22話 怪しい者は一ヶ所に
3人は問題を解決するために、もう1度森へ入ろうとエルフの案内役を待っていた。
しばしすると、1人のエルフが姿を見せ、ペコリと頭を下げる。レンカだ。
怪しき人物を一まとめにしたいという思惑があり、案内役兼見張りとして、彼女が選ばれていた。
そのことには当の本人であるレンカだけでなく、ローランたちも気づいていたが、敢えて口にしたりはしない。話を聞くにしても都合が良い相手だなと思っていた。
4人は森の中を進む。先日戦闘となった焼け跡を目指しつつ、黒鎧と魔獣を警戒しながら。
しかし、今日の森は静寂に包まれていた。魔獣に襲われることなく進んでいると、レンカが恐る恐る口を開く。
「あの、マーシーさん?」
「マーシーでいいよー」
「じゃあ、マーシーちゃん。その鞄たまに動いてるけど、なにが入ってるの?」
マーシーは見た目こそ少女のような麗しさを秘めているが、性別としては男。 「ちゃん」付けされることへ複雑な表情を浮かべながら、レンカの問いへ答えた。
「ボク、オラトリオなんだよね。だから鞄の中には翼が入ってるよ」
「へぇーオラトリオかぁ。すごいなぁ。あの、ちょっとだけ見てもいい?」
「いいけど、ちゃん付けはやめてくれる? ボク、男だからさ」
「えっ」
思わず声を上げたのはアリーヌだ。彼女も、マーシーが男だということを知らなかったらしい。マーシーからジロリと睨まれ、自分の口を手で押さえていた。
レンカは鞄から開放された翼へ触れ、顔をふにゃっと綻ばせる。印象通りにおっとりとした女性らしい。
いくら精神的に大人びているとはいえ、数歳しか違わない女性2人に可愛がられるのは、気恥ずかしさが勝ってしまうのだろう。マーシーは逃げるようにローランの隣へ移動した。
ローランは新たに手にした偽の聖剣を握っては放している。旅立つ前に握りだけは鍛冶師と確認をしてあったのだが、手に吸いつくような感触に、驚きと快感を覚えていた。
僅か数ヶ月。だが、まだ16歳のローランにとっては長い数ヶ月。
自分の実力が上がって来ているからこそ、この剣の凄さを肌身に感じていた。
「新しい剣、気に入ったみたいじゃん」
マーシーに小声で言われ、ローランは微かに顔を和らげて頷く。
「これは聖剣メルクーアとして扱われる。素晴らしい剣なのに、名を与えられないことを残念に思ってしまう」
万が一にも名前を間違えるわけにはいかない。だから、別の名前は付けられない。
この不遇な名剣が、ローランは
元々使っていた剣は、見た目を戻してマーシーへ譲ることになっている。彼も男の子らしく剣を習ってみたいという気持ちがあり、ローランへ師事することが決まっていた。
仲が良さそうな2人を見て、スススッとアリーヌが近づいて来る。それに気づいた瞬間、ローランの顔から柔らかさは消えた。
あわあわとしているアリーヌに気づき、レンカは躊躇いながら聞く。
「もしかして、お2人はあまり仲が良くなかったりしますか……?」
「良くはないが悪くもない。好きか嫌いかで言えば、どちらかと言えば嫌いだ」
ローランはこの数ヶ月で気持ちが落ち着いたこともあり、アリーヌのことを嫌ってはいない。どちらかと言えば、という部分にそれが現わされている。
聞き逃さなかったアリーヌがにへにへ笑っているのを見て、レンカはポンと手を打った。
「お2人は仲がいいんですね」
それを聞いたローランは、とても嫌そうな顔を見せた。
何事もなく現地へ到着し、一行は焼けた森を調べ始める。
すでに鎮火しているが、炭化した木々や黒く染まった大地が、その威力を物語っていた。
ローランは、レンカに問う。
「エルフの中で炎の魔法を扱える者はどれだけいるんだ?」
「簡単なものならばほとんどの人が使えますが、これだけの威力だと数人です。ワタシもその1人ですね」
苦笑いを浮かべるレンカを、ローランは気の毒に思ったりしない。彼からすれば、彼女も容疑者の一人に変わりはない。
「誰に炎の魔法を?」
「両親にですね。これからの時代、どんな魔法でも使えたほうがいいと教えられました」
「では、ご両親も容疑者になるな」
「それはないです。両親は、もう亡くなってるので」
ローランは手を止め、深々と頭を下げた。
「……すまない。嫌なことを思い出させてしまった」
「いえいえ、全然大丈夫ですよ」
気にしないでくださいと、レンカは両手を体の前で振る。
「ワタシには、兄がいましたからね」
それは不思議な答えだった。2人は考えの違いから対立している。なのに、レンカの優し気な顔からは、そういった感情が見えない。
レンカは少しだけ悲しそうに言う。
「両親が死んでから、兄は変わってしまいました。魔族との戦いに狩り出され、利用
されて死んだのだと。前はそんなじゃなくて、もっとエルフも他種族との交流を深めなければならないと言っていたのに……」
言い終わったところで、レンカは驚いた表情で自分の口元を押さえる。
「いえ、なんでもないです。忘れてください」
態度から察するに口が滑ってしまったということだろう。そして、そういった特異な能力を持っている存在がここにはいる。マーシーだ。
もちろん本人に聞き出そうなどという考えはない。マーシーは少しだけ気まずそうな顔を浮かべていた。
空気を変えようと、ローランが口を開く。
「調査を続けましょう。我々の仕事は問題の解決ですからね」
全員が頷き、調査を再開した。
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