましょうよ。ほら、外もある程度スペースがあって茂みもあります。きっと何かしら虫が見つかりますよ。だから、オスとメスを捕まえてお見合いさせましょう」


 ――その笑顔は、他のメンバーからは後光がさしているかのように、見えた。


「お、おおおお」

 男泣きするハーマン。


「コニング、お前ってやつは……まったく」

 感動したようにフ……と笑うドミニクス。


「本当に、本当に生まれてきてくれてありがとう!! コニング!!」

「良いアイデアだね。すごいね、コニング」

 私とミーシャが拍手する。



 そして、その和やかになった雰囲気のまま外へ出た私達は――血眼で虫を探した。


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