005 ボス戦

 今俺の目の前には巨大な扉があり、開かれている。


 またダンジョンに入る際と同様に、虹色に光る膜があった。


 これを突き抜けることで、ボスエリアに行くことができる。


 ボスはダンジョンに出現するモンスターの強化版が多く、単独と群れを成している場合があった。


 前者は単独なのでその分強く、後者でもある程度は強くなっている。


 俺の場合ソロなので、どちらかといえば前者の方が楽だった。


 強化されているといっても、場違いに強いわけでは無い。


 それよりも、数で一気に攻められる方がまずかった。


 フィクションのように都合よく、一体ずつ攻撃してくることはありえない。


 複数の方向から同時に攻撃されれば、避けることは困難だろう。


 しかし一応このダンジョンでは複数の男色ゴブリンを相手にした経験があるので、群れでも何とかなるはずだ。


 俺は右手にピンクパルチザン、左手に激臭の水鉄砲を装備している。


 入場後には、臨機応変に武器を使用する予定だ。


「よし、そろそろいくか」


 何時までもこうしている訳にもいかないので、俺はボスエリアへと足を踏み入れる。


 さて、何が出てくるか。


「ごぶ!」

「ごぶあっ!」

「ごぶぶぅ!」


 するとさっそく、目の前に三体のゴブリンが現れた。


「うわっ……このパターンかよ」


 予想した質か量ではなく、その中間。


 現れたのはピンクパルチザンを手に入れた部屋にいた中ボス、二槍男色ゴブリンが三体だった。


 俺としては、一番遭遇したくないパターンである。


 あの部屋で勝てたのは、不意打ちだったからだ。


 二槍男色ゴブリンが三体となれば、それも難しい。


 だが、それでもやるしかなかった。


 負ければ、死ぬよりも辛い目に遭う。


 俺はそう考えると、出会い頭に激臭の水鉄砲を三体に向けて放つ。


 一体目は見事に画面に命中したが、二体目は腕でガード、三体目には避けられてしまう。


 すると一体目は転げまわり、二体目は怯む。


 しかし、回避に成功した三体目は俺に向って駆けてくる。


 どう考えてもまともに相手をすれば、実力差でやられてしまうのは目に見えていた。


 俺は槍の素人で、相手は見るからに熟練者である。


 即座に激臭の水鉄砲を放つが、全て回避された。


 まずい。


 そしてもうすぐ俺へと手が届きそうな位置に来たとき、俺は策に出る。


 まず激臭の水鉄砲を放つと、当然避けられてしまう。

 

 だが、その直後避けた位置に向ってピンクパルチザンを投擲した。


 相手は俺が武器を手放すとは思ってもいなかったのか、ぎょっとする。


 しかしそれでも俺の放ったピンクパルチザンは、相手の槍で弾かれてしまう。


 けれども、そこまでは予想通りだった。


「ごぶぁ!?」


 気が付けば、二槍男色ゴブリンは足元のヘドロに足をすくわれて転倒する。


 投擲したピンクパルチザンは、あくまで視界をさえぎる手段の一つでしかない。


 俺はチャンスとばかりに二槍男色ゴブリンに近づくと、尻穴爆竹の串を取り出して相手の尻に突き刺した。


 それと同時に、俺はピンクパルチザンを拾って出来るだけ距離を取る。


 また二体目の二槍男色ゴブリンも、丁度追いついてきた時だった。


「うわっ!?」

「ぎぶぎゃああああ!?」

「ぐぶぐぶば!!!」

「ごぶっー!?」


 ボスエリアで尻穴爆竹の串が爆発して、三体目の二槍男色ゴブリンが爆散する。


 そして近くにいた二体目の二槍男色ゴブリンも巻き込まれて、瀕死の重傷だ。


 ちなみに一体目の二槍ゴブリンは、未だ顔面のヘドロを落とすことに注視していたため距離もあって無傷だが、突然の爆発音に驚愕きょうがくしていた。


 俺も爆風を少し浴びて怯んだが、特に怪我はない。


 それよりも、このチャンスを生かす方が重要だ。


 「ごばっ!?」


 まずは、瀕死の状態である二槍男色ゴブリンに止めを刺す。 


 次に一体目の二槍男色ゴブリンに攻撃を仕掛けるが、なんと俺の槍が弾かれてしまった。


 顔に付着したヘドロを落とすことを諦め、心眼で対処してきたのである。


 俺のピンクパルチザンは、俺の腕から飛ばされて地面に落ちてしまう。


 それに手応えを感じたのか、二槍男色ゴブリンが笑みを浮かべた。


 しかし、彼の奮闘ふんとうもここまでだ。


 俺は激臭の水鉄砲を放つ。


 それも残った弾数の全てだ。


 二槍男色ゴブリンは、その連弾を防げない。


 これで視力が回復することは、しばらく無いだろう。


 同時に激臭で、鼻も潰した。


 部屋中にヘドロ臭が充満して、俺も涙目で嗅覚がダメになる。


 だがしかし、ここからどうしたものか。


 こんな状態になっても、相手は音を頼りに俺を突き刺してくるだろう。


 それを理解しているのか、相手は完全にカウンター狙いである。


 槍の間合いに入った瞬間、やられることが何となく分かった。


 俺がピンクパルチザンを拾いに行っても、二槍男色ゴブリンは動こうとしない。


 完全に硬直状態になった。


 ちなみに弾切れになった激臭の水鉄砲は、既にしまっている。


 ヘドロの臭いの残ったこれを口に入れるのは抵抗があったが、その場に捨てて何かの拍子に壊れるよりはましだった。 


 また時間経過でヘドロは消えるので、実は俺の方がピンチである。


 勢いに任せて全弾発射したのは、失敗だったかもしれない。


 尻穴爆竹の串はまだ残っているが、そんな隙はあるはずが無かった。


 これは、万事休すだろうか?


 ……いや、一つだけ方法がある。


 だが、それは男として何かを失うことだった。


 くそっ、ここまで来てやられるよりはましか。


 俺は覚悟を決めて、準備を始めた。


 必要な道具であるぬるぬるすっきりポーションと、尻穴爆竹の串を取り出す。


 そしてズボンと下着を脱ぐと、効果を期待してぬるぬるすっきりポーションをどことは言わないが、中に注入した。



 最悪最悪最悪最悪最悪最悪最悪最悪最悪最悪最悪最悪。


 涙が出てくる。


 だが、ここで止めるわけにはいかない。


 一度軽く深呼吸をして覚悟を決めると、続いて尻穴爆竹の串をそこに刺した。


「――――ッ!!」


 声は死ぬ気で抑える。


 そして爆発する前に引き抜くと、二槍男色ゴブリンの間合いギリギリに投擲した。


 俺はこの状態でも何とか地面に置いていたピンクパルチザンを拾って、距離を取る。


 「ごぶ?」


 二槍男色ゴブリンは、何が起きたか分かっていないようだった。


 しかし、直後に爆発が起きる。


「ごぶぁああああ!?」

「うぅ!」


 結果として二槍男色ゴブリンは、爆発に巻き込まれて吹き飛んだ。


 この隙を見逃せば、後は無い。


 俺はぬるぬるすっきりポーションを投げ捨てると、力を振り絞り下半身裸のまま二槍男色ゴブリンに駆ける。


 そして二槍男色ゴブリンが立ち上がる前に、ピンクパルチザンを突き刺した。


 しかしそれと同時に、二槍男色ゴブリンは最後のあがきにをする。


「ご、ごぶ……ごぶぅ!」

「……はっ?」


 手放していなかった槍一本を、俺の腹部へと突き刺す。


 俺はそれを避けることが出来なかった。 


「マジ……かよ……」

「ごぶぶ……」


 二槍男色ゴブリンは、ざまあみろといった風に笑みを浮かべると消え去る。


 それはつまり、俺の腹部に刺さっていた槍も同様だ。


「くっそ……」


 槍が無くなったことで、俺の腹部から血が溢れ出した。

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