30(第二十三番 第三幕 第四場の一)

 ジュリエットの寝室。

 差し込まれる鈍色の朝日。

 遠くから聞こえる風に揺れる木々の葉音。

 ベッドの上に横たわるジュリエット。

 そばの丸椅子に腰掛けて、眠っている乳母。

 少し離れたゆり椅子に腰掛けて、本を読んでいる悪魔。

 ジュリエット、目を覚まし、ゆっくりと身体を起こす。


ジュリエット

「……朝。目覚めの悪い朝が、また来たのね……」


 悪魔、そっと本をテーブルに置く。


乳母

「お嬢様、起きられましたか?」


 乳母、立ち上がる。


ジュリエット

「ばあや、昨日の夜、私は一体どうしたんだっけ……?」

乳母

「昨晩、お嬢様はあのお二人とお話ししている最中に、気を失ってしまったんです。それで、あのマーキューシオ、ベンヴォーリオ、バルサザーの三人が、お嬢様をこの部屋まで運んでくれたんです」

ジュリエット

「ああ、そうだった、ロミオが……ああ、こんなに悪い夢があって? あともう少しだった。なのに死んだ……。でも、あのモンタギュー家の三人が私を運んだの?」

乳母

「ええ、そうです。夜も遅い時間でしたから、皆寝静まり、腰の悪い私一人では荷が重く、運んでもらった次第です」

ジュリエット

「そう、それは感謝すべきね……」

乳母

「さあ、お手を。お召し物が昨日のままですから」


 乳母、手を差し出す。

 ジュリエット、手をとって、ベッドから立ち上がる。

 悪魔、目を背ける。

 ジュリエットの懐から、手紙が落ちる。

 手に取るジュリエット。


乳母

「あら、それは?」

ジュリエット

「(傍白)表書きがある? 悪魔に気をつけろ?(ばあやに向かって)ああ、ばあや、着替えは一人で出来るから、大丈夫、下がってちょうだい」

乳母

「いえ、でも……だいぶお疲れのご様子ですし、本当に大丈夫ですか?」

ジュリエット

「ええ、大丈夫だから(悪魔の様子を伺いながら)」

乳母

「それでは失礼します。何かあればすぐにお呼びください」

ジュリエット

「ええ、ありがとう。(乳母、寝室から退場。悪魔に向かって)さあ、うら若い少女が着替えるのだから、あなたも席を外してちょうだい(手紙を後ろ手に持ちながら)」

悪魔

「何を今さら。あなたの死に際ですら、何度も見ている私だと言うのに」

ジュリエット

「そうね、でも私にだって恥じらいがあります。言うことを聞いていただけない? 紳士的な悪魔としてのお手本を見せてくださいな」

悪魔

「悪魔に礼節を説くとは滑稽な、しかし、褒められるのも悪くない。いいでしょう、バルコニーに出てましょう」


 悪魔、バルコニーに出ていく。


ジュリエット

「(傍白)ああ、危なかった。この手紙の存在には気付いていなさそう。でも、一体この手紙は何? 私の服の間に差し込まれていたこの手紙は……。いつどこで私のもとに? 昨日の夜、おそらく気絶をしたあの時に違いない。でも誰が? 何のために? 表書きには悪魔に気を付けろの一言。中身を早く確認しなくては(手紙を開封する)。

 ああ、なんてこと! ここにはたったの三行だけ。

 ひとつ、悪魔のいるところに争いがあること。

 ひとつ、悪魔を追い払う必要があること。

 ひとつ、何があっても今日の午後、必ず教会にくること。

 それ以上の説明は何もない! さっぱり意味が分からない、何? 争いの原因は悪魔にあるというの? 争いのあるところに悪魔がいるのではなくて? でもあれが私に遡りの機会をくれたのよ? それに今日の午後に教会に来い……ああ、ダメだ、分からない。ぼんやりしている時間はない。早く着替えを!」


 ジュリエット、着替える。

 遠くから、調子外れの鐘の音が聞こえてくる。

 バルコニーから顔を出す悪魔。


悪魔

「あれはロミオの訃報を鳴らす鐘。どうするんです、ジュリエット?」

ジュリエット

「(傍白)手紙の真意は分からない。でも、私の遡りを知っている何者かがいる。何かを伝えようとしている。私は自分自身で考えなくてはいけない。(悪魔に向かって)モンタギュー家の霊廟に行ってみましょう」


 ジュリエット、着替えを終え、寝室を出ていく。

 悪魔もそれに着いていき、両者、去る。

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