転生なんかクソくらえ
ツクリ オチヒト
プロローグ
「あ……」
私の喉から掠れた声が漏れた。
寝そべる私の足元に倒れている彼の背中からドクドクと赤い血が溢れている。それは撥水加工されたジャンパーの上を滑って私の脚に滴り落ち、まだ生暖かさを残した気持ちの悪い感覚を皮膚の上にじわじわと広げていった。
「いや……いやぁあぁぁぁぁぁ!!!」
私は喉が張り裂けんばかりに絶叫する。頭の中は自身の悲鳴の反響と現実への激甚な拒絶でぐちゃぐちゃに塗りつぶされ、数秒の間私を前後不覚の混迷状態に陥れた。
しかし、私の脚に滴る彼の血は生ぬるい感覚をどんどんと大きく、また鮮明にし、その主張を強めていく。現実が、否認することすらも許さない酷薄さで私に迫る。まるで今までもそうしてきたことを再認識させるかのように。
「なんで……なんでこんなことするのっ!?」
私は血まみれの彼の後ろに佇む影に向かって金切り声をあげた。そしてこの時私は初めてその人物の顔を視認する。直後、私は呼吸の仕方を忘れた。
次に私の頭の中を支配したのはありとあらゆる意味あるものの奔流だった。今まで積み重ねてきたものが一瞬のうちに壊乱して、それを構成していた要素が嵐の中で摩擦と衝突を繰り返す――そんな強烈な無秩序。
その中から今、ひとつの意味あるものを取りだすのに、私はどれほどの時間を費やしたのだろう。それが声になったのはほとんど勢い余った思考のせいであり、私の意思とは無関係だった。
「先、生……?」
そこには何もかもが変わり果てた先生が立っていた。目はしっかりと私を見据えているが、その奥には人間としてあるべきものがぽっかりと欠落しているように見える。
自身の口から出た言葉を頭の中で反芻し、ついに全貌を見せたあまりにもおぞましい真実の嚥下を試みる。しかし、それはとても容易なことではなかった。
「どう……して……?」
やっとの思いで捻りだしたその言葉は現実に対する否認の標榜だった。私にはそうすることでしか均衡を失った理性を保ち続けることができなかった。
だが、その辛うじて踏みとどまった理性が真っ先に私に告げたのは、自らの死を覚悟せよというどこまでも無慈悲な現実との示し合わせだった。
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