⑪無人島生活4日目02★ あなたは将来の王様だよ……って私? あ、はい、王妃教育は修了しておりますが、一身上の都合によりちょっと


 お風呂に入って就寝時間、約束通り絵本を読む。

 王子様がお姫様を助けて最後はキスしてハッピーエンド的な王道なやつだった。


 ミーシャは、たまに目を閉じて聞いたりして、嬉しそうだった。


「人に読んでもらうってなんか新鮮だなぁ」

「一般的な家庭だと寝る前に親が読んでくれたりするところもあるみたいだよ」

「いいなぁ。あ、でも今はアーシャが読んでくれるもんね」

「ふふ」

 頭撫で撫でする。ニコニコ喜んでるミーシャ可愛い。



「さてと寝ようか――ん!?」

 おやすみのキスして寝かしつけようと顔を近づけたら、ミーシャが位置をずらして唇を近づけてきた。

 私は、その頬を両手で掴んでストップをかけた。


「ストーーーーップ!!」

「え、なんで?」

「いや。だって。唇はダメでございます」

「だってこの絵本だと、好き同士は唇でキスす」

「それは好きの種類が違うんですのよ!?」


「好きの、種類……?」

「そうそう。唇はこの絵本の二人みたいに、恋人同士がするキスなのよ。あとは結婚した夫婦とか婚約者、かなぁ」

「お姉さんと僕って、好き同士だけどそういうのじゃないの?」

「恋人じゃないね。お姉さんは、君を自分の子供とか頼りがいのある仲間のように思ってるよ」


 そういえば私、まだ婚約中だった。忘れてたけど。

 うわー思い出しちゃった。やだなー。


「仲間……こども……そっか」

 ぽふ、とゴザの上にミーシャは倒れた。


「どうかした?」

「僕ってそっか、子供……なんだね」


 ん、どうした。傷ついたのか。子供という言葉に。

 それとも身体は大人なのに心は子供のままだということを認識してしまったかな?


 私もついでにポフ、と横になった。


「島にずっといたからね。大人がいなかったのだもの。子供のままでも当たり前だと思うよ。……正直島にずっと住むなら今のままでも良いって、お姉さんは思うよ」

 私はミーシャの肩を優しくぽんぽんした。


「島を出るなら?」

「少し大人の喋り方を覚えないといけないかも? ……そうだ」


 良い機会だ。出生の話をしよう。




「ミーシャ。ミーシャの家、お姉さん知ってるの」

「えっ」

「ミーシャのお父さんとお母さんのことも知ってる。黙ってたわけじゃないんだけど、今までどう言おうかなって実は話せなかったんだ、ごめんね」


「……ううん」

「一度に話すのは難しいから……これから少しずつ、話していくね。君の家の話はとても複雑なんだ」


 私はまず、彼の本当の名前を教え、国王様と王妃様の名前を教えた。そして弟王子がいることも。


「君はね、私の国の王子様なんだよ。事故にあって国じゅうの人に死んだと思われてる」


「……どうしてお姉さんは僕が王子だってわかったの?」

「それはね、君は王妃様によく似てる。そして何より、鳥さんの存在。鳥さんがいる王子様はね、次の王様になるべき子なんだよ」


「僕が……。お姉さん、よく知ってるんだね」

「うん、私、実はね。君の弟……ドミニクス殿下の婚約者なんだ」


 ミーシャの顔が固まった。


「え……」

「君がいなかったから、今はドミニクス殿下が次の王様になる予定なの。そしてその婚約者の私は次の王妃の予定だったんだけど……。ドミニクス殿下には他に好きな女の子ができちゃってね。私を婚約者からはずすって話をしてた所で、私達の船はタコの魔物に襲われちゃって、海に投げ出されて……いま、うやむやな所かな」


「お姉さんは、僕の弟の事……す、好きなの?」

「ん? ここだけの話だよ? 大嫌い」

 私は内緒だよ、という感じでしーっと言った。


「嫌いなんだ。結婚したくないのに婚約してるの?」

「できるならしたくない。でも王命で決まってるから、私にはどうにもできないんだ」

「そっか、弟と結婚したくないんだ」

 ミーシャがほっこり笑顔になった。……な、なんだ。


「えーっと、だから逃げようと思ってたんだ。どこか遠い国へ。なのに遭難して今はここにいる。そして君みたいな大きな拾い物をしちゃって悩んでる」

 私はミーシャに素直に伝える。

 そう、これ以上懐かれないためにも。


「僕が悩み?」


「そう……ミーシャ。君を見つけた以上、王宮へ送り届けなきゃいけない義務があるから……でもそうすると、お姉さんは多分逃げられなくなるの。だからちょっと困るんだ、でもね、君が望むなら頑張って連れて行くよ」

 苦笑気味に伝えた。


 王様と王妃様があのヒロインに懐柔されなかった場合、彼らは私を絶対正妃にする。


 そしてあのヒロインが第二王妃とかになるだろう。そうしたら……国の仕事全部私がやらされて、あの二人は遊び呆けるだろう。

 そんなポジション、嫌過ぎる。

 

 そして王様たちまでもし、懐柔されたら今度は死刑になる可能性まで出てくる。

 私は倒されるべき悪役令嬢だもの。


「そして、その逆に……君が望むなら、このままここに置いていってもいい。あの二人を私がこの島から連れ出せば、きっと君は見つからないで、ここで今まで通り幸せに」

「それは嫌だ」

 ミーシャはきっぱりと言った。


「ねえ、お姉さん。その王妃教育ってお姉さんだけが受けてるの?」

「え? うん」

「じゃあ、僕が王宮に帰って次の王様になるなら、お姉さんは僕のお嫁さんになるの?」


 ……あ。

 考えたこともなかった!


 そうだ、年齢的にそれも有り得る。

 いまから王妃教育できる高位貴族令嬢……いないわけじゃないけれど、コスト的にはそれが一番スマートだ。

 ミーシャは賢いとはいえ、帰ってから教育するのに時間かかるだろうし。

 そうなると全て教育が終了している私は王家にとってとても都合が良い……。うわあ!


 ……う。

 私はいまから起こる会話が私にとって非常に不都合になりそうだと感じて動悸がしてきた。

 

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