26(第二十三番 第一幕 第一場の一)
早朝。
曇天の空。
中庭で幾人もの従者たちが働いている。
二階に張り出した大理石のバルコニー。
その先の薄暗い寝室。
レースに覆われた寝台。
そばに座る悪魔。
ジュリエット、目を覚まし、身体を起こす。
悪魔
「おはようございます、ジュリエット」
ジュリエット
「……おはよう」
悪魔
「大丈夫ですか?」
ジュリエット
「大丈夫なわけ、ないじゃない……おしまいよ、何もかも。何もしなくてもあの結果なのよ? あまりにも、酷い。ティボルトもマーキューシオも、大馬鹿野郎のくそったれよ。何のためにロミオに会わなかったのか。まるで意味がない。むしろ、より悪くなっていたくらい。どうしてこんなにも愚かなの……」
悪魔
「ははは、それが人間というものです」
ジュリエット
「笑えないわ。でも、もういいの。仕方がない。これが運命であるのであれば、受け入れるしかない」
悪魔
「どうするんです?」
ジュリエット
「どうもしないわ。今晩、仮面舞踏会でロミオと出会って、明日結婚するだけよ」
悪魔
「それは何回もやったのでは?」
ジュリエット
「結婚したら、その場で別れるわ」
悪魔
「ですが、それだと……」
ジュリエット
「分かってるわよ。ロミオ達とティボルトが鉢合わせるって言うんでしょう。もういいのよ。男同士で喧嘩でも諍いでもやってちょうだい。ティボルトとマーキューシオがどうなろうが、知ったことではないわ。どうしたって、あの二人は誰かを傷付けずにはいられないのだから」
悪魔
「確かにそれが当初通りの筋書きですからね、まあそういう方法もあるでしょう」
ジュリエット
「誰も彼もを傷付けずに幸せになろうだなんて、わがままな考えだったのよ。全てを思い通りにしようだなんて、傲慢以外の何物でもない。私はロミオと幸せに生きていく。それだけを考えてやっていくわ。
ああ、卵を焼く匂いがする。食欲はないけれども、お腹は空くのね。朝ごはんを食べに下に降りましょう」
ジュリエット、部屋を出ていく。
悪魔
「確かに誰かの犠牲が必要だとは言ったが、こうなるとは……いやはや幾度もの死線を潜り抜けると、可憐な少女もかくも苛烈な淑女となるのだな。これは勉強になった。
だが一点、懸念が残る。先の遡り、ジュリエットが死ぬ間際、私の耳にはロミオがジュリエットの名を叫んだように思われたが気のせいだろうか? 特段、ジュリエットも口にしなかったので、気が付いていないものと思われるが……しかしあの時、ロミオは初めてジュリエットに出会ったはずだ。だから、その名は知らなかった。だが、俺の耳には名前を呼んだように聞こえた。これは一体どういうことなのだ?
もし、もしもだ、俺の最悪の予想が当たれば、これはもう戦争になる。人間どもの運命をかけた戦争。天のお方のその手下、〝天使〟が、この事態を動かそうとしているやもしれない。それも自身の都合の良いように。そんなこと、俺は絶対に許さないぞ。今に見ていろ」
悪魔、部屋を出ていく。
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