008 第一回イベント
あれから買い物を済ませて自室へと戻ってくると、俺はさっそくモニター画面からイベントに参加する。
登録自体は一分もかからなかった。
そうして俺は一先ず靴を脱ぐと、買ってきた物を広げる。
まずは大きなリュックサック。
イベントがどれだけ長期間行われるか分からないので、今回は背負っていく。
頬袋はある程度の大きさなら収納出来るとはいえ、限界がある。
食料やサバイバル道具などを、リュックサックに詰めていく。
また木剣は頬袋ではなく、腰に差すことにした。
ダンジョンで手に入れたピンクパルチザンは強いが、肉体的女性相手には弱体化してしまう。
それを考えると、まだ必要だった。
ちなみに、現在の頬袋の収納具合はこのようになっている。
左
・激臭の水鉄砲
・男殺しのピンクパルチザン(携帯用)
・【空き】
右
・尻穴爆竹の串の束(18本)
・小さなバック
・ぬるぬるすっきりポーション
基本的に、無くすと困る装備品を入れている。
それと戦闘中に取り出しやすいという利点もあった。
リュックサックなどに入れてしまうと、戦闘中に取り出すのは困難だろう。
加えて大抵の敵はまさか口から取り出すとは思っていないので、不意をつくことができる。
また一つ空きがあるのは、当然わざとだ。
手に入れた貴重品などをしまうために、毎回一つは空けることにしている。
小さなバッグには、主に小物や鑑定メガネなどのアイテムを入れてある感じだ。
仮にリュックサックを無くしても、しばらくはどうにかなるだろう。
そんな感じで、イベントへの準備は早々に終わった。
イベントの内容が不明なので、これ以上はどうしようもない。
モニター画面から掲示板サイトに移動して情報収集をしてみるが、詳しいことは分からなかった。
プレイヤーたちは、イベントの考察や状況によっては臨時パーティを組むようなことが書かれている。
あとは誰が優勝しそうだとか、仮に優勝したら何を願うかなどで盛り上がっているようだった。
この世界に来て一週間ほどだが、トップ勢は既に現れている。
最初こそ美男美女やひょうきん者が注目されたが、その人気も下火状態だ。
やはりこの世界では、
加えて、その個人の強さも重要だ。
中には、本当に同じ人間なのかと思うような超人もいる。
今の状況を考えると、地球に隠れた超人がいたとしても、おかしくはないのかもしれない。
普通の人間は、ゴブリンの頭部を握りつぶすことは出来ないからな。
何度か動画を見たが、まともに戦って勝てる相手ではなかった。
イベントでは、そうした相手と戦闘にならないことを祈るしかない。
それに俺が知らないだけで、未知の力を使う超人はもっといる可能性がある。
なので俺は、無難にイベントを乗り切ることを目標にした。
それなりの成績を残せば、それなりの物が貰えるかもしれない。
何よりも、俺もそろそろ普通のダンジョンに挑みたかった。
流石にイベントなら、狂ったダンジョンなどにはならないだろう。
普通のゴブリンと戦闘するのが、今の俺の夢である。悲しい。
断じて、男色ゴブリンとはもう戦いたくない。
あれは、精神的にくるものがある。
そうして俺はその後、他のプレイヤーのダンジョン探索動画を見たり、公共の訓練場で軽く汗を流したりした。
◆
翌日目が覚めてからは、ダンジョンに行くことは当然控えて、その時を待つ。
既に昼食は済ませており、イベント開始まで残り数分というところ。
始まれば自動的に参加者は移動するとのことなので、準備万端で待機している。
この日のために、昨日の稼ぎはかなり吹き飛んだ。
せめて、何か良い装備が手に入るといいのだが。
緊張と高揚感に包まれる中、とうとうその時が来る。
俺の視界は一瞬切り替わり、気が付けばいつもの巨大なガチャガチャのある神殿にいた。
そして周囲には、俺以外に五人の男女がいる。
もしかして、この人たちとパーティを組む感じだろうか?
