47(第二十四番 第一幕 第一場の一)

 早朝。

 紫色の地平線

 中庭に様々な花を讃えたキャピュレット邸。

 二階に張り出した大理石のバルコニー。

 その先の寝室。

 窓を突き抜ける白い陽光。

 輝くレースに覆われた寝台。

 そこに眠るジュリエット。

 そばに座る悪魔。


悪魔

「おはよう、ジュリエット」

ジュリエット

「(目を覚まし、身体を起こす)とんでもない、とんでもない夢」

悪魔

「夢?」

ジュリエット

「いいえ、なんでもない。それにあなたとは口を聞きたくない」

悪魔

「酷い言い草だ。誰のおかげでやり直しのチャンスが出来ていると思っているんだ」

ジュリエット

「お願いだから、少し喋らないでいただけない? 

(傍白)しかし、今見た夢は何だったのかしら……見たことも聞いたこともない世界のお話。でも、そこで起こったことは知っていた。あれは、私たちの物語でもあった……過ぎ去りし過去の物語、もしくは途方もない未来の物語、そのどちらかは分からない。だけど、ハッキリしていることもある。人の争いが延々と続くこと。そんなものをまざまざと見せつけられて、どうしろと言うの? 人々が争い続ける中で、私が幸せになれると思って? ああ、分かっている。本当は心のどこかで分かっていたのだ。そう、私だけでは幸せになれない、ということを。

 でも、それじゃあ私に一体何が出来るの? ……ああ、ああ、そういうことなの? 私自身が為すべきことは……今回のために前回の犠牲があるのだとしたら……そうか、そういうことだったのか……」

悪魔

「何をごちゃごちゃと言っているんです? 良いですか? 今回こそはきっと上手くやるんですよ。マンチュア以外に駆け落ちするんです。流行病のないところに行けば、きっと大丈夫。二人できっと幸せになれる。ああ、でも一応ね、私もお側に置かせていただきますがね」

ジュリエット

「……ええ、そうね、どうぞご自由に。それでもいいかもしれない。でも、ちょっと考えがある」

悪魔

「考え? いいですよ、どうぞ聞かせていただきましょう」

ジュリエット

「その、私が、あなたとの契約を破棄したいと言ったら、どうなるの?」

悪魔

「……ははあ、これはこれは、そうきましたか。破棄は出来ますよ。でもね、破棄したら、この遡りが最後の一回になります。あなたはもう何も取り返せない」

ジュリエット

「これで死んだら、終わりってこと?」

悪魔

「ええ、そうです。だから、お勧めはしません」

ジュリエット

「そう……でも、それをしたいと思う」

悪魔

「……あなたのためを思って進言いたしますが、それはおやめください」

ジュリエット

「(傍白)ああ、そう、確かに怖い! この一回が最後だと思うと……失敗すればやり直せば良いと思っていた。けど、それではいけないのでしょう! 彼を、悪魔を、追い出さなくてはいけない! 私にそれが出来て? あの手紙の主に乗せられているのではなくて? 私にそんなことをするだけの度胸があって?

 でも、私は選ばれた。自然の理を外れた時の遡りに。上手く使いこなすことも出来なかった私が、最後の一回で、一体どうして出来ると言い切れるのか! いや違う、私はもう一人じゃない。だから、きっと、大丈夫。

(悪魔を向いて)ええ、実行する。契約を破棄します」

悪魔

「ははは、これでお前は終わりだ! 契約はたった今、不可逆的に破棄された。もう泣いても元には戻らない! 俺はお前のためを思って、手を尽くして来たと言うのに」

ジュリエット

「結構です。私にはもう一人、相談できる人がいますので、どうぞ席を外していただいて結構です」

悪魔

「相談出来る人! お笑い草だ。お前に味方はいない! 俺がいなければお前は何も出来なかった!」

ジュリエット

「遡りの機会をくれたことには、本当に感謝しています」

悪魔

「ふざけるな! 絶対にその選択を後悔させてやる!」


 悪魔、部屋を出ていく。


ジュリエット

「怒らせてしまった。でも、仕方ない。人生は常に一度きり、それが本来の姿。でも最後に、私にはやるべきことがある。さあ、確か朝のこの時間くらいだったはず。お父様が使者を出していたのは」


 ジュリエット、バルコニーに出る。


ジュリエット

「どこにいるかな。あ、あれね。ねえ、そこの使者さん、ちょっと待ってちょうだい」

使者

「はい、何でございましょう? お嬢様」

ジュリエット

「あなたが今手に持っているものは、今晩の仮面舞踏会の招待状ではなくて?」

使者

「ええ、そうです。旦那様から今さっき言いつかったものですよ」

ジュリエット

「ちょうどよかった。少し待っていてもらえる?」


 ジュリエット、部屋に戻り、手紙をしたためる。

 そして、バルコニーに戻る。


ジュリエット

「さあ、これを受け取って(手紙を階下の使者に放り投げる)。そして、お父様の招待状と合わせて、その手紙も届けてちょうだい」

使者

「へいへい、お嬢様のご依頼とあれば、間違いは冒ますまい」

ジュリエット

「ええ、何卒頼みます」


 使者、その場から立ち去る。

 ジュリエット、部屋から出ていく。

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