⑱無人島生活6日目01■ 条件あるとはいえ、もうそれ千里眼じゃないですかね。


 はい、パターン入りました。

 朝起きたらミーシャの顔が私の胸の谷間に突っ込んでいる。


 ……窒息しないの? これ。

 しかし、これそのうち注意しないとな。


 本人は脱幼児しようと思ってるみたいだし、ならば私も紳士的対応をお願いせねばならない。


 というか前世でもこういうのは、叱らないと本人のためにならないって前母が言ってた。

 

 ……あ、そうだ。

 今日はハーマンが来るし、紳士的な教育って彼にしてもらえばいいんじゃないだろうか。

 多分私がやるより絶対良い。

 ミーシャはハーマンは嫌いだろうけど、勉強なら応じるかもしれない。



「え……いやだよ」

 ミーシャに話したらやはり拒否られた。しかし。


「じゃあ、いつまでもその子供のままでいる?」

「う……」




 ミーシャはフォークでバナナを刺して口に咥えたままもぐもぐ。

「………わかっひゃ…」

「ふふ、覚える事いっぱいあると思うよ。私じゃできない同性同士の楽しい話もできるかも?」

「ふうーん?」


 あまり反応は良くない。


「でもとりあえずハーマン様が引き受けてくださるかどうかもあるし、とりあえずそうなったら一回だけでもハーマン様と交流もってみて」

「うーん……アーシャがそう言うなら……」





※※※





 約束の時間に、ハーマンと洗濯物干場で落ち合う。


「ごきげんよう、ハーマン様」

「おはようございます、エルヴェスタム公爵令嬢」

 綺麗な姿勢とその挨拶だ。


「アナスタシアで良いですよ」

「では、アナスタシア様」

「……それでハーマン様、こちらの少年……いえ、御方なんですが――」



 ――ミーシャの素性を明かすと、ハーマン様はその場にひれ伏した。

 

「確かにその神鳥は……!! これは、数々のご無礼を……! しかし、生きていらっしゃったとは……!!」

 ハーマン様が涙したので、ミーシャは少し戸惑った顔をした。


「お兄さん、どうして泣いてるの」

「お、お兄さんなどと! ハーマン、と呼び捨ててください! ああ、これで王国は安泰だ……! 私が必ず王国へお連れ致します……!!」


 あ、やべえ。しまった。

 ミーシャのここに残りたいという選択肢が……と思ったが、遅かれ早かれこうなっただろうな……。


「ええ……。僕まだ王国帰るとは、はっきり決めてないんだけど」

「ハーマン様、ジェフェリー殿下は、ひょっとしたらここに残られるかもしれません。あなたにも思う所があるかもしれませんが、殿下の御心に従ってくださいませ」

 

「なんと……。……とりあえず承りました」

 話が平行線になる、と察したのだろう。引き下がった。


 まともになったハーマン様、賢しいな。

 さすが攻略対象、もともとの人間としてのスペック高そう。


「ジェフェリー殿下って呼ばないで。僕の名前はミーシャだ。アーシャもだよ。あと……普通に喋って」

 ミーシャが言った。


「……わかったよ。ミーシャ。

 ハーマン様、不敬だとは思わずくだけた喋り方をお願いします。ミーシャにはまだそれが必要ですので。私もこれより、平民寄りの会話をさせていただきますわ」

「……承りました。では失礼ながらミーシャ殿下とこれからは呼ばせて頂きます」


「それでいいよ、ハーマン様。ね、ミーシャ」

「うん、そっちがいい。ほんとは殿下もいらないけどね」




 草っぱらに三人で座り込む。


 話を聞くと、ハーマンはまだサンディ達とは遭遇していないらしい。


「オレも、昨日その話を聞いてあの後、少し散策してみたんですが、その二人は見つけられなかったですよ。どこにいらっしゃるのやら……」


「アーシャ、嫌な人たちなのに、会いたいの?」


「位置は把握しておきたいのよね。それに脱出できる算段が立てば……いやだけど連れて行かないわけにもいかないし。国の捜索隊が来てくれたらいいんだけど、ミーシャが十年以上発見されてないことを考えるとこのあたりは探しに来ないかも知れない」


「僕は人に会ったの、アーシャが初めてだよ。

 んと、アーシャが知りたいならケモノたちに聞いて、その人たち探してあげるよ」


 ……島中探せるくらい、いっぱいケモノをテイムしてるのかな。

 もうそれ、一種の千里眼に近くない?

 ある意味ちょっと怖いな。

 たとえばこの島でミーシャから逃げようと思ってもすぐ見つかるってことだな……。


「ミーシャっていつも島じゅう見てるの?」

「いつもじゃないよ。疲れるもの」

 まあ、流石にそうだよね。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る