俺はそんなことを考えていると、どこからともなく女性の声が聞こえてくる。
『選ばれし六人のプレイヤーよ。まずは一人ずつダンジョンの鍵を手に入れてください』
詳しい説明はなく、そう指示された。
周囲が困惑する中、一人の十代半ばの少年がガチャガチャの前に出る。
「よく分からないが、とりあえずガチャを回せって事だろ? なら、俺が一番な!」
そしてガチャガチャを回して、出てきたカプセルから銅の鍵を取り出す。
『おめでとう!【草原のダンジョン】の鍵を手に入れた!』
どうやら少年は、オーソドックスな草原のダンジョンを当てたようだった。
ものすごく、うらやましい。
草原のダンジョンは文字通り草原エリアのダンジョンで、見晴らしがよく初心者向けだ。
俺がそんなことを思っている間に、他のプレイヤーが順番にガチャを回していく。
『おめでとう!【果樹園のダンジョン】の鍵を手に入れた!』
『おめでとう!【洞窟のダンジョン】の鍵を手に入れた!』
『おめでとう!【砂浜のダンジョン】の鍵を手に入れた!』
『おめでとう!【山のダンジョン】の鍵を手に入れた!』
出てきたのは、有名なダンジョンが多い。
特に果樹園のダンジョンは、美味しいフルーツがたくさん実っているので当たりである。
ちなみに同じ名称のダンジョンでも、構造や現れる敵、手に入るアイテムが違う事が多い。
そうして俺の番が回って来たわけだが、嫌な予感しかしなかった。
本当に、俺が回さないといけないのだろうか……。
いや、逆にみんな普通のダンジョンを引いたのだから、俺だけ変なのではないはず。
出ないよな?
周囲の視線がまだ回さないかと訴えかけてきているので、俺は渋々ガチャを回す。
頼む、普通のこい! 普通のこい!
そして出てきたカプセルを開けて銅の鍵を取り出すと、ダンジョン名が通達される。
『おめでとう!【ロリコンと鏡の森ダンジョン】の鍵を手に入れた!』
「は……?」
俺の想いは虚しくも、裏切られた。
「え? ロリコン?」
「なにそれ?」
「どう見てもハズレだろ……」
「うわっ……」
「もしかしてこいつ……」
俺が望んで引いたわけじゃないのに、周囲の目は冷たい。
つい最近まで、同じような視線で見られたのを思い出す。
だから、引きたくなかったのに……。
『ダンジョンが出そろいました。待機中のプレイヤーは、この中から一つ選択して下さい。10分以内に選ばれなかった場合、人数の少ないダンジョンへと振り分けられます。
なお鍵を手に入れたプレイヤーは、自動的にその鍵のダンジョンへと行くことになります』
そして追い打ちをかけるように、俺はこの狂った名称のダンジョンに行くことが決定してしまう。
果樹園のダンジョンに行きたかった……。
どうやら他のプレイヤーは、この中から行きたいダンジョンを選べるらしい。
つまりここにいる六人は、そのダンジョンを引く代表だった訳だ。
そんな代表に、なぜ俺が……? どう考えても確率がおかしい。
宝くじに当たるようなものだ。
行きたくない。
というか、このダンジョンを選ぶやつがいるのか?
……やばい、一人だけ来そうな人物に心当たりがあるのだが……。
それは、俺の数少ない友人である幼精紳士ペロロさんだ。
名前の通りの人物である。
何が起きるか分からないし、ダンジョンで出会ったら助け合うか。
いや、俺のせいでトラウマを植え付けてしまったし、難しいかもしれない。
とりあえず、会った場合に声だけでもかけよう。
俺がそんなことを考えている間に、時間がやって来る。
『プレイヤーの振り分けが完了しました。プレイヤーはまず特定の時間まで生き延びてください。これより移動を開始ます』
俺は何となく説明が雑だなと思いながら、暗い表情のままその場から転移した。
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