機兵戦記 -傭兵機団の姫と帝国の日嗣皇子-

星羽昴

第1話 傭兵部隊

 ジークフリード型A級重甲機兵。

 全高17メートルの巨大な人型ロボットであり、そのコントロールは2名の操縦者が搭乗して行う。

 コントロールユニットは機体の運動を制御、スーパーバイザーユニットはハードウェアの機構全般を総括すると共に作戦行動の指揮を補佐する。


 Sユニットの操縦席のシートへ身体を沈めて、施錠装置をオン。

 操縦席を保護する装甲板が閉鎖されて、計器やモニターの設置された操縦盤が定位置まで迫ってくる。これで操縦席は完全な密閉状態。

 シートからのびるアタッチメントを、パイロットスーツの腋下えきか部へ接続する。この作業は胸の膨らみが邪魔になるので、女であるのを面倒に感じる瞬間だ。

 接続完了のグリーンランプを確認し、神経接続のスイッチをオンにする。


 ブーン・・・


 脳が軽く揺さぶられるような疑似的な音が響いて後、まるで身体が二重にかさなるような感覚。

 これで巨大ロボットと、わたしの神経組織が同調した。


「Sユニット同調完了。Cユニット、接続して下さい」


「Cユニット接続OK」


 Cユニットに搭乗するCNコードネームカイザーの声が、準備が整ったことを知らせる。


「了解。機体の運動制御をCユニットへ委譲します」


 巨大ロボットの運動神経系をCユニットへ切り替える。運動制御をCユニットに任せたことで、わたしの身体が二重になる感覚はいったん消えた。


ZCFゼクス機構の臨界確認。各部モータへの電流量増加」


 巨大ロボットが唸り上げて動き出す。同時に、発光する微粒子が装甲の隙間から流れ出る。過剰な熱量を光に変換して放出する排熱機構だ。

 ロボットが機械眼球を開いて、それが捉える映像を正面モニターに映す。

 砂塵に半分以上埋まった構造物の瓦礫の向こう側に、展開する敵の機体が確認できた。


「14時25分。これより、作戦開始します!」



 敵・味方総勢で重甲機兵およそ100機が入り乱れた戦い。

 わたしとカイザーはB級重甲騎兵5機を率いて、敵陣左翼を迂回して後方から奇襲する別働隊を指揮する。B級重甲騎兵とは、わたしとカイザーが搭乗するA級重甲機兵の廉価版量産機。悪い言い方をすれば雑兵である。

 奇襲攻撃は見事に成功し、敵陣営のB級重甲機兵は10機が破壊され12機が鹵獲ろかくされたと言う。この戦いは、わたし達の陣営の勝利で終えた。


「16時15分。作戦終了!」


 2時間足らずの戦いだった。

 A級機体1機、B級機体5機のわたし達の部隊は、戦闘終了後に「傭兵としての仕事が完了した」のを確認してから本国へ帰還する。



 都市国家ラインゴルド。都市国家の規模としては決して大きくないが、保有する重甲機兵の数は大国に匹敵する。

 わたし達自身はラインゴルドの正規軍である。しかしラインゴルドが、その戦力を他国へ貸し出すのを主産業にする傭兵国家であるので、わたし達も傭兵が本職とも言える。

 世間ではわたし達を、正規軍でありながらラインゴルド傭兵機団と呼んでいる。


「思いのほか、早く帰国できることになったな」


 カイザーは少なからず嬉しそうだ。そう言えば、先月長女が生まれたと言っていたっけ。カイザーだけではない。部隊の兵士達もみんな帰国できるのを喜んでいる。


「わたしは別に家族とかいないから、ずっと遠征しててもいいんですけどね」


「オルガに呼び出しがかかったんだろう?お前が帰らないでどうするんだ」


 オルガは、わたしのコードネーム。当然ながらカイザーもコードネームである。傭兵と言う仕事柄か、コードネームで呼び合うのが習慣になってる。


「え?わたしですか?」


 本国が、わたしを呼び出した?


「今回、早々と帰国できたのはオルガのおかげだな」


「ありがとうよ、オルガ」


「オルガさん、感謝してます」


 同じ部隊の兵士達から、冷やかしの混じった感謝の言葉が飛ぶ。


「何で、わたしに呼び出しがかかったんですか?」


 ・・・・。


 兵士達は顔を見合わせたが、すぐに沈黙してしまう。この反応は「知らない」のではなく「知らないフリ」だな?

 何やら、ロクでもないことになりそうな予感を感じさせながら、わたし達の部隊は本拠地であるラインゴルド城へ帰還した。

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