⑥無人島生活2日目02● いくらイケメンだったとしても、やはり腰ミノはやめてほしい派です。

「え? 他にも人がいるの?」

「うん」


 お昼。

 樹の家に帰って昼食をとっている時に、あいつらの話をミーシャにした。

 私が、その人たちに好かれていないってことも。

 場合によってはミーシャに危害を加えるかもしれない、とも。


「えええ、怖いなあ」

「とにかく、その二人が何か言ってきても、信じちゃだめだよ」


 そんな事いう私も昨日出会ったばっかりで、信用もなんもないんだけども。

 少なくとも、第二王子のほうが、神鳥連れてる第一王子と仲良くできるわけがない。

 彼が王宮に戻れば、確実に王太子の地位はミーシャに移る。

 それだけ神鳥の存在は大きい。


「うん、お姉さんがそういうなら」

 にっこり笑って良いお返事。良い子だ……!!


 そして、漂流物を見に行きたい、という話をする。


「ああ、それなら。ご飯の後でいこうよ。一番よく流れ着く場所知ってるから」

「ミーシャは頼りになる男の子だねぇ」

「えへへ! まかせてー。この島のことなら知り尽くしてるよ!」

 島民ガイド強い!



※※※


「お姉さん、こっちだよ」

 まるで、エスコートされるみたいに、手を引いて、海岸の岩場を降りる。


「ミーシャ、私、こんな岩場へっちゃらだから手を引かなくても大丈夫だよ」


「あ……そか、わかった」

 ミーシャはなんとなく自分の手をじっと見た。

 記憶がないけれど、子供とはいえ王子だったのなら、エスコートの経験があるはずだ。

 その記憶にない昔の習慣から出たのかもしれない。

 自分でも不思議なのかもね。


 ミーシャに連れて行ってもらった海岸は、思った通り色々落ちてた。

「うわぁ、結構落ちてるね……お!」


 やった! 旅行用のトランクが落ちてる!

 衣類が手に入る予感!


「おねえさん、欲しい物あった?」

 ミーシャはびしょびしょになってる本を拾い上げてる。

 乾かして読めるかな?

 本当に本が好きなんだね。


「うん、多分。あまり長居したくないから、さっさと行こう。ミーシャはそれだけでいい?」

「うん」


 トランクを最初にミーシャと出会った滝壺の傍で開ける。

 トランクデザイン的に男物かな?、と思ったらビンゴだった。


 襟シャツに、シャツ、ズボンが何点か。掘り出し物だよ!!

 背丈のある男性のものだったのか、サイズもゆったりしている。

 ついでに、タオルや手鏡にブラシ……旅行カバンにたいてい入ってそうなものが詰まってた!

 個人的には石鹸が入ってるのは超嬉しかった!

 ……お風呂、つくりたいなぁ。


 私は魔力で闇を浮かべてそこから数本、腕を出す。

 その腕を使って、じゃぶじゃぶ洗濯した。


「わ!? お姉さんなにそれ!!」

「びっくりしたよね。お姉さん闇属性なの。こうやって闇の球を浮かべてねー。手出したりして自分の手の代わりに使ったりできるんだよ~」

「すごーい! おもしろーい」


 魔力を温存したいときは素手で洗濯するけどね。

 今日はそんな必要もなさそうだから。じゃぶじゃぶ。


「ミーシャ、君の着替えが手に入ってお姉さんは嬉しい」

「え、でもそれはお姉さんが着てよ。僕はこのままでも」

「だめ」

「え」


「お 願 い だ か ら 着 て」


 頼むから脱腰ミノしてくれ……!! 少なくとも私といる間だけでも!!

 衣類はたくさん入ってたから私もいくつかは使わせてもらうけれども、まずはお前だ!!


 しばらくすると、服は結構早く乾いたから、早速シャツとズボンを着せてみる。


「ん……動きにくいなぁ。でも肌触りはいいね。えへへ」

 そう言って微笑んで、髪をかき上げるミーシャ。


 う。

 ………やばい、これは、かっこいい。


 しまった、これ。

 あの腹黒ヒロインが見たら、絶対落としにくるぞ……。


 いや、そもそもこの子は攻略対象なのかな?

 この世界の基盤となってる乙女ゲームを私は知らない。

 知らないけど、なんとなくピンときたんだよね。これ、乙女ゲームの世界だって。

 だから自分は悪役令嬢だと思ったし、やっぱり断罪イベントも来たし。


 だから、前世で色々プレイしたり本で読んだ経験から、こういう子って隠しルート、隠しキャラなのかも……、とピンとくるのだ。

 それに第一王子だしな。


 「……」


もし、ヒロインがこの子を落としたとしたら……。

 学園であったことを思い出して、ちょっと心が沈んだ。


 いわゆる攻略対象たちは、ヒロインがやってくるまでは、普通に知り合いもしくは友人だった。

 なのに、彼女がやってきてからは、私を憎むかのように見てくるようになった。

 悪役令嬢だからしかたないのとは思いつつも、傷つかないわけではなかった。


 この子がそうなったら……この純朴な瞳に憎悪を浮かべるようになってしまったら、私は立ち直れないかもしれない。


 でも、それでも、この子が攻略対象だったとしたなら、この子はヒロインのもの、なんだよね。

 それなら、ヒロインからこの子を隠そうとするならやはり私は悪役令嬢だ。


 ……私はこの世界での必要悪。倒されるべき役回りなんだ。

 忘れる所だった……自分の立場、しっかり覚えておかないとね。

 その為に逃げる準備してたんだから。


 でも、あのヒロインのせいで、この子の瞳が曇るのは嫌だ、という気持ちは消せる気がしなかった。



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