50-1(第二十四番 第一幕 第五場)
夜。
天に輝く数多の星々。
青い月光に包まれたキャピュレット邸。
大理石の広間。
辺りを照らす松明の篝火。
香り、飾られる花々。
仮面を付けた客人の大群。
鳴り響く旅芸人の催し。
銅鑼が打たれ、響く。
仮面を付けたキャピュレット、夫人、ティボルト、ジュリエット、ホールに入場。
キャピュレット
「こんばんは、皆さん。遠くはるばる、ようこそお越しくださった。足にマメができて踊れないとは言わせません。さあ、音楽だ! 音楽を鳴らせ!」
奏でられる木管、金管、弦楽器たちの音。
影を打ち消し、燃え盛る千本の蝋燭。
悪魔、広間に登場。
悪魔
「さてさて、大勢の人間がいるな。争いの火種はそこかしこにある。俺が歩けばすぐにでも音楽は罵詈雑言に打って変わり、照らす炎は人焼き殺す火事場となろう。さあ、あのお嬢さんがどう立ち回るつもりなのか、とくと見せてもらい、失敗する様を飯の種とさせてもらおう」
パリス、広間に登場。
キャピュレット
「おお、パリス伯爵、よくぞいらした。ジュリエット、こちらへ。彼がパリス伯爵。大公の縁戚にあたる由緒あるお方だ。パリス伯爵、こんな娘でもよければ、少しくらいお相手してあげてください」
パリス、無垢な白いドレスと白い仮面に身を包んでいる。
ジュリエット、ドレスの裾を持って、頭を下げる。
ジュリエット
「パリス伯爵、初めまして。ですが、私はすでにあなたの名を聞き及んでおります。それはもうどこからでも見ることができる、今夜の月のように」
パリス
「これは光栄ですね。これほどの美人から、そう言ってもらえるとは。ですが、月は時に夜の闇に隠れる恥ずかしがり屋。私はもっと大公のよう、堂々たりたいと望んでいるのですよ」
ジュリエット
「それは大変失礼いたしました。そばにある光が強いとその影に、自身が霞んでしまうそのお気持ち、大層お察します。私の父も、ティボルトも、燃える火のごとく、熱く眩しく、近づくものを全て燃やしかねないほどですから」
パリス
「あなたような可憐な花は、枯れてしまうかもしれませんね。強い者のそばというのは、いるだけで背筋を伸ばさせる、冷めた嫌いが確かにある」
ジュリエット
「背負った荷の重さを、共に減らせるよう努めましょう。それに今宵の月は満月です。パリス伯爵、今日だけは、何にも負けず、世界を照らす一番の星。このヴェローナで、是非そうあって欲しいと願っています」
パリス
「ありがとう。月を照らす太陽に、あなたがなってくれたなら、それも叶おうというもの。いかがです? ひとつ一緒に踊りませんか?」
ジュリエット
「ごめんなさい、お気持ちは大変嬉しいのですが、私には先約がありまして……」
パリス
「それは残念だ。あなたと約束した人はさぞ……ん? 何か向こうが騒がしいですね?」
ティボルト、キャピュレットのもとへと駆け寄る。
ティボルト
「あれは奴の声、モンタギューに違いない。(近くの給仕に向かって)おい、俺の剣を持ってこい。あんな変な仮面を着けやがって、俺たちの祝宴を馬鹿にしに来たのか? 今ここで一族の名誉にかけて叩き殺してやる。神も罪には問わんだろう」
キャピュレット
「なんだ、一体。何をそんなに荒れてるんだ」
ティボルト
「叔父上、憎っくきモンタギューが来ているんです」
キャピュレット
「それは息子のロミオか?」
ティボルト
「そうです、あのロミオです」
キャピュレット
「紳士然としていろ。そんなのは放っておけ。今のところ大人しくしているんだろう?」
ティボルト
「敵がいるんですよ? この家の中に! 許せませんよ!」
キャピュレット
「許すんだよ、いいか、私の客人の前で騒ぐんじゃない」
ジュリエット
「(パリスに向かい)ここで失礼いたします。お話出来て光栄でした。(キャピュレットに向いて)お父様! お話があります」
キャピュレット
「何だ、私は今、取り込んでいる最中だ。見れば分かるだろう?」
ジュリエット
「その件で、口を出させていただきます」
キャピュレット
「これは私とティボルト、それに向こう見ずな仇の息子の問題だ。子女が口を挟む余地はない」
ジュリエット
「いいえ、余地は作らせていただきました」
キャピュレット
「作ったと? 過去に物申す、持って回った物言いだな。一体何を言っておる?」
仮面を被った巡礼服の男、現れる。
また、その後ろに連なる幾人もの仮面の者たち。
巡礼服の男、片膝をつく。
ロミオ
「キャピュレット氏にご挨拶を申し上げます。私の名は、ロミオ・モンタギュー。モンタギュー家の一人息子です」
ティボルト
「貴様、どういうつもりでここに来た! お前なんぞ、お呼びでないぞ! その小汚い役者然とした立ち回り、不愉快千万、仮面を外せ、それがここでの礼儀だろう!」
ロミオ、仮面を外す。
後ろに立つ他の者も仮面を外す。
その顔、モンタギュー、その夫人、ベンヴォーリオ、マーキューシオ、
その他、モンタギュー家の人々。
キャピュレット
「お前! モンタギュー! 息子だけならいざ知らず、何故お前がここにいるのだ!」
モンタギュー
「聞きたいのはこっちの方だ。一体どういうつもりであの招待状を寄越したのか? まさか、この程度の披露宴を見せびらかしたかったわけではあるまい?」
キャピュレット
「招待状? お前らなんぞにそんなものを送るわけがあるかね。今日は大事な娘のお披露目なのだ。お前らの腐った眼球に、娘を映してなるものか」
マーキューシオ
「おうおう、酷い言いようだな、あの御仁は? あの面から生まれた娘の顔なんざ、たかが知れているにも関わらず。きっと道端に咲く雑草の方が綺麗だろうさ。今日が仮面舞踏会の理由もそれなんだろう? 大事なお顔を衆目に晒さずに済むようにってなわけさ。親心が実に沁みるね」
ロミオ
「黙っていろ、マーキューシオ。キャピュレット氏、父さん、招待状は正式に彼女から貰ったものだ(ジュリエットを指差す)。我々モンタギュー家は正当に招待を受けている」
ジュリエット、仮面を外す。
ジュリエット
「お父様、勝手ながら私が、彼とその家族、モンタギュー家を招待いたしました」
キャピュレット
「お前が、招待した? 何故? 何故そんな愚かなことを?」
ジュリエット
「愚か? 一体何が愚かなんです? 隣人を私のお披露目にお呼びしただけです」
キャピュレット
「お前を誰に披露するかは、俺が決めるのだ。お前ではない」
ジュリエット
「……私が私をどうしようかは、私の自由です」
キャピュレット
「ああ、どうしてこんな反抗的な娘になってしまったのか。おい、お前のせいじゃないのか? お前が本ばかり与えるからこうなったのだ」
夫人
「まあ、あなたが言ったんでしょう? 物を知らない女が嫌いだと。言われるがままに私はやった通りです。文句を言うなら、乳母でしょう」
キャピュレット
「乳母はここにいないだろうが? 俺は文句を言いたいだけだ」
モンタギュー
「馬鹿馬鹿しい。家族の喧嘩は、見えないところでやってくれ。一家の恥を躊躇なく人に見せられる辺り、あんたらのお株が知れると言うものだ。
さあ、帰るぞ、ロミオ。お前の口車に乗ってわざわざここまで来たが、何の意味もない。帰ったら仕置きが必要だな」
キャピュレット
「そうだ! 早くその汚い足を我が家からどかすんだ! 俺の我慢が限界を迎えないうちにな」
ロミオ
「待ってください、父さん! 何も彼女のお披露目にわざわざ来たんじゃないんですよ。それだけだったら、街中でだって彼女を見つけられる。あれだけの美しい花なんだ。ヴェローナの街を歩いていれば、否応にも目に入る」
マーキューシオ
「(笑い声)何を言ってんだ、ロミオ、さっき仮面を外したばかりの女だぜ? もう心を撃ち抜かれたとでも言うのか? 錫銅なみの貧弱さだな」
ロミオ
「いいや、僕の心は、すでに鋼以上の覚悟だよ。そのために今夜、みんなを連れてきたんだから。そうだろう? ジュリエット」
悪魔「……何だ? 何故、すでにロミオがジュリエットを知っているんだ……? ああ! そんな、まさか……仮死薬か! 前回の遡り、奴はアレを飲んだ! 記憶が残ったまま、時を遡ったのか! しまった! 今ここに、二人いる! 記憶を持ったまま、遡った人間が!」
ジュリエット
「ええ、ロミオ。来てくれて、ありがとう」
ロミオ
「約束しただろう、絶対に再び君に会いに行くと」
ジュリエット
「信じていました」
キャピュレット
「ジュリエット、一体何を言っているんだ?」
ジュリエット
「お父様、大事なお話があります。私は今ここで、両家の憎しみを解き、両家の和解を是非、結びたいと考えています」
キャピュレット、ジュリエットを平手打ちする。
夫人
「あなた!」
ロミオ
「ジュリエット!(ジュリエットの前に出て、キャピュレットに対峙する)」
キャピュレット
「一体、さっきから何様のつもりだ。何の権限でそんな妄言を宣っている? 我がキャピュレット家とモンタギュー家は憎しみ合う運命! それを貴様みたいな小娘がどうやって? 出来るのであれば、とうの昔にやっていよう」
ジュリエット
「出来ます。でも、それは苦しい道のりです。だから誰もやらなかった! すでに理由も定かでない不毛な憎しみに、身を委ねるのが楽だから。だから、誰もやらなかった! でも……私たちには出来ます」
キャピュレット
「私たち、だと?」
ジュリエット
「ええ、ここで私は宣言します。私、ジュリエット・キャピュレットは、ロミオ・モンタギューを愛しており、生涯を共にすることを誓います!」
音楽と人々のざわめきが消え、静寂となる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